魔導大会、開幕!
午前九時――――。
「ここに魔導大会の開催を宣言します‼」
円形闘技場内に集められた俺たちは大会運営の代表者が拡声魔法から開催を宣言される。
会場内は拍手の嵐に包まれ、空には火球のようなものが打ち上げられた。
***
開催宣言終了後、選手以外の生徒らは闘技場のフィールドから姿を消し、俺たちは30分後に開始される百キロ走の準備に取り組んでいた。
「ほ、本当に始まっちゃうんだね……!」
つい先ほど選手として指名されたラビスは声を震わせながら尋ねる。
「何だよ、緊張でもしてるのか?」
「こんな大勢の人たちが見ている前で走るんだよ! 緊張しないほうが無理だって……」
続々と闘技場に訪れる現地の人々に圧倒されているようだった。
魔導大会の様子は魔道具や魔法を使い、ベルモンド国内のみならず同盟国の至る所で中継されるため、彼女が特別緊張しやすい性格という訳ではない。
「彼女の言う通りだよ、僕だって初めての出場で多少は緊張しているのに肝が据わっているね」
「アルム君とご自身を比べるのは止めたほうが良いです。彼は真人間に見えて結構イカレているので」
「酷い言い草ですね……」
選手として指名されたスベンとマリアも緊張した面持ちで会話に参加する。
しかし五年生のスベンは魔導大会がどういうものかを理解しているようで彼女らほど気負っている様子は無い。
マリアは……緊張してて言葉遣いが荒れてしまったのだろう……。
「なぁに! 緊張しているなんて今だけ、走ってしまえばすべて忘れる!」
「そんな事言って、先生も緊張しているんじゃないんですか?」
「何を言っているんだ! 俺はお前たち生徒たちを信じているからな! 昨夜もぐっすり眠れたぜ!」
「「「「…………」」」」
バルテンは普段通りの元気な様子を見せるが目の下にはクマのようなものがあり、不安で眠れなかったことが伺えた。
「そ、そんな事より作戦とか話さなくて良いのか!」
既にバレている事だが、勢いで誤魔化す。
「区域ごとの注意点や戦闘時の対処は一通り打ち合わせはしました。あとは他校の出方を見ながら臨機応変に対応していきたいと思います」
「今年は選手候補の中に百キロ走の出場経験のある生徒が居ないから心配だったけど、優秀な上級生がいて助かった」
「本来であればバルテン先生が率先して行うべき事なんですがね……」
「それはあれだ……! 生徒たちには自分で考える力を養ってもらいたいから、敢えて何も言わなかったんだぞ! 本当だからな⁉」
スベンが苦言を呈すと焦った様子で言い訳を述べた。
彼の体育理論や身体作りの指導は的確だったし、監督教師としての業務を果たさなかったわけでは無い。
「別に先生が頼りないとかそういう意味で言った訳ではありません。未経験な僕が選手としてこの場に立てたのはバルテン先生のご指導のお陰だと感謝を伝えたかったのです」
「……スベン。何言ってんだ、お前が腐らずにこれまで頑張って来たからだろう。俺は体の使い方を教えただけだ」
二人の様子を見ると競技以前から交流があったように思える。
無論、贔屓されて選ばれたと問われれば断じて違う。
彼は真面目に練習に取り組んで順位も常に上位であり、総合的な魔法力も決して低いわけでは無い。
そしてそれはバルテンだけでなく、ともに練習に取り組んだ俺たちが知っている。
「自信を持て! お前たちは学園を代表する選手であり、俺が日夜頭を悩ませて選び抜いた最強の走者たちだ。お前たちなら絶対に一位を、四人全員が24位以内にゴールできる! 悔いが残らないよう全力疾走で走り切るぞォ!」
「「「「オオォ‼」」」」
バルデンが大きく腕を上げると俺たちも真似するように腕を突き上げた。
「そこの教師の方! 競技が始まるのでフィールドから出て行ってください!」
「す、すみません! 今出て行きます、それじゃ後は頼んだぞ!」
大会運営の人間にペコペコと頭を下げて足早に立ち去り、俺たちは恥ずかしさのあまり彼の姿が見なくなるまで顔を上げられずにいた。
「……よ、よし! 入り口に行こうか」
「は、はい……」
赤面になりつつも俺たちはスタート地点へ向かう。
スタートラインは白線で記され、それぞれの学園の選手らは縦に並ぶ形で競技が開始される。
「きゃっ⁉」
「どこ突っ立ってんだよォ!」
ラビスの悲鳴と共に怒号が聞こえる。
振り返って状況を確認するとどうやら他校の生徒とぶつかったらしく、彼は怒りをぶつけてその場を離れた。
「す、すみません……ごめんアルム、少し詰めるね」
「分かった……」
彼女はその生徒に向けて頭を下げ、俺との間隔を狭める。
しかし彼女の立っていた場所が人の通行の妨げになることは考えにくかった。
「気にしないほうが良いよ、ラビスちゃん。多分、競技前で気が立っているだけだから」
「は、はい!」
そう言って励ますスベンだが、怒鳴られた直後では流石に切り替えられない様子だった。
バレずに相手の心身を削るクソ技を編み出すなんてやっぱ魔導大会は凄いな。
「ラビス、俺と順番変わっとけ」
「えっ! いや大丈夫だよ」
「俺がお前の後ろに居れば、またさっきみたいな輩に狙われた時に対処できるから。特に問題はありませんよね?」
「はい、競技に支障はありませんので順番は気にしないで下さい」
「……じゃあお言葉に甘えて」
俺とラビスは入れ替えて最後尾へと並んだ。
ここで手は出せない以上、今は見逃してやる。顔をしっかり脳に焼き付けたがな。
『これより魔導大会一日目、百キロ走を開始します』
魔法によって拡声されたアナウンスが場内に響き渡り、ギャラリー席の人たちのテンションは最高潮に達した。
「気合い入れて走れよ! スベン!」
「マリアさん頑張って!」
「ラビスちゃん! ゴーゴー!」
「アルム! 俺たちの分まで走り切れよォ!」
その中には同じ種目で競い合った選手候補生や学校生活で友情を深めた仲間たちが応援していた。
「……ッ!」
彼らの期待に応えたい、そう思えたのは俺だけではないだろう。
『開始まで、10……9……』
競技開始のカウントが始まると俺たちは腰を低させ、下半身に力を入れる。
『8……7……6……』
「みんな、危なかったら誰でも良いから声掛けてね!」
「ほんっとうに! 怪我だけは気を付けてください!」
スベンは頼って欲しいと、マリアは無理はしないでと言ってくれた。
『5……4……』
「誰一人欠けずに皆さんと一緒にゴールしましょう!」
「え、えっと……」
言おうと思っていたセリフを先に言われてしまい言葉が詰まってしまう。
『2……』
「ぜ、絶対勝つぞ!」
しかしカウントは止まらず、咄嗟におかしなことを言ってしまった。
『1……』
「「「オオォ!」」」
三人は突っ込もうとはせず俺の掛け声に呼応する。
『――――スタートォ!』
カウントが終わると爆発音とともに俺たちは一斉に走り出した。




