邂逅
「俺の制服に何してくれてんだ!」
「……何ですかね?」
「あっちだな」
アルムたちが夕食を食べていると怒号が会場内から聞こえ、辺りを見渡すとライザがミリエラたちのほうを指差した。
「すみません、不注意だったもので……」
「最後の魔導大会で新しい制服を取り寄せたというのに……!」
ミリエラは頭を下げるも他校の選手は怒りが収まらない様子だった。
彼の制服には飲み物を掛けられたようなシミがあるため、ミリエラが付けた汚れであることは一部始終を見ていない生徒たちも分かった。
「どうしますか? あれ」
「どうするもこうするも無いだろう、俺が話を着けてくる」
「…………」
アルムが尋ねるもテイバンは即答し、ふたりの間に割って入る。
ライザはその様子を黙って見ていた。
「後輩がとんだご無礼を、エルビィス殿。しかしここは怒りをお納めて頂きたい」
「て、テイバン=ビルフォート……!」
彼の実力はこれまでの魔導大会で十分理解していたようで憤慨していたエルビィスも怯む。
「こ、この俺に指図とはずいぶん偉くなったものだな!」
しかしエルビィスもこのまま黙って退けないと思って必死に虚勢を張った。
「そんなつもりはありません。私は貴方の立場を危ぶんだまで――――」
「俺はお前の立場のほうが危ないと思うぞ! 俺たちに楯突いたらどうなるか分からないお前じゃないだろう?」
「ッ……!」
彼の言葉にテイバンは体を硬直させ、思った通りの反応にエルビィスは楽しそうなだった。
「な、分かっただろ。後輩の前だからって格好つけなくて良いんだよ」
そしてテイバンに歩み寄ると耳打ちする。
「本当に可哀想になぁ。アイツと同じ年に生まれてしまったばっかりに恐怖に怯えて……俺なら死にたくなるね」
テイバンは彼の言葉で過去の記憶が蘇ったのか呼吸を荒げ、先の堂々たる彼の姿はどこにもなかった。
「ここで下がれば許してやるからさっさと失せ――――は?」
直後、嬉々とした様子のエルビィスの頭に水を掛けられる。
「ごめんなさい、手が滑ってしまって……」
彼はプルプルと震えながら背後を振り返ると、両手にグラスを携えたアルムがいた。
「き、貴様ァ! 何をする!」
「だから手を滑らしたって言っているじゃないですか!」
「ふざけるな! 絶対にわざとだろぉ!」
エルビィスは悪意を持ってやった事だと主張し、アルムはそれを否定する。
広間のほとんどの生徒が彼らの問答を眺めていたため、どちらの言っている事が正しいのかは知っている。
結論から言えばエルビィスが正しかった。
「本当にごめんなさい! でもうちの家業では服の補修や洗濯をしているので任せてくれれば、新品同様の仕上がりに出来ますよ」
「だれが貴様のような無名の人間に俺の制服を任せるか! ……それに服より自分の身体を心配したほうが良いぞ!」
敵意剝き出しの眼差しを向けていたエルヴィスだが、アルムの向こうに視線を向けて薄っすら笑みを浮かべた。
「……? どういう意味で――――」
直後、アルムは自身の背後から迫り来るなにかを感じ、上体を動かして回避行動を取る。
「あだァ⁉」
次の瞬間にはアルムの頭上を越えて料理用の皿がエルヴィスに額に当たる。
「……行儀の悪い奴だな」
被害に遭ったエルヴィスをそっちのけて彼は振り向くと、骨付き肉にかぶりつくベレスと対面を果たした。
***
「――――人に水を掛けたお前に言われたくない」
肉を口に頬張りながら反論する。
「べ、ベレスだ……」
「何でここに居んだよ」
「あいつ、殺されんじゃねぇか……」
お呼びでない人物の登場に騒ぎを駆けつけた選手たちは徐々にその場から離れ出した。
「……この濡らした人と同じ学園の生徒ですよね。本当にわざとでは無いので勘弁してください」
その異様な雰囲気を察知したアルムも許して貰おうと懇願した。
(見ない顔だ、それにテイバンと同じ制服を着てるから一年か……)
「お前、名前は――――いや、やっぱ良いや」
「……教えても良いですけど?」
カルティアが話していた新入生か確認しようと試みるも中断し、指の関節をボキボキと鳴らす。
「それは今から《《確かめる》》!」
そう言って彼は走りだし、アルムとの距離を詰める。
「……?」
アルムとの距離が10メートルに差し掛かったとき、ベレスは上体を逸らして殴る動作に入った。
「そいつから離れろォ!」
テイバンは焦った様子で警告するが、アルムは回避しようと彼から目線を外さない。
(何がしたいのかさっぱり分からねぇし、そこからじゃ拳が届かな――――)
ベレスが拳を握った瞬間、アルムの胸部が強い力で引き寄せられる。
「なァ⁉」
アルムは彼の魔法干渉を受けたと判断して、即座に体表に魔力を纏わせるがより一層の力で引き寄せられ、床から足が離れてしまう。
「歯ァ食いしばれよ……」
ベレスは向かって来る彼に拳を振りかざし、アルムは身体とのあいだに腕を置いて防ぐことを余儀なくされる。
「ぐっ……!」
アルムの全身に凄まじい衝撃が流れると殴られた勢いで後ろに吹き飛び、料理が置かれたテーブルに衝突する。
料理は床にぶちまけ、皿や食器は叩き割れ、彼の姿はテーブルクロスに覆われた。
「「「アルムっ⁉」」」
彼と親しい人たちは駆け寄ろうとするも追撃しようとベレスは設置されたナイフを掴み取り、クロスに覆われた彼を突き刺した。




