竜種再来
「……と、トールズを相手に勝った――――ってラビスちゃん!」
飛び降りた彼女の存在を思い出し、地べたに手をついて崖下を覗く。
「私は大丈夫です!」
ラビスは真下に風を送り続けて落下を免れていた。
「良かった……! でもいくら勝つ為とは言えやり過ぎだよ!」
スベンは腕を伸ばして彼女を引き上げる。
「すみません、スベンさんの攻撃から意識を逸らすにはこれぐらいしか方法は無いと思って……」
「……いや、僕の実力不足のせいだ。無理をさせて済まない」
「それを言うなら私が魔力の消耗リスクを考えずに使わせてしまったせいです! 本当なら戦わせるべきでは無かったにもかかわらず、本当にすみません!」
「そんなマリアさんが謝るような事はありません! そもそも私が――――」
謙虚で自責思考の彼女らは同じような言い争いがしばらく続く。
「――――もう分かった! 皆で力を合わせてトールズを倒した! これで話は終わりにしよ?」
「そうですね……」
「はい……」
スベンが先導して不毛な言い争いが幕を閉じた。
『い、色々と肝を冷やす場面がありましたがトールズ選手まさかの撃破!』
『運が良かったと言われれば否定できませんが、突飛な発想や決死の覚悟がこの結果を手繰り寄せたと言わざるを負えませんね……』
「トールズが、負けた……」
「チビ女の魔法は反則行為だろ!」
「エンドリアス学園ふざけんなァ!」
トールズが所属するロードスト学園を中心にちょっとした喧騒が巻き起こる。
「思っていたよりも騒がしいですね……」
「百キロ走の趣旨からはかなり外れた試合展開だからな。周りの連中がイラつくのも無理はねェ」
「……批難や野次程度なら甘んじて受けましょう」
カルティアたちは周囲の反応を気にせず映像に意識を向け続けた。
「さっきの火球って失格扱いになったりしないよね?」
大熊を構築式に格納し、場の安全が確保できた三人は休憩ついでにこれからの流れを話し合っていた。
「……正直ギリギリのラインです。お二人の努力を無駄にする訳にはいかなかったので、火力はやや強めにしました。失格になった場合はアルム君と三人であとを頼みます」
「……うん、分かったよ」
抗議すれば学園全体の出場に悪影響を与えかねないため、スベンは引き留めようとしなかった。
(……いま元気な様子でトールズさんが起きても失格になるのかな)
ラビスは失格になって欲しくない気持ちを込めてトールズに視線を向けるが、そこには人の影も形も無かった。
「あれ? どこに――――」
「ここぉ……」
直後、自身の背後に稲妻が走る。
「「「ッ――――⁉」」」
再び戦闘態勢を取ろうと動き出すが、雷の鎧を纏ったままスベンとラビスの頭に両手を置く。
「「――――かっ……」」
雷化礼装の電撃が彼らの全身を駆け巡り、一瞬にして意識を刈り取った。
「……よく、起きれましたね」
「俺も逝った、って思ったけど幸か不幸か大気中に大量放電したお陰であんたの火力が下がったんだ」
「なるほど、そういう事ですか……!」
相手の魔力が満ちている空間では自身の魔法や特性に影響を受ける、という魔法理論をマリアは理解していた、がそれを実戦で活用できるほどの経験や余裕は無かった。
「あんたらはよくやったよ、ゆっくり寝な」
抵抗しなければ気絶で済む、そんな意味を込めてトールズは彼女に手を伸ばすと諦めた様子でマリアは受け入れる。
(ラビスさん、スベンさん、一緒に戦ってくれてありがとうございます……アルム君、あとはお願いします……)
トールズの指先が彼女の額に触れそうになった時、崖下から巨体が羽ばたいてマリアたちの山道を通り過ぎる。
「なッ……⁉」
「嘘……」
トールズは開いた口が塞がらず、マリアは目の前の光景を疑った。
『え、この魔物ってもしかして……竜種⁉』
実況役のサイベルのみならず会場全員が唖然となって映像を見ていた。
竜種はレブロック山脈とその向こう側に位置する竜王国でしか生息しておらず、ほとんどの人間は噂や文献でしかその存在を知らないのだ。
「……ははっ、勘弁してくれよ……」
トールズは競技どころではないと腕を引っ込め、自分らを見下ろす存在に圧倒される他なかった。
しかし目の前の現実を呆然と眺めている時間など無く、竜種は羽を折り畳んでトールズたちを踏みつけようと山道に着地する。
「――――ぶねェ!」
咄嗟に彼は気絶したスベンやラビス、マリアを掴んで下りの道に投げ飛ばした。
「そこの二人連れてさっさと下山しろっ! 俺が竜種を引き付ける」
「何を言っているんですか! 私たちの事は気にせず自分の身を第一に考えてください!」
「……自分の身を第一に? 必要ないわ、俺ならあの竜種くらい一瞬で撒ける。むしろお前らが居ると邪魔で戦えないんだよ、さっさと失せな」
「――――お願いします!」
マリアは二人を抱えて山道を下っていく。
「先に逃げたら何言われるか分からねェからな、俺の立場を守るため少し付き合えよ」
トールズは嘲笑うような笑みを浮かべて雷化礼装を纏った。




