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「お世話になります~」


「宜しくッス!」



その民宿は、裏に廃校になった

グランドが自由に使えるとの特典付きで

しかも破格、という理由で毎年我がサッカー部の

合宿に選ばれていた。


こじんまりとした家族経営で、

この書き入れ時、夏真っ只中の避暑地にあって

俺たちだけしか客がいないって大丈夫か?

とは思ったけど、おじさんもおばさんも

とても感じが良く、食べれる分だけ入ればいい

って考え方で経営してるんだと言っていた。


山や近くの川のせいか、

昼間はそれなりに暑いけど、夜になると割と

涼しく過ごせていた。


俺達の合宿は、昼間基礎トレや実践。

夜はフォーメーションとか作戦等の話し合いと

他高校の試合のDVDの検討に当てられていて

文字通りサッカー漬け。


部屋割りは学年毎。


上下関係は厳しいけど、普段見られない

先輩、同級生の意外な行動や交流を

持てる事は、想像以上に楽しかった。







「おーい~今の何で取れない?

もしかしてお前ボール見えてないの?

近眼?遠視?それとも乱視でいくつも見えんの?」


紺里が嫌味混じりで、にこやかにメガホンで言う。


(見えとるわ!)


その日、学年混合でA、B、Cにわかれ

リーグ戦が行われていた。


俺達Aチームは、Bチームを下し

最終戦で近衛達のCチームと対戦していたが、

向こうは近衛・日野先輩の

レギュラーFWツートップがたまたま揃っていて

苦戦どころじゃなかった。


それでも気性の荒い、真っ直ぐな性格の

日野先輩は普段から観察してるから、

なんとなく癖みたいなものが分かって

コースを読みやすいんだけど。


予測不可な近衛とコンビで来られると、

正直お手上げ状態。


何度もネットを揺らされるボールを見て、

クソッと怒りが込み上げてくる。


「お~いいね~根性見せろよ~杠ちゃん~

苦手意識を持つほどお前、まだ余裕ねーだろ~」


ふやふやした監督の物言いに更にムカムカ

してきて、もう後は闇雲に動きまくった。


結果、2-5の惨敗。



表向き日野先輩が

チームを引っ張ってるように見えるけど、

実際ゲームメークをしてるのは近衛だ。


上手く先輩達を誘導し、自ら日野先輩が

動きやすい位置に動いてる。



俺は痛感せざる得なかった。


勿論、自身の才能もあるだろうけど、

それほど鷺我で培われてきた

経験は他とは違うのだと言うことを。


この数年間の俺達の実力の差は歴然だった。





「お風呂サイコー!」


「露天風呂とかここで初めて入ったよ、俺」



風呂から戻る階段横で近衛が電話をしていた。


中村が近寄ると、向こうに行けとばかりに、

手をヒラヒラと振る。


「あれ、絶対彼女だぜ」


「…………」



その時、部屋から聞きなれた着信音が鳴っていた。


「あ、俺だ」


「ユズも彼女か?全くどいつもこいつも」


ケータイを横取りしようとする中村を殴り、

廊下へと出る。



“合宿、頑張ってる?”


“まぁね。男ばっかりで目の保養が無いよ”


“ふふ。そうなんだ”


“明後日、帰ってくるんだよね?

こっち戻ってきたら折角だし、海でも

行かない?”


“え、うん、いいね。

でも部活休みないから行けるかな”


メールを終え、部屋に戻ると

一年皆が集まっていて、何やら

大盛り上がりしていた。

俺も輪に入るべくそっちへ行く。


「何の話?」


「近衛のカノジョの事」


「え……」



「でさぁ、実際どうよ?年上のお姉様は?」


「色々手とり足取り

リードとかしてくれんの?」


皆、興味津々。この年でそっち方面に

関心が無い奴は此処にはいない。


「なぁって」


「そうだな、年上ってのは

気がきいていて、良いな」


「おお~」


「あの先輩、メッチャ色っぽくね?

で、もうヤッたのかよ?」


「それは……お前達の想像に任せる」


「おおおおおおおおおお!!!否定しねー」


その皆の声と言ったら、もう悲鳴に近い何かだ。


隣の部屋から、


「ウッセーぞ!一年!!」


と日野先輩の怒号が聞こえてきた。


「すみませーん」


「ヤベェ」


静かになった瞬間、どこからともなく

ゆる~い感じの着信音が……と中村が、


「お、ついに俺にもメールが!?」


「なになに……」


皆、ノリで一斉に中村のスマホを覗き込む。


“オヘソ出して寝てるとまた風邪引くわよ>母”


皆、一瞬の沈黙の後、大爆笑。


「流石~中村!!期待を裏切らね~~な!」



今度は、日野先輩が直接部屋に怒鳴り込んできた。


「殺されたい奴は前に出ろ!」


もう皆で土下座状態で、こってり一時間は

説教をくらってしまった。


一時間で終わったのは、

まぁまぁ、それくらいで良いだろう?

って、岩倉さんが引取りに来てくれたからだ。


あの日野先輩を引きずって行く岩倉さんの背中に

全員が手を合わせた。


(ありがとうございます。岩倉先輩)






やっと布団を敷いて寝る頃にはもう11時を

まわっていた。


学生の合宿といえば、

定番の大部屋、お決まりの雑魚寝状態。


トイレから帰ってくると皆、いつも適当に

布団に入ってて、今日空いてるところは一個だけ。


まぁ、何処でも全然構わないんだけど。

さて寝ようとしてギョッとした。


げ……今日、隣は近衛かよ。




―――眠れるわけがない。



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