月夜の農村③
遂に第一試合、月夜の農村が決着する。
果たして、勝つのは“満月の狂人”アルバート・ハミルトン・フィッシュか。それとも“モンスター・キラー”ヤン・シンハイか
勝負の行方を見逃すな。
場の空気は最高潮に達している。空気の色はヤンの血が原因で少し霞んだ赤に思える。匂いは当然だが血生臭い。正直言って元の閑静な月夜の農村は地獄の血の池地獄にリフォームされていた。そこに立つ、二人の殺気立つ男達、その姿は一人は血のように赤くまるで獣のように呼吸をしている。もう一人は一見すると正装をした男性だか、その顔に浮かぶ表情は怪しくまるでパーティでケーキを目の前に出された子供のような笑顔の奥に潜むのは鯨飲馬食を望む鬼の姿が見える。フィッシュとヤンはどこか自分達が稀に見る興奮していることに気づいていた。
「「・・・・・・・」」
両者は先程の会話から一変して沈黙をしている。この異様さに観戦していた、者たちは戸惑いが隠せないようであった。
大西政寛の控室にて
「あんなに騒いでいたのに沈黙する。人間ましてやキラーズはますますわからん。大西なぜじゃ?」
大西政寛のスポンサーの天照大神が疑問を投げかける。
「わかりますよ。喧嘩というのは場が最高潮の空気になった時に何かビリビリとしたものを全身で感じるようになります。その後はどんな騒がしい喧嘩でも静かに沈黙の空気が広がるのですよ。」
実体化した大西はその疑問に冷静に答える。
「ビリビリ感じるのか。何故じゃろうな?」
「空気が敏感になっているからと加納という男が言っておりました。」
「ふーん。加納ちゃんがね。」
「というか!!天照大神様でもわからないことはあるのですね。全知全能かとおもっておりましたが・・モゴッ」
「神様が全て全知全能だと思うな。」
もみじ饅頭を口に突っ込まれた大西はそのまま美味しい紅葉饅頭を堪能した。
月夜の血の海では、いまだに沈黙が続いていた。沈黙は破ることができない。破ることでそれが最後の戦いのコングを鳴らすことになるからだ。先に行動に移したのはフィッシュであった。
「あの腕、後“5分”で煮えてしまいますね。後“5分”で、あーどうしましょう、あと“5分”で煮えてしまう。」
「・・・・・あぁ」
露骨な独り言であった。後5分で勝負をつけると言う独り言、しかしこの独り言は二人のクライマックスの戦いの火蓋を勢いよく落とした。
「「フッーーーーーー」」
二人の殺人鬼の呼吸が重なる。互いが己の凶器を片手で持ち、フィッシュは包丁をヤンはハンマーをそれぞれ構える。一歩動くと、波紋が広がりお互いが出した波紋がすれ違ってお互いの腿に当たる。あれから血は嵩を増やしている。5分もすればおそらく膝上ほどになるだろう。一歩一歩また一歩、近づいて行く。最初の戦いを一転して、静かな戦いである。そして後4歩で相手の目の前というところになった次の瞬間。
ダバァッ
血の波が勢いよく立った。
「Mr.ヤン!!」
「フィッシュ!!」
「「さっさと死ね!!」」
凶器が変形を始める。どちらもどこか美しいように思えた。
“クレセント・スパイン”
“血膨槌 剛波”
半月の形になった包丁と血の海で膨張したハンマーが轟音を響かせて衝突した。ハンマーが真っ二つに割れる。そのままフィッシュの峰がヤンの腹に当たる。しかしフィッシュの頭に真っ二つになったハンマーが打ち付けられた。二人がふらっと血の海にダイブしそうになった。
「「・・・・がぁ」」
ガッ
二人はギリギリでダイブを回避した
「ほう、あの二人、踏ん張ったのう。」
閻魔大王は二人のキラーズを見て、楽しむように戦いを見ていた。
「しかし二人とも崖っぷちの戦いですね。フィッシュは見ての通り、頭の傷で意識が混濁していますね。しかも完全な致命傷、あと5〜8分の命ですよ。そしてヤンはおそらく腹にうけた衝撃により胃腸がやられたのでは。数時間で死ぬのでは。」
私はこの戦いがあと少しで終わりを迎えると確信していた。
「どちらが勝つかわかりませんね。この勝負。」
神妙な顔で意見してみる、しかし閻魔様は見透かしたように話した。
「いや、わかる、この勝負の勝者は・・・・」
「俺の勝ちだ。フィッシュ。あんたのその頭の傷であんたは奇跡的に生きている。対する俺は胃腸がやられただけだ。数時間は持つ。降参はしないのかい?」
「・・・・」フッ
フィッシュは無言で包丁を構えた。最初の上品なスーツは血と傷でボロボロになっている。持っている包丁は峰から少し歪んでいる。無言で構えるその姿は殺人鬼の姿に降参という言葉はなかった。
「強いな・・・アルバート・ハミルトン・フィッシュ。なら俺も全力を尽くそう。」
ヤンは清々しい気分になっていた、今尚流れるこの欲を制御できているように思った。そのヤンの凶器と血がグルグルと螺旋しながら切り落とされた腕の断面に収縮されていく。ヤンは欲を制御して操っていた。血の海の嵩が腿から足首になった。
“血鋼煉獄拳”
禍々しい腕がヤンの身体についていた。不意にブンッと腕を振る、するとガガガガガガガァァンと轟音を立てて家や畑がひっくり返るほどの衝撃が観客席の目の前まで走ってきた。フィッシュも行動に移す。包丁の切っ先を月に変形させた。
“スレンダー・クレセント”
繊月のような形に切っ先が変形した。無言のフィッシュと混ざり、それは彼を“満月の狂人”呼ばれることに初めて納得してしまった。
「「ふふふ、ハハハハハ、グワハハハハッ!アハハハッ、フハハッ、グフフフフ…!!
ケケケケケ、あははっ、くっくっくっく、ウハハハハハハ!!!」」
フィッシュの沈黙を破るように二人のキラーズは笑い出した。
「フハハッ、グフフフフ…」
笑いが止んだ。それがよーいドンの合図となった。両者再度、己の凶器を掲げて、走り出した。今度は走ったことにより、パシャバシャと血が舞い散っている。もう間合いに入っている。
「「ウォォォォォォォォォ」」
両者叫んだ。走馬灯という過去は見ない。今見るのは自分の動機を肯定してくれるように相手をしてくれる目の前の対戦相手のみだ。
ガァァン
切っ先と拳が思いっきり衝突した、威力は同等で互角である。
ギリギリバギッ
フィッシュの包丁がパッキリと折れた。それがきっかけで両者の体制が崩れた。血の池にダイブしてしまうところであった。ヤンは崩れた体制を再度立ち直そうとしたが、立ち直すことができず倒れる形になった。そしてその先にはフィッシュは上がらない左手にを持ち替えた包丁がある。その包丁は刃ではなく柄尻が向いている。柄尻が満月のように変形する。
“フールムーン・ポンメル”
最後の捻り出した技が胸骨の中心を穿いた。
ボォン
衝撃音が月夜の農村に響いた。フィッシュがヤンを支えるような形で両者固まった。勝負はついた。
観客たちが息を呑む。側から見ればどちらが勝者かわからないからだ。しかし、勝者の狼煙がすぐに上がった。血の池が赤く燃え出したのだ、ヤンの体も同じように燃えていた。
「よぉ、フィッシュ、あんたの勝ちだ。谢谢,我很满意。祝贺你」
「・・・・・」
無言の返事にヤンは満足したのかさらに燃え上がった。ヤンは灰になって消えていた。
「オットーー!!すいません途中から実況を、放置してしまいましたが!!勝負あり!!勝者アルバート・ハミルトン・フィッシュ!!」
ウォォォォォォォォォパチパチパチパチ
観客席から歓声に包まれるなか月夜は明けて行った。
「馬鹿ですかね。Mr.ヤン、私は中国語は詳しくありませんよ。」
朝日を浴びたフィッシュはただ立ち尽くしていた。
第一試合 勝者
アルバート・ハミルトン・フィッシュ
試合時間 27分28秒
決め手 “フールムーン・ポンメル”
「何がフィッシュを勝たせたのでしょうか?」
全てを見透かしていた閻魔様に話を聞いてみた。
決着前
「いや、わかる、この勝負の勝者はフィッシュじゃな。」
時は経ち、現在。
「なぜか?まぁざっくり分けて二つじゃな。まず短期決戦に持ち込んだこと、これによりヤンが追い詰められて大技を出してきた。これで傷が塞がり体内に流れる血液が倍に増えたのじゃろう。これがヤンの死因に絡むのじゃが、これは置いておいて、二つ目の胃腸に破裂させられたことがでかいのう。」
「破裂したことによる痛みで動きが鈍くなったからですかね?」
「それもあるが、フィッシュに気づかれたのじゃ。打撃の技がとても効いていることに。実際失血死しなくとも人の死因など山ほどある。その中でヤンの死因はおそらく心タンポナーデじゃ。」
「心タンポナーデ?」
聞いたことがない言葉だ。
「心タンポナーデ。心臓を囲む心膜と呼ばれる膜の内側に液体が異常に溜まる状態じゃよ。原因は様々じゃが、その中の一つに胸部への強い衝撃がある。そして奴は失血死できないほどの血液を持っていた。」
「まさか自身の大量の血液に心臓が負けてしまったということですか。」
閻魔様に答えを言ってみた。
「正解じゃ。奴の言葉で言うなら欲に溺れ死んだようなものじゃな。」
「なるほど、もう決まっていたと言ったのはそう言うことでしたか、勉強になります。」
「勉強せい。勉強せい。このキラーズ・サクラメントに勝ちたいならな。」
閻魔様はとてもいい笑顔で処刑人の私を見てくれた。こんなにも濃く鋭い勝負だったのにまだ第一試合とはこのキラーズ・サクラメントは深いのかもしれないと思うとどこか疼くものがあった。
続く。
第一試合無事終わりました!!
ここまで書いてみて、やはり小説を書くのはとても楽しいことを再認識しました。
第二試合も楽しみにしていてください。