Episode 5: 衝突
──俺は、今回の人事に納得していません──
その言葉が訓練場に響いた瞬間、空気が張り詰めた。
「おいっ!」
拓斗の後ろから、弟の大翔が慌てて声を上げ、拓斗の肩に手を置く。
だが、拓斗はその手を振り払い、真正面から佐々木部長を見据えていた。
佐々木は表情を崩さず、淡々と問いかけた。
「納得いかない理由はなんだ? ……宮城県支部に配属されたことか?」
拓斗は一拍おいて、はっきりと答える。
「…一番理解できないのは、惑星人の人選です。」
その視線が、隣に立つ惑星人の同期たちに向けられた。
視線は鋭く、明らかな“拒絶”がにじんでいる。
実は、私も最初に配属通知を見たとき、驚いたのはそこだった。
惑星人──地球外の惑星で確認された知的生命体。
その大きな違いは、出身者の約30%の確率で「魔法」と呼ばれる特殊能力を持つことにある。
その魔法は、出身惑星によって種類も特性も異なる。
特に魔法の力が強いとされている上位3惑星は、雷を操る木星・氷を操る天皇星・高速移動が可能な彗星とされている。オルビス・コードの現場で活躍する惑星人の多くは、これらの惑星の出身者だ。
だが今、私たちの隣に立つ3人は、正直──戦闘向きとは言いがたい惑星出身者だった。
金星—美と誘惑を象徴する惑星。金星人は、感情・精神に関わる魔法を持つ。医療・カウンセリング分野では活躍しているが、攻撃魔法の例はほぼない。
海王星— 神秘的な青の惑星。海と深淵の力を秘めている。水を操ることができるが、水が存在しなければ発動できない。使用場所に大きく制限がある。
火星— 赤い砂塵が舞う過酷な環境の惑星。使用が確認できている魔法は、土魔法。建築・整地などの土木系作業では信頼されているが、瞬発力や破壊力には欠ける。
このような魔法は、一般的には医療・環境・土木関連の分野で活躍するもの。
戦闘部隊に配属されるのは、ほとんど前例がない。
拓斗が静かに、けれど確かな怒気をこめて言った。
「一般捜査官は、命を懸けて魔法事件に立ち向かう仕事です。
……お荷物を守る余裕なんて、現場にはありません。」
その言葉に、惑星人たちを見る目が少しずつ変わる。
さらに、拓斗が追い討ちをかけた。
「それに……あの3人の中に1人、犯行履歴のある者がいると聞いています。」
一瞬、佐々木は厳しい顔つきをしたが、冷静に答えた。
「警察へ連行歴がある者については、すでに無罪が証明されている。
そして、こいつらが信用できるかどうかは──模擬戦を見ればわかるだろう。」
「……あのさ。」
突然、カイが口を開いた。
「要するに、俺たちが“弱い”って言いたいんだよね? ……合ってる?」
拓斗は黙ったまま、目をそらさない。
「じゃあさ、そこの怒ってる君。俺と、模擬戦しようよ。」
静まり返った空間に、カイの挑発的な言葉が静かに響いた。