Episode 1:始まり
「ただいまより、オルビス・コード訓練生、卒業試験の結果を発表する!」
青く澄み渡る空。
そして、満開の桜の下に設置された一枚の大きな掲示板。
その前には、卒業式を終えたスーツ姿の訓練生たちが群がり、自分の名前を探していた。
私、青木美空も、背伸びをしながら自分の名前を追って目を走らせる。
今年の卒業予定者はおよそ100名。
この試験の順位が、配属先や将来的な所属部門の目安になる。
──52位:青木美空
三年間、誰よりも訓練に真摯に向き合い、全力で努力してきたつもりだった。
けれど、それでも私は「平凡」な順位に収まってしまった。
努力が結果に結びつくとは限らない──
自分が決して特別な存在ではないことを改めて突きつけてくる。
小さく息をつき、自分に言い聞かせる。
とりあえず、オルビス・コードへの入隊資格は得られた。
後は配属先の通知を待つだけ。地元を第一希望にしているし、大丈夫……きっと。
「美空〜〜っ!」
聞き慣れた声に振り向く。
そこには、同期の舘内朋佳が立っていた。
「お疲れさま!」
訓練に耐えられずに辞めていった仲間も多い中、朋佳と一緒にここまで来られたのは本当に奇跡だった。
「卒業まで、何とか生き残れたね……。私、マジで美空がいなかったら、心折れてたよ」
「それは、こっちのセリフだって……。三年間、本当にありがとう」
私たちは思わず抱き合い、卒業の喜びを分かち合った。
「美空って、宮城県を配属先の第一希望にしてたんだよね?」
「うん、地元だからね。朋佳はどうしたの?」
「私は東京以外、適当に選択した。もともと、東京本部は避けたくてさ」
「えっ!?朋佳って、お父さんもお兄さんも東京本部にいるから、てっきり行くものかと…」
「あ〜〜、それが逆なんだよね。家族と同じ職場って、いろいろ気を遣うし。
それに、卒業試験の順位もそこまで良くなかったし、希望したって通るかわかんないしさ。」
朋佳の父は、オルビス・コード東京本部の本部長。兄も将来の幹部候補と目されるエリート隊員。
そんな家庭に生まれた朋佳が、地方勤務を選ぶなんて意外だった。
「もしかしたら、美空と一緒に宮城配属かもね?」
朋佳がニヤリと笑う。
「そうなったら、本当に心強いよ~。」
そんな会話を交わしながら、私たちはお世話になった教官や仲間たちに挨拶し、訓練所を後にした。
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「……もう、ここも最後か」
夕暮れの帰り道、寮の前で足を止める。
卒業式の余韻に浸りたい気持ちはあるけど、明日には退去しなければならない。
慌ただしく荷造りを始めるものの、スマホの通知が気になって集中できない。
そろそろ……配属先の発表が来てもおかしくないはず。
──そんな時だった。
「メールが届きました。読み上げますか?」
スマホから聞こえるのは、AIアシスタント、Genieの声。
「……お願い。読み上げて」
「はい、承知いたしました。
タイトル:『オルビス・コード配属先について』
訓練生・青木美空、配属先……宮城県仙台市部」
私は、ほっと胸をなでおろした。
Genieはさらに続ける。
「社員証が添付されております。3Dプリントアウトしますか?」
はい、と返事をする。スマートフォンから光があふれて、社員証がプリントされた。
「宮城県支仙台市部、同期隊員の方々の名前も表示されています。読み上げますか?」
「お願い」
Genieが次々と同期の名前を読み上げる。
──けれど、その内容は予想外の人選。聞き覚えのある名前。思わず疑うような配属情報……。
息を飲みながらリストを聞き続け、私は思わずつぶやいた。
「──えっ?」