トールズの猛追
(うぅん、なんかふさふさしてて、良い匂い……でも何かあったような――――)
(一生寝てても良いぐらい心地いい……でも何か忘れているような――――)
「「――――魔導大会だァ‼」」
「わあああああァァァ――――‼」
魔力の消耗によって眠りに就いてしまったラビスとスベン、しかし強い意志が彼らをうたた寝の世界から現実に引き戻す。
無論、そばで彼らを見守っていたマリアは目玉が飛び出てしまうほどの仰天だったことは言うまでもない。
「「「ふぅ……」」」
そして三者それぞれが宥め合い、なんとか場の収拾は着いた。
「訊きたいんですけど、山岳地帯を走ってどれくらい経ったんですか?」
「……山岳地帯は30分、競技が開始してからは二時間程度ですね」
「ありがとうございます……」
マリアの懐中時計で時刻を確認させ、ラビスは浮かない顔を見せる。
アルムと離れて一時間以上が経過したにもかかわらず、自分たちと合流できていない事が気掛かりになっていた。
「大丈夫だよラビスちゃん。彼なら必ず合流して一緒にゴールできるはずだ」
「……そうですね!」
「伝承石で連絡を取れたら良いのですが、戦闘中に掛けても迷惑になりますからね……」
「とりあえず僕たちは出来る限り距離を進めて彼の帰りを待つしかなさそうだね」
スベンが方針の決めた直後、彼らの伝承石が微かに振動する。
「……! 僕が出るね」
そう言ってスベンも伝承石に魔力を込め、向こう側の魔力波を受信した。
「――――こちらアルム=ライタードです、応答お願いします」
「アルム君っ! 聞こえているよ!」
初期の雑音のあとに聞き慣れた声が流れ、一同は歓喜に包まれた。
「スベンさん! マリア先輩とラビスは無事ですか?」
「うん! キミが選手たちを引き受けたお陰で今は山岳地帯を走っているよ。アルム君のほうこそ大丈夫なのかい?」
「……ええ、他の選手を痛めつけて今そちらに向かっています」
「……アルム、何かあったの?」
落ち着きのない様子に違和感を感じてラビスが尋ねる。
「……いや、でも訊きたい事がある。そっちの現在地ってどのくらいか分かるか?」
数秒の沈黙のあとにアルムの問いを聞き出すが、スベンたちでは答えようがなくマリアに回答を求める。
「そうですね、山岳地帯に突入してから30分が経過したので三合目、もしくは四合目辺りではないでしょうか……」
「っ……! 分かりました。合流したいので少し待ってて貰えませんか?」
やや合理性に欠ける判断にマリアは顔を見合わせるが、彼らは静かに頷いた。
「みっけ……」
しかしアルムとの連絡に夢中になっている最中、背後から魔の手が忍び寄る。
「……ではこの場で待機して――――」
彼女たちに危害を加えようとした瞬間、主人の危機を察知して大熊は突然進路を変え、間一髪のところで躱した。
「きゃあァ⁉」
「――――⁉ マリア先輩! 大丈夫ですか!」
思いがけない大熊の行動にマリアは伝承石を落としてしまい、受信が途切れてしまう。
「くそッ……!」
アルムは伝承石を制服に収納して全速力で走り出す。
(何で竜種の存在を忘れて遊んでんだよ俺はァ! 初日から手札を見せたくは無かったが、そんな悠長なことは言ってられねェ!)
「【影移動】!」
アルムは森の影に潜入し、さらに加速して行った。
『こ、これは! アルム選手が姿を消したり、先行していたエンドリアス学園にトールズ選手が追い付いたりと怒涛の展開だァ!』
エンドリアス学園が優勢だった状況に反撃の糸口が見え始め、サイベルのみならず会場全体が湧き上がる。
『トールズ選手もアルム選手と戦うつもりだったのでしょうが、相手の独壇場だと早々に見切りをつけて本隊を追いかけていましたからね。素晴らしい判断力です』
『百キロ走一位獲得者と呼び声高いトールズ=フィルフィート! このまま好き勝手にやられて終われないということですね!』
「……このまま上手くいくとは思っていませんでしたが、貴方ですか」
「でもアルム君を倒して来た訳じゃないから気持ちラクだね……」
余裕ぶっているスベンだが自身との力量差は歴然、そのうえで魔力も回復しておらず立っているのもやっとの状態だった。
「こんな所まで行かれるなんて俺の面目丸潰れなんよ。さっさと倒されて」
トールズは不機嫌そうな顔で彼らを睨みつける。
「スベンさんとマリアさんは出来る範囲で援護を頼みます! 行くよ大熊ちゃん!」
大熊は主人に唸り声で答え、彼らの戦いが始まった。




