参ノ話:お人好しな男
驚いた。俺の目に映ってるのは、手入れが施されていない髪、薄汚れた着物、化粧もしておらず、それよりも、若すぎる。だが、それは俺の考えに過ぎない。
「ひとまず、疲れただろう。ついてきなさい。」
俺は、嫁入りすると言う女を連れ、さっきの団子屋に戻った。
「あ、あの」
「ん?どうした?」
「...そ、その...私、銭を持って...」
「あぁ、そんなことか、銭は俺が払う。ひとまず座れ。」
「...あ、ありがとう...ございます。」
その女は、何処かよそよそしく、腰を下ろし、終始下を向き続け、会話をしようとはしなかった。
「はい、おまちどうさま。」
「あぁ、どうも。」
「あ、ありがとうございます。」
ほどなくして団子と茶が届き、
「...」
「ん?食べないのか?」
なかなか食べようとしなかったので、つい口を出してしまった。
「え、いや...その、あなた様のは...」
「え?あぁ、俺は先ほど食べたばっかりでな。それはお前のだ。好きに飲み食いすると言い。」
「...で、でも...」
「俺が良いと言っているんだ。人からの恩はおとなしく受け取っておけ。」
「...で、では、お言葉に甘えて。」
どうやら、俺の分を待っていたがために食べなかったらしい。だとしても、このぐらいの年なら、もう少し積極的だと思ったのだが。どうやら、この女はどうも自己肯定感が低いらしい。
女が団子を食っている時、俺は一つの質問をしてみた。
「ところでさっき、嫁入りをすると聞いたが、親や、旦那はどうしたんだ?」
簡単な質問だった。名家ならともかく、一般でも親や嫁ぎ先の旦那が同行しているはずだ。だが、帰って来た答えは、俺の予想を大きく外れた。
「...いません」
「え?」
「私は、家を追い出されるような形で出てきたんです。」
予想しなかった。この時代、家を追い出されるのことはそう多くないが、明らかに若すぎる。
「失礼いるが、お前、いくつだ?」
「...11です。」
やっぱりだった。痩せ細った体、生気のない目。家を出されるように嫁がされた。
「...そうだったか。」
俺は、ただ憐れむことしか出来なかった。
「...早く、嫁入り先に行ったほうがいい」
俺がそう言うと、
「どうやら、嫁入り先にも連絡はいっていないようなので、置かせてもらえるかどうか。」
「は!?」
思わず声を上げた。
「いや、でも...」
「いいんです。私には、居させてもらえる所があるだけで。」
「...もし、帰されたら」
「...家には戻れません。帰って来るなと言われているので。どこか、心優しい人の所で厄介になるかもしれません。」
直感で分かった。この娘が言っていることは、おそらく嘘ではない。突然嫁がされ、追い返されたのなら、行く当てをなくし、途方に暮れるだろう。
「あ、すみません。お団子を奢ってくださったのに、こんな話、関係なかったですよね。失礼します。」
「あ...」
そう言うと、あの娘は深々と頭を下げ、早々と居なくなってしまった。
「...どうしたものか。」
どうにか出来ることは無いかと考えたが、俺にできることなんてたかが知れている。
「...帰るか。」
俺は銭を払い、さっさと家に帰るとした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「...さっきの人...かっこよかった...」
さっきの出来事が嘘かのように思えてきた。だが、今はそんなことを考えてる暇はない。私は地図を頼りに、嫁ぎ先の家に向かった。
「...ここかしら」
およそ一時間、私は歩き続け、無事嫁ぎ先の家に着いた。
「...確か...ここのお屋敷は...」
「...神薙家...」
私は恐る恐る、門をくぐり、
「...し...失礼します!」
「...」
だが、声が帰返って来ることは無かった。どうやら留守のようだ。だからと言って、ここに居座るのも迷惑だろう。そう考え、私はここを去ろうとした。その時だった、
「...え」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「...はぁ、今日はとんでもない日だったなぁ」
俺は重い足取りの中、家に帰ろうとしていた。
「...そういえば、あの娘は無事なのだろうか。」
どうしても考えてしまう。考えても無駄と言うことは知ってる。だが、どうもあの娘のことが頭から離れない。
そんなことを考えていると、いつの間にか家についていた。ふと家の玄関のほうを見てみると、
「...え?」
「...え」
そこには、昼に助けた、あの娘が居た。
「お、お前、なんでこんなところに...」
「え、あ、あの、ここが、神薙家のお屋敷だと聞いて、来たのですが...」
そう、どうやらこの娘は、俺の所に嫁ぎに来たらしい。
「...」
「...」
思わず娘を家に上げてしまった。正直、あんな話をされたなら、あのまま放っておけないだろう。なおかつ、まだ嫁ぐ歳にもなっていないのに、本当に可哀そうだ。
「…ところで、もしここを出たら、お前はどこに行くつもりなんだ?」
「...わかりません、ですが、わがままを言うほど、欲におぼれてはいません。」
どうやら、本当に行く当てがないらしい。同情を誘うにも、この娘が嘘を言っているとは思えない。
「...」
「出てけと言うなら出ていきます。ここで死ねと言うなら...」
「待て待て!なぜそうなった!」
俺は遮るように言った。危うく人一人死なすところだった。この娘ならやりかねない。そう俺の直感が言っている。
「...でも、私が居ても、お邪魔なだけですし...だから...」
「...はぁ、いつ俺が帰れと言った。」
「...え?」
「ここに居させてやる、だが、13の年にならないと結婚は出来ない。それでも良いなら、ここに居ると良い。」
思わず俺は娘をここに居させると言ってしまった。娘の反応はと言うと、
「...ありがとう...ございます。」
嗚咽を漏らし、目からは涙を流しながら頭を下げていた。俺は娘に近づき、
「...名は何という。」
と、涙を拭いながら聞いた。
「...お初にお目にかかります、私、花宮 彩月と申します。えぇ...」
「あぁ、すまん。俺の名は神薙 翡翠。」
「では翡翠様、今日よりおそばに付かせていただきます。」
深々と頭を下げ、何処か安心したような顔をしていた。
これから、俺たちの共同生活が始まる。
今回はご愛読ありがとうございました!
これからも、書き続けていきますので
よろしくお願いします('ω')ノ