恋に焦がれる少女
王侯貴族たちとの議会が終了後、アルムは報奨金を貰って足早に帰宅した。
「……! お帰りなさいアルム」
ややぎこちない様子で息子に声を掛けるレイナ。
「……ただいま」
「何かあったの?」
しか大きな革袋を提げ、引きつった笑顔を見せる彼を心配し、夕食の支度を止めてアルムに向き合った。
「いや……まあちょっとね……」
「お父さんとマインはお風呂に入っているから今なら話しても大丈夫よ」
「……いや、皆がいる時に話すよ」
どこを話してどこを隠すべきかを悩んで話を濁す彼にレイナは分かったと言って追及することは無かった。
「着替えてきなさい、もうすぐ夕食だから」
アルムは素直に従って自室へ向かう階段を上がる。
(余計なことは言わなくていい、俺の活躍が認められて報奨金がもらえた。良し! それで行こう!)
気持ちを切り替えたアルムは制服を脱ぎ捨て、部屋着に着替えるとリビングに向かった。
「あっ! お兄ちゃんお帰り」
丁度、浴室のドアを開けてマインが姿を見せる。
「ただいま、なんか良い事でもあったのか?」
「うん! さっきお姉ちゃんが出来たの!」
「はぁ⁉」
アルムは嬉しそうな妹に理由を尋ねると予想の斜め上の発言に困惑した表所を浮かべる。
「ちょっとマイン! それは秘密って言ったでしょ!」
レイナは言いつけを破った娘に詰め寄るとそそくさと逃げ回り、遅れてロイドが登場する。
「おぉ! お帰りアルム」
「……三人目が出来たってこと?」
「え、どういう事⁉ レイナ妊娠したの⁉」
アルムは妹の言い間違えも考慮して父親に尋ねると驚いた様子で妻に尋ねた。
「もう! めちゃくちゃよ……」
レイナは呆れ果て、その場に座り込んでしまった。
***
それは今日の放課後、アルムが王城に訪れていた時の話だった。
(あれ、もしかして……)
作業場をロイドに任せて店内を歩き回っていると見覚えのある魔法学生を発見する。
「ラビスちゃん! 来てくれて嬉しいわぁ!」
「どうもお久しぶりです……」
嬉しそうに声を掛けるとラビスは軽く会釈した。
「店に来てくれるかずっと待っていたのよ! なにか欲しい服でもあるのかしら」
「ほ、欲しい服はあるんですけど、今日は少し聞きたい事があって……」
自分が迷惑なことをしていると自覚していたため、申しわけ無さそうにするラビス。
「いえ、お仕事中に失礼しました――――」
「待って!」
耐えきれず店を出て行こうとするもレイナに腕を掴まれる。
「……大体把握したわ、ひとまず上がっていって」
彼女の腕を掴んだまま作業場へ入り、二階へ続く階段へ上っていく。
「なになにどういう状況?」
誘拐と勘違いされそうな行動をする妻に洋裁をしながらロイドは尋ねた。
「この子の相談に乗ってあげるのよ」
「……よく分からないけど了解」
主人からの許可も得た彼女らは二階へ上がって行った。
「すぐに相談に乗ってあげたいけど、店を閉めるまであと30分だからここでくつろいで待っててね」
ラビスをソファーに座らせると紅茶とお菓子を用意する。
「お、お気遣いなく……」
レイナの勢いに気圧された彼女は否定も抵抗もできず、目の前の事象を受け入れた。
「お母さん、お仕事終わり……?」
先程までお昼寝していたマインが目を擦りながらリビングに足を踏み入れる。
「お母さんたち、もうすぐお仕事終わるから大人しく……いやラビスお姉さんと遊んでいてね」
「ええェ⁉ わ、わたし兄弟とかいないから接し方とか分からないですよ!」
「大丈夫、お菓子をあげたりそばに居るだけで良いから。じゃよろしくね」
そう言い残すと一階の作業場まで下った。
「……お母さん」
「ま、マインちゃん! お菓子食べる? このクッキーとか美味しそうだよ」
思いがけない展開に戸惑いつつも寂しそうに呟くマインを見て、幼児とのコミュニケーションに奮闘する。
「いらない!」
しかし初対面の相手に警戒し、マインはそっぽを向いてしまう。
「じゃ、じゃあ……追いかけっこする?」
「追いかけっこもしない!」
お菓子作戦が失敗したラビスは代案を提示するがこれまた却下され、三階に逃げられてしまう。
「そ、そうですか……」
ラビスはどう対処したらいいか分からずその場で固まった。
(ううぅ……子供と遊ぶってこんなに大変なの⁉ それとも私が下手なだけ? そもそもこんなつもりじゃ無かったのに……)
ラビスは自分の不甲斐なさに打ちひしがれた。
アルムが不在であるにも関わらず彼女がライタード家に訪れた理由、は特にないがカルティアに意中の相手が取られてしまう事を危惧してなんとなく、本当に何となく訪れたのだった。
「そもそもアルムのご両親が働いているに決まってるじゃん。本当に私って、何やってんだろ……おいしい」
目的も理由もはっきりせず、ただ彼らに迷惑を掛ける自分を責め、そう言いつつクッキーを口に放り込んだ。
「アルム、会長さんとお城で何してんだろう……」
食堂での誘いは他の生徒たちも聞いていたようで昼休みが終了する前には学園全体に知れ渡っていた。
無論、そのことは彼女の耳にも入ってきたがあんな別れ方を後で普通に話しかけられる訳も無く、授業中もずっとその事で頭がいっぱいだった。
「行かないで、と言えなくても誘われた理由くらいは聞けばよかったな」
後悔のように口ずさむ彼女だが起きてしまったことを止める術はない。
「ああぁ――――もうっ! アルムの事は一旦忘れてマインちゃんとあそぼっ!」
しかし胸の内に秘めた思いを吐き出したお陰でいつもの調子を取り戻し、彼女も三階へ駆け上がった。




