懇親会裏の出来事
「これは我が国の農民が手塩に掛けて育てた特上の羊のステーキだ。ぜひ食べてくれ!」
ベルモンド国王バリウスは来訪した国王や各学園の代表者たちへ、自慢げに話しながら料理を振る舞う。
「……うん! こんな良質な肉は食べた事が無い……」
「これ程の食材を振る舞えるなんて流石ですな!」
「魔導大会優勝者を抱える上に食にも力を入れているとは、本当に貴国には頭が上がらない!」
これ見よがしに褒め称えている彼らが本心を語っているのかはともかく、舌が肥えている者たちが舌鼓を打つほど美味であることに間違いは無かった。
(確かに美味しい……けど、私も向こうでみんなと食べたかったわ……)
必死に取り繕う大人たちの中に国王の代理としてカルティアが食事の席に参加していた。
彼女たちはアルムや選手候補生が集まっている広間から離れた一室で優雅な夕食を楽しんでいたのだった。
「いやいや、今年度の魔導大会まで連勝記録を守り切れるか自信がないよ」
ワインを仰いだバリウスはあくまで勝敗は分からないという態度を見せる。
「何を仰いますか。ベレス殿が在学中である限りはどんな選手も敵ではないでしょうに!」
本人が同席する傍らで褒めちぎるもベレスは何の反応も示さず、無言で料理を食べていた。
「そんな事を言っては頑張ってきた彼らが可哀想ではないか!」
そう言いつつも望んだ通りの返しが来たようでバリウスは高らかに笑った。
なぜ同等の権力を有する彼らがここまでこの男を持ち挙げるのか、それは個人優勝三連覇という偉業を成し遂げたベレス=ダーヴィネータの存在に他ならない。
この大会は近隣諸国との関わりを深め、学生らが互いを高め合える事を考えて開催したが、その裏では魔法教育の高さや優秀な人材がいると他国に宣伝する思惑があった。また軍事力という点でも魔法師の実力が直結するため、全員がバリウスを持て囃したのだった。
「そう言えば最近、エンドリアス王国で期待の新入生が入ったと聞きましたぞ! レイゼン理事長殿」
「私も耳にしましたよ! 確か貴国の騎士団を救っただとか……」
「王都に押し寄せる魔物を滅ぼしたとも聞きましたよ!」
バリウスは思い出したかのようにアルムの話題を振ると周りも同調した。
「……優秀な一年生が入学してくれたことは知っています。しかし彼とはあまり関りが無いので我が校の生徒会長にお話を伺って下さい」
「……⁉」
レイゼンは当たり障りのない返答をし、カルティアに話を振る。
彼女は驚いた様子を見せるが直ぐに気持ちを落ち着かせて、バリウスたちに姿勢を向けた。
「彼とは交流も多いので聞きたい事があれば、遠慮なく質問してください」
「では早速聞きたいのだが、その新入生はどの種目に出場するのですかな?」
アルムを話のダシにして自分を引き立てようと乗り気でバリウスは尋ねる。
「我が校で魔導大会のルールに則り、大会当日に選手を決めるため何に出場するかは当日まで分からないのです」
エンドリアス魔法学園のような大会当日に選手を決める方法と、自国を発つ前に選手を決める二通りが存在する。
前者は会場までの距離が比較的近いことや当日の体調次第で人選が変わってしまうほど実力が拮抗している場合に用いられ、後者の場合はその逆である。
「では本人が希望している種目を教えてくれ!」
「……それは、ですね……」
バリウスの問いに言葉を詰まってしまう。
肝が据わっている彼女でもアルムが出場したい種目を言うには抵抗があるようだった。
レイゼンに視線を向けるも気づかないふりで続け、どうしたものかと困っていた。
「何を遠慮することがある、さっさと答えろよ」
「「「……⁉」」」
無言で食事を取り続けていたベレスが彼女に話しかけ、突然すぎる状況に全員が押し黙ってしまう。
普段は対等な相手のように接し、たまに苦言を呈すバリウスだが能動的に動くベレスには苦言どころか言葉を発することすら危ういとこれまでの付き合いで理解していた。
カルティアも当事者でなければ黙って嵐が去るのを待っていたかもしれないが、いま問われているのは自分自身であり、その選択は不必要に彼を苛立たせるだけだと理解する。
「全種目出場……そして総合一位を獲ると言っていました」
勢いに身を任せて彼女は訊かれたこと以上に言ってしまい、ベレスを怒らせるのではないかと周囲の人間は騒めき出す。
「べ、ベレス殿……この場で暴れられるのは――――」
嫌な予感を覚えたバリウスは震える声でベレスを制止させた。
「……そいつの名前は?」
だが周りの予想とは裏腹にベレスは冷静だった。
「アルム=ライタード、彼は未来のエンドリアスを担う人です。貴方とどんな戦いを見せるのか今から待ち遠しいです」
「……覚えておこう」
そう言うと興味が失せたのかベレスは食事を再開する。
「……さ、さぁ! 料理はまだまだあるから遠慮せず食べてくれ!」
ホッと一息吐いて、バリウスは雰囲気を盛り上げようとメイドたちに料理を運ばせた。
「いったい何を考えているのですか、カルティア王女殿下!」
彼女の隣に座っている男とは面識があるようで先の言葉を非難した。
「すみません、凄く緊張してしまって……」
「今回は何も無かったから良かったものの、貴方の身にもしもの事があればお父様が悲しみますよ」
「はい、以後気を付けます」
反省した様子の彼女を見て彼も怒りを収め、運ばれた料理を食べ始める。
(アルム君の存在はもう少し後に知って頂いたほうが、印象に残ると思って隠す気でいましたがあの場で黙秘は出来ないですし、仕方ありません……よね?)
カルティアは自問自答して今後の計画を練り直す。
(……同伴した教師たちは別室に居てモーゴットは頼れない。念のため、タリオナに連絡しておこう)
食事の席に空きを見つけたレイゼンは起こり得る未来を想像し、次の一手を導き出した。




