完封
「……なぁタリオナ、この飯食ったら俺も向こうに参加して良いか?」
皿いっぱいに盛った料理を食べながらライオスは尋ねる。
「行くなって言っても、どうせあんた行くでしょ。まあ勝手に暴れて『先生』に怒られても私は知らないから」
「『先生』で脅すのは無しだろォ……」
ライオスは効果的な返しを受けてアルムたちの戦いの参加することを諦める。
「……! 誰かしら?」
胸元に忍び込ませていた伝承石が魔力波を受信し、服の中で微動した。
「はい、タリオナです――――『先生』!」
彼女は柱の陰に隠れてからレイゼンと連絡を取り合う。
「そっちの状況はどうなっている?」
「はい、ベレスが我々の懇親会に乱入してエンドリアス生と交戦をしています」
「……やはりそうだったか、怪我人は居るのか?」
「それは――――」
レイゼンたちが状況を確認している一方、アルムたちの戦闘は激化していた。
皿やテーブルは叩き壊れ、床に敷かれた絨毯は裂かれ、優雅な食事会は見る影もない。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
アルムはベレスの動きに注視しながら呼吸を整える。
「さっきの勢いはどうしたんだよアルム、もっと全力で掛かって来い」
対するベレスは息一つ乱さず、常に攻勢だった。
(クッソ……! 黒棘や魔黒閃が使えたらもう少し戦えたかもしれねぇけど、それを抜きにしてもアイツの体術と魔力制御は群を抜いている。大会前日で力を見せたくなかったが、黒器創成だけでどうにか出来るような相手じゃない……)
「そもそもこんな場所で全力を出せるわけ無いだろ、大会には全種目出るつもりだから今日はここまでで勘弁してくれないか」
懇願する彼にベレスは顎に手を当てて考え込む。
「うーん……確かに早ければ四日後に再戦できるし、それまでアルムの試合を観戦するのも悪くないかもな」
「だろっ! だから――――」
「でもォ、もう少しだけ、楽しませてよ」
ベレスは手首を動かして魔法を発動させ、アルムは魔法の影響を受けないよう体表を魔力で覆い戦闘態勢を取った。
「狙いはお前じゃない」
「……がっ⁉」
直後、アルムの背中にテーブルが激突する。
不意の攻撃だがダメージは少なく済み、ベレスを視界に入れようと堪えるが今度は足元の絨毯が引っ張られ、体勢を崩して体が宙に浮いてしまう。
ベレスは一気に間合いを詰め、アルムの首と右腕を掴んでそのまま壁に衝突するまで走り続けた。
「――――――――‼」
「余裕があると周囲にばかり気を配ってしまうからね、少し余裕を無くさせるだけさ」
ベレスは力を強め、アルムは必死に抵抗する。
「すみません『先生』、彼、少し危ないかもしれません」
「タリオナ、『先生』に許可取ってくれ! あれはヤバいぞ」
彼女たちだけでなく、遠くから見ていた他校の生徒たちも騒然となる。
「――――おい、テイバン! アルムの拘束を解いてやれ!」
「はっ、はっ、はっ――――!」
エルヴィスと交戦しているライザは突っ立ってる彼に指示を飛ばす、が刻まれた恐怖体験のせいで足が竦んでいるようだった。
「……流石に殺しはしないよな……?」
エルヴィスはベレスの指示に従いながらも殺人の共謀を担がないか内心では不安な様子だった。
(((誰か、だれか止めて……!)))
彼らの戦いを止めて欲しいと、アルムの体を心配する者はいるが誰も助けようとはしない、いや勇気が無かった。
「うっ……ぐゥ……!」
首を絞めつけられたアルムは徐々に顔が真っ赤に染まり、全身が痺れを感じ出す。
(もう、これ以上は――――――――)
アルムは魔法を発動させようと壁に触れた。
「私が行く」
伝承石から声が聞こえた瞬間、ベレスの背後にレイゼンが姿を現す。
「これ以上の暴力は止めて頂きたいのだが宜しいかな、ベレス殿」
ベレスの肩に手を置き、穏やかな声調で語り掛ける。
「……レイゼン」
背後の彼に視線を向けるが、拘束は解かずに黙って暫くのあいだ見つめ続けるベレス。
レイゼンにまで手を出すのか? そんな不安が生徒らの頭を過ぎった。
しかし先の言動を振り返ればむしろ自然な流れだと、そう思わざる負えない程ベレス=ダーヴィネータという男は好戦的な戦闘狂だった。
「……申し訳ない!」
「ゴホォ! ゴホォ! ゴホォ……」
そう言ってアルムの拘束を解き、レイゼンに姿勢を向ける。
首を絞めつけられていた彼は身体が反応して咳込んだ。
「彼とは近しいものを感じて気持ちが舞い上がってしまったようだ」
「確かに、ずいぶん昂っていたようですね……」
(関係性を悟られないようカルティアに代弁させたが、失敗だったな……)
彼は滅茶苦茶に荒らされた状況を見て、数十分前の判断を後悔した。
「これは一体……⁉」
「何があったんですかァ!」
遅れてカルティアなど別室の人間たちも広場に顔を見せる。
「じゃライザ! 俺たちの戦いもここまでだ! この戦いは二人だけの秘密だからな! 誰にも言うんじゃないぞ!」
「周りに大勢居るだろう、馬鹿め……」
エルヴィスは走り去りながら忠告し、ライザは呆れ果てる。
「何をやっているんですかベレス殿ォ!」
「すいませぇん。あっ! 明日からよろしくな、アルム」
たくさん酒を飲んでいたバリウスも酷い有様に酔いが醒めたようでベレスを呼び付けた。
ベレスは去り際に手を振ってその場から離れた。
「……はぁ」
「立てますか?」
喉を優しく撫でるアルムにレイゼンは手を差し伸べる。
「……要らねぇよ」
しかしキッと睨みつけて自力で立ち上がった。
「このような結果になってしまったのは私の責任でもあるので、申し訳なく思っています」
「ったく、もっと反省しろ! こっちは危うく殺されかけたんだぞ」
「命の恩人に対してその言い草は酷いですね。私の見解ではもう少し善戦していると思っていたんですがね」
「善戦は、途中までしてたよ。でも優勝三連覇の実力は伊達じゃねぇ、正直、あそこまで完封されるとは思ってなかった……」
劣勢に立たされたアルムは珍しく弱気な発言をする。
「……彼が出場する種目は一対一、それまでの二種目で優勝に必要なポイントを稼げばいいだけの話です」
「それもそうだな、ッ……!」
最初の殴打を受け止めた腕に激痛が走る。
「貴方は明日から競技が控えているのでしょう、回復薬を手配しておくので他の生徒たちと一緒に宿へ戻っていてください」
「……ありっ……かんっ……助かる……」
お礼の言葉が出なかったアルムは苦し紛れに言い残してカルティアたちと合流する。
「えぇ……」
笑みを浮かべながら彼の背中を一瞥し、事態の収拾に取り掛かった。




