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死神だった俺、暗黒魔法の転生者として平和な時代で再び戦いに巻き込まれる  作者: バッチョ
大会練習

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ライタード家の密談

「マインちゃん、入っても良いかな?」


「ダメ!」


 三階に上がるとマインの部屋は扉が開いていたため、ノックはせず断りを入れるが即座に拒否されてしまう。


「う……」


(無理やり入っても嫌われてしまうだけ、とりあえずこの子に見える位置で!)


 ラビスは入り口までしゃがみ込む。


「マインちゃんは何を描いているの?」


 マインの行動に目を向け、柔和な喋り方と笑顔を意識して問いかける。


「…………」


 しかしマインは何も聞こえなかったかのように絵を描き続けた。


「……私は絵があまり得意じゃないから良かったら教えて欲しいな」


「…………」


「マインちゃんは何色が好き? 私は白と水色が好きなんだ」


「…………」


「さっきクッキー食べたんだけど、あのクッキーってマインちゃんのお母さんが作ってくれたんだよね? すごく美味しかったんだ。マインちゃんはお母さんが作る料理だと何が好きかな?」


「…………オムレツ」


 根気強くマインが興味を引く質問をし続け、ようやく答えが返ってくる。


「美味しいよね、オムレツって。どこが好きなの?」


「柔らかくてトロトロしてるところ!」


 畳みかけるようにラビスは問いかけるとマインは嬉しそうに答えた。


「お姉ちゃんはお母さんの料理だと何が好きなの?」


「え、えっとそうだな……」


 マインが質問してくれたことに感動を覚えるも彼女は返答を渋ってしまう。  

 何故なら彼女の母親は物心つく前に既に亡くなっていたからだった。


「こ、コーンスープかな!」


 しかしそんな事を言って雰囲気を壊したくないと考え、適当な料理を答えた。


「コーン? お姉ちゃんはお野菜が好きなんだ」


「マインちゃんは嫌いなの?」


「うん! 美味しくないし、不味いし、見た目も可愛くない!」


「あはは、そうなんだ……」


(見た目は可愛くなくもないと思うけど、野菜(イコール)苦手だから野菜の全てが嫌いなんだろうな……ちょっと可愛い)


「確かにお野菜を食べるのは難しいかもしれないけど、ちゃんと食べないと――――」


 彼女がそう言いかけた瞬間、マインは露骨(ろこつ)に嫌そうな表情を見せる。

 普段から野菜を残すため、母親からは耳に胼胝(たこ)ができるくらい聞いた言葉だった。

 ラビスも地雷であることを瞬時に察知し、別の言い方を必死に探し求め……。


「ちゃ、ちゃんと食べると綺麗になれるんだよ!」


「綺麗に……?」


「そう! マインちゃんも綺麗になりたいでしょ!」


「マインも綺麗になりたい!」


「うんうん!」


 完全に彼女の心を掴んだラビスは嬉しそうに何度も頷いた。


「綺麗になってお兄ちゃんと結婚する!」


「うんうん、えっ⁉ マインちゃんはアル――――お兄さんと結婚するの?」


 しかし頷けない単語がマインから発せられ、ラビスは身を乗り出して聞き返す。


「うん、お兄ちゃんが大好きだから!」


 予想外の発言にラビスは開いた口が塞がらなかった。

 無論、幼子がそんなことを言って本気で相手をするほど彼女も子供ではない。


「駄目……」


 だが簡単に頷けるほどラビスに余裕は無かった。


「アルムと結婚しちゃ駄目ェ!」


 突然の大声に驚いてマインは押し黙ってしまう。


「あ、あの、えっと、その……」


 だが徐々に顔が赤くなり、泣き出すのではないかと焦るラビス。


「話は聞かせてもらったぞ! ラビスちゃん!」


「まあ詳しい話はお茶でも飲みながらにしましょう」


 そんな中、彼女らの背後から颯爽(さっそう)と両親が姿を現す。

 ラビスは安心したのか胸を撫で下ろした。


 ***


 ロイドたちは仕事を終え、二階のリビングに場所を移して紅茶とお菓子を用意した。


「熱いからフーフーして飲むのよ」


「はぁい」


 泣き出しそうだったマインを慣れた手つきで(なぐさ)め、それぞれのカップに紅茶を注ぐ。


「娘の面倒をありがとうね」


「そんな……マインちゃんは一人で絵を描いていましたし、私が居なくても平気だったと思います。むしろ居なかったほうが……」


 お礼を言われたラビスだが逆に自分を否定してしまう。


「分かるよラビスちゃん。俺もマインに何をしても泣かれて、父親に向いてないんじゃないかって何度も考えたから……」


「ろ、ロイドさん……」


 ロイドの発言に強く共感できたのか何度も頷いた。


「そんな愚痴(ぐち)を聞きに家に来たわけじゃないでしょ! 貴方の事は良いからラビスちゃんの相談を聞かせて」


 一向に話が進まないと思ったレイナは早速本題に入る。


「……アルムって家庭だと学園の事について何を話していますか?」


「学園の事だと……昼食に何を食べただとか、授業が何だったとか、あとは最近だと魔導大会のことだな!」


「い、異性の事とか好きなタイプとかは?」


「うーん、異性の話題だとラビスちゃんくらいだと思うけど、好きなタイプ……なんか言ってたか?」


 思い付かなかったロイドはレイナに話を振る。

  

「……確か自分より身長が高い女性が好きって言ってたわね」


「……⁉ そ、そうなんですね……」


 好みの女性を聞き出すとラビスは強いショックを受け、自身の頭に軽く触れた。


「ラビスちゃん、あの子に気があるの?」


 その行動に確信を得たレイナは単刀直入に言い放つ。


「あ、えと…………はい……!」


 図星を突かれて何とか誤魔化そうと試みるも素直な気持ちを口にした。


「ええェ⁉ そうだったのか!」


 開口一番に驚くロイド、しかし顔を紅潮(こうちょう)させた彼女を見て静かに椅子に座る。


(じゃあ待てよ! ラビスちゃんもアルムの事が好きってことは相思相愛(そうしそうあい)ってことなのか……!)


 ロイドは気持ちを整理しながら数日前の風呂の一件を思い出していた。


「うふふ、あの子のどこを好きになったの?」


 恍惚(こうこつ)とした表情を浮かべてラビスに尋ねた。


「えっと、アルムは、自分の危険を(かえり)みずに私たちを助けたり、酷いことをされても冷静に対応できたり、強いのに力を誇示(こじ)するような事はしなかったり、自分を(おとし)めてまで誰かを庇ったり……そんな凄い人でも私や周りの人を頼ってくれて――――私はそんなアルムが大好きです!」


 最初こそ恥ずかしそうに答えるが今までの言動を振り返り、異性として好意を寄せていると再認識しているようだった。 


「私が言うのもおかしいけど、あの子を好きになってくれてありがとう……!」


 勇気をもって話してくれたラビスに対してはにかむように笑う。


「このこと、アルムは知っているの?」


「いえ、でも彼には別に好きな人がいるようなのでこの気持ちは閉まっておくことのします」


「そんな簡単にあきらめちゃ駄目よ!」


「私から見ても素敵な女性ですから、アルムが夢中になるのも仕方ないですよ……」


「ラビスちゃん……」


 レイナは彼女を応援したい反面、息子にも好きな人と添い遂げて欲しいという二つの思いに阻まれ、言葉が出なかった。 


「お仕事で忙しいのに相談に乗ってくれてありがとうございました」


 気持ちに折り合いが付けられた彼女はそう言って椅子から立ち上がる。


「ッ……!」


 そんな彼女を引き留める言葉が思い浮かばず、去って行く背中を見送るしかなかった。


「少し前に聞いたんだ、『ラビスちゃんの事をどう思っているんだ?』って……」


「……それで、なんて言っていたの?」


 独り言のようにロイドは呟くとレイナはは身を乗り出して質問し、ラビスの足は止まった。


「『好きだ、結婚して欲しいくらい』って言っていたよ」


「ッ……! 冗談でもそんな事を言っては駄目です――――」


 嬉しさが込み上げ、顔を歪まる彼女だがすぐに平静を取り戻す。


「勿論、(なぐさ)めや同情で言った訳じゃない。アルムもきみの事が好きだから言ったんだ」


「……仮にそう言っていたとしても、今もその気持ちのままかどうかは分からないですよ」


 ラビスは生徒会の見学でアルムが一目惚れしたと思い込んでおり、ロイドが真実を語ったとしてもそれは以前の話だと考えていた。


「ああ、人の気持ちは変わる。強く(さと)いアイツなら魅力的な女性に言い寄られるかもしれない。でも、ラビスちゃんはアルムにとって特別な存在なのは確かだ。友人としてなのか、異性としてなのかは分からないがそれだけは変わらない」


「……そうであったなら嬉しいです。私もこの気持ちがどう変化しようと初めての友人で、初めて好きになった人なのは変わるつもりはありませんから!」


「ラビスちゃん……!」


 レイナは何かの衝動に駆られ、ラビスを優しく抱きしめる。


「アルムがだれを好きになったとしても私は祝福するわ。でも、その相手が貴方であって欲しいと本気で思っている! だから最後まであきらめないで!」


「……はい! レイナさん……」


 母親の温かさに(ほだ)され、彼女の目じりに涙が浮かんだ。


「……そろそろアルムも帰ってくると思うので、私もお(いとま)させていただきます」


 時計を一瞥(いちべつ)した彼女はレイナの手をほどいて玄関へ向かい、マインはクッキーを掴んで走り出した。


「クッキーあげるから泣かないで、お姉ちゃん!」


「うん……ありがとう、マインちゃん」


 手でさっと涙を拭いてクッキーを受け取る。


「また遊びに来てくれる?」


「うん! 必ず来るから今度はたくさん遊ぼうね」


 彼女はマインの頭を撫で、嬉しそうに受け入れる。


「ではお邪魔しました」


 そう言い残してラビスはこの家を後にした。


 *** 


「なんだ、『お姉ちゃん』ってラビスの事だったのか」


「そうなの、すっかり仲良くなったみたいで!」


 アルムたちは夕食を食べながら数時間前の出来事を話していた。

 無論、ラビスが好意を持っている事は伏せて話を進めた。


「優しいお姉ちゃんが出来て良かったな、マイン」


「うん! お兄ちゃんとお姉ちゃんが結婚して一緒に住みたい!」


「ちょ!」

「マイン!」


 それらの話題を意識していたふたりはおかしな挙動で止めに入る。


「なにやってんの二人とも、ただの冗談だろ?」


「はは、だよな!」


「本当よねェ!」


 らしくない、と言って両親を怪訝(けげん)そうな目で見つめられ、苦笑いで何とか乗り切った。


「そんな事よりアルムこそ話したい事があるんじゃないのか?」


 ロイドは話題を変えようとアルムの話題に切り替えさせる。


「ああ、実は今日の放課後――――」


 アルムは淡々と王城での出来事を話し、両親が卒倒(そっとう)してしまったのは言うまでも無かった。

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