肆ノ話:外の世界
「わぁ...翡翠さん見てください!すごいですよ!」
「お、おう」
なぜこんなことになっているかと言うと、
<<<数十分前>>>
「そう言えば、花宮。お前、夕食は...」
「あ、申し訳ございません。すぐ準備に、」
「あぁ、いや。この家には食材がほとんどなくてな。これから出かけるんだが、お前も来るか?」
「え?私もついて行って良いのですか?」
かえって来たのは衝撃的な答えだった。
「...いや、お前...街に行ったことは?」
「いつもは、他の使用が出ていますので、私は外に出られないんです。」
と、静かに語った。
正直そんなことだろうとは思っていた。花宮家と言えば、名家の中でもそれなりの地位に居る家だが、娘を家から出さず、しかも使用人同然に扱っている。
恐らく、もともと娘を嫁に出すなんて考えてなかったんだろう。
「そうか...なら、早く支度をしろ。行くぞ。」
「はい。かしこまりました。」
で、今に至ると言う訳だ。肝心の花宮はと言うと、
「わぁ...」
色々と街のものに目を輝かせている。
「...まるで猫だな。」
「あ、申し訳ございません。私ばっかり楽しんでしまって...」
「いい、気にするな。じゃー、食材を探すぞ。」
「はい」
「翡翠様は、何か食べたいものはありませんか?」
夕餉の食材を探している時だった。花宮は俺にそんなことを訪ねてきたのだ。
俺は少し考え、
「...そうだな。お前は、食いたいものはないのか?」
そう聞くと、
「え!?あ、えっと...」
「...やっぱりか」
案の定、俺の予想は当たっていたらしい。家ではほとんど飯を食わせてもらえなかったのだろう。
「も、申し訳ございません」
「なぜ謝る。お前は何もしていないだろ。」
どうもこいつはすぐに謝ってしまう癖でもあるらしい。
だが、これに関しては俺がどうこう出来る問題ではない。生まれた環境、育っていく過程、親の対応、周りの対応、すべてにおいて、ついていなかった、とまとめるしかないのだ。
「そうだな、今日は肉にしよう。お前が来た祝いもかねて。」
「え、いや私は」
「遠慮するな、何でも言ってみろ。」
俺は花宮のほうに目をやった。だが、やはり本人は浮かない顔をしていた。
「...」
「...まさかと思うが、普通の食事は摂っていたんだよな?」
「...」
「はぁ...今まで何を食べていたんだ...」
「少量のお米と水です。」
「それはほぼ飯ではねぇよ...」
はっきり言う花宮に対し、俺はあきれてしまった。ひとまず花宮を連れ、買い物を済ませた。
「肉を買うなら、行きつけの所がある。そこに行くぞ。」
「わかりました。」
俺が肉屋へ歩き始めると、その後ろを歩くように花宮がついてきた。
まるで犬のようだな。
そんなことを考え、花宮を前に出した。
「どうかなさいましたか?」
「...いや、後ろを歩かれるのが慣れていないだけだ。」
そう言うと、花宮は不思議そうにしていた。
「あ!翡翠の旦那ぁ!最近見なくなったから心配しましたよ。」
「あぁ、悪い悪い。」
俺たちが肉屋に行くと、一人の若いやつが話しかけてきた。
「最近はここらも物騒になって来てるし、翡翠の旦那も気を付けてくださいよ」
「あぁ、わかってるよ。おやっさんは居るか?」
「あぁ、じいちゃんなら奥の部屋に...えぇ!?あれあれあれあれあれあれあれ?旦那ぁ、そのお嬢さんってもしかして?」
「まったく、さっさとおやっさんを呼んで来い。」
「へいへい。」
そう言うと、そいつは奥へと走っていった。
「悪かったな、驚いただろ。」
「い、いえ、私は大丈夫です。あの、さっきの方は...」
「あぁ、あいつは一ノ瀬 雷太。ここの肉屋の跡継ぎだ。まだ若いが、腕は確かな奴だ。」
「仲がよろしいんですね。」
「まぁ、あいつの爺さんからの付き合いだからな。」
そんな話をしていると、
「これはこれは、お待たせしました。」
扉の奥から現れたのは、細々とし、髪が白く、腰が曲がり、弱弱しい老人がやって出て来た。
「おやっさん、随分と老けたな。」
「ははは...残念ながら、翡翠さんとは生きられる時間が違いますから...」
そう言うと、おやっさんは花宮の方を見た。
「...」
「あ、あのぉ...」
「おぉ、これはこれは、申し訳ない。翡翠さん、そちらのお嬢さんは...」
「あぁ、一応俺の所に嫁ぎに来た奴だ。」
「は、初めまして。花宮 彩月と言います。」
「これはこれはご丁寧に、わしはここの3代目店主、一ノ瀬 陽炎。ただの老いぼれじゃ。」
と、おやっさんは軽く挨拶をした。ただの老いぼれとは、上手く言ったもんだ。
「それにしても、花宮家のお嬢さんとは、良い嫁さんを手に入れたんじゃな。まぁ、翡翠さんのことじゃ、結婚の年まで引き取っとるだけじゃろ?」
「...たく、なんであんたはそうもこっちが考えてることがわかってんだ。」
「ははははは、長年の感っちゅうやつじゃ。」
おやっさんの感は正しい。能力でもなんでもない、俗にいう天性の才ってやつだ。それなのに、今ではただ死を待つだけの老人だ。
「それで、今回は何をお求めで...」
「あぁ、いつものを二人分頼む。」
そう言うと、すでに知っているかのように、品物を渡してきた。
「...はぁ、はいはい。お代はつけといてくれ。」
「知っていますよ。」
そう言うと、俺たちは店を後にした。
「不思議なおじいさんでしたね。」
家に帰っている途中、花宮がそう言ってきた。
「まぁ、あの勘の良さには少しビビるがな。」
そんな話をしていると、
「...あ、あのぉ...」
と、よそよそしく話しかけてきた。
「ん?どうかしたか?」
「いえ...」
「...何か聞きたいことがあるなら言え。遠慮はするな。」
「も、申し訳ございません。」
「謝らなくていい。」
「も...はい...」
「それで、何が聞きたかったんだ?」
「いえ...先ほどおっしゃっていた、結婚の年まで引き取るというのは...」
「なんだ、そんなことか。」
「...やはり、お邪魔でしょうか...」
「なぜそうなる。」
どうやら、変な誤解を生んだらしい。花宮は、結婚の年になったら捨てられる。そう思ったらしい。
「無理に結婚しなくて良いと言うことだ。お前が不満に思うなら、ここを出て行ってもらっても構わない。」
「そ!そんなことは!」
「これはお前の人生だ。」
俺はゆっくりと、花宮の方を向き。
「人生は、無限にある訳ではない。必ず終わりは来る。ただそれが早いか遅いかだ。それまでに、自分が納得できるような生き方をしろ。」
そう、言葉を漏らした。
今回はご愛読ありがとうございました!
これからも、書き続けていきますので
よろしくお願いします('ω')ノ




