Episode3 : 始動
新入隊員4人が揃ってから、5分ほど経った頃だった。
会議室のドアが静かに開き、ひとりの男性が入ってきた。
赤みがかった短い茶髪を後ろに流し、黒縁の眼鏡越しに鋭くも落ち着いた視線を投げかける。
その立ち姿には、どこか軍人らしい潔さが漂っていた。その口元は固く引き締まり、表情があまり変わらなかった。
「この度は、オルビス・コード宮城県仙台支部への配属、おめでとうございます。」
彼は無駄な言葉を一切省き、淡々とした口調で言葉を続けた。
「私は、仙台支部・司令部所属の藤原聡です。これからよろしくお願いします。」
私たち4人は立ち上がって一礼した。
藤原は、間を置かずに話を続ける。
「本日のスケジュールについてお伝えします。
配属通知のメールでもお知らせした通り、これから訓練場へ移動して、模擬戦を行っていただきます。」
全員の表情が一気に引き締まる。
「模擬戦では、戦闘訓練用の魔法ロボットを相手に、それぞれ一対一で戦ってもらいます。仙台支部の現役隊員たちも見学に来る予定です。」
一拍置いて、藤原はさらに続けた。
「皆さんの実力が、ここで評価されます。どうか、力を出し切ってください。」
言い終えた藤原が、眼鏡をクイッと上げながら問いかける。
「では、訓練場へ移動しますが、何か質問はありますか?」
すると、拓斗がゆっくりと手を挙げた。
「1点、質問いいですか。」
「どうぞ。」と、藤原は静かに頷いた。
「今回の人事担当は、誰ですか?採用について、少し確認したいんですが。」
藤原は小さくため息をつき、ぼそっとつぶやいた。
「やはり、そう来ましたか…。」
そして、眼鏡を押し上げながら答える。
「今回の人事は、支部長本人が担当しました。彼も今日、訓練場に顔を出す予定ですので、詳細は直接お聞きください。」
(支部長が……?)
通常、人事採用についての質問は、人事部が答えるはず..。
支部長本人に確認なんて、前代未聞だ。
少し不満そうな表情を浮かべながらも、拓斗は「はい」と一言だけ返した。
「それでは、訓練場へ移動します。私に続いてください。」
長い白い廊下を渡り、エレベーターへと乗り込んだ。
行き先は──地下10階。
静かに動き出すエレベーター。
そして、到着と同時に目の前に現れた光景に、私は思わず息をのんだ。
そこはまるで、サッカースタジアムのような広大な訓練場だった。
模擬戦闘のために設計された空間で、周囲には休憩スペース、さらに上部には観覧席のようなものまである。
藤原は、新入隊員をの訓練場の中央へと案内した。
「これをつけてください。」
手渡されたのは、耳に装着するアクセサリー型デバイス。
惑星人と地球人との意思疎通のために使われる翻訳機能付きイヤーデバイスだった。
ということは──
「まもなく、あなたたちの惑星人の同期が到着します。彼らが揃い次第、模擬戦を開始します。」
その時、背後から声が響いた──。