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死神だった俺、暗黒魔法の転生者として平和な時代で再び戦いに巻き込まれる  作者: バッチョ
大会練習

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練習開始

 選手たちとの顔合わせを終えた翌日の放課後。


「今日から百キロ走(ハンドレッド・ラン)の指導を務めるバルデンだ。よろしく! じゃここに居る人らで軽く自己紹介してくれ」


 陽気な挨拶とともに自己紹介が始まる。

 今日から二週間は種目練習を自由にやって良いとの事なので、初日は百キロ走を選択した。

 バルデンやほかの選手候補生も初対面な者ばかりだが好戦的な奴は居なそうだ。放課後の一件で初日はここの練習を選んだのは正解だな。

 まあ、強いて言うなら……。


「はい次! そこの君」


 バルデンが俺に向けて指差す。

 いつの間にか最後の番まで回ってきたようで学年と名前を言った。


「これで全員……今年も少ないなぁ」


 バルデンは露骨に落ち込んだ様子を見せる。

 俺は練習人数がどれぐらいが普通なのか分からないためどう反応すればいいか困るが、初日はバルデンを抜いて三人だ。


「質問しても良いですか?」


「何でも聞いてくれ、アルム=ライタード!」


 現状を聞き出そうと挙手すると嬉しそうに許可を出す。


「今年も少ないってことは、百キロ走(ハンドレッド・ラン)ってあまり人気がないんですか?」


 彼本人が自覚しているため率直に尋ねる。


「そうだな、他の二種目に比べて人気は少ないかもしれん……」


「順位ポイントを見れば軽視できる気はしないと思いますが?」


 他の二種目はポイントを獲得するのに自身の力量を試される要素が多い。

 テイバンやセロブロぐらいの実力が無ければ出場枠を勝ち取るのは勿論、勝ち抜くのは極めて難しい。

 であれば参加人数無制限で運要素も大きいこの種目を練習した方が大会で活躍できる可能性は高い。


「アピール力が低いからかな。魔法とか腕っぷしとかが魔導大会の見せ場だしね。それに魔法師で一番大切な要素だ、だから人気が少ないのは仕方のないことだと思うよ」


 五年生のスベンという男は理由を的確に解説した。

 確かに魔法力が高い人間と持久力が高い人間、どちらも欲しい人材ではあるがどちらか一方と言われれば前者であるのは間違いない。

 それだけ魔法師に必要な能力は明確になっており、持久力や忍耐力はあったら良いぐらいでしか見られていない。


「しかし出場できないと諦めた生徒らがこちらに流れてくることは毎年の恒例(こうれい)だからみんな気を抜かないようにな。それに人数制限は無くとも状況次第ではこちらで人数制限(ボーダーライン)を設けることになっているから練習に参加していれば出場できるとは限らない事も忘れるなよ」


 バルデンは補足するように付け足した。

 人数制限がないため出場選手を多く投入した方がより多くの順位ポイントを獲得できる可能性は高いが、その分学園全体の総合ポイントを減らすリスクも高くなってしまう。

 中途半端な選手を出場させるぐらいなら24位以内に入れる選手を出場させるのが最善で最良の判断と言える。


「軽くストレッチをしたら外周を走ろう。今日は初日だから十周ぐらいにしておこう!」


 パンッと手を叩いてバルデンは柔軟体操を始める。

 外周とは校外を囲う壁の道のことで一周で三キロ近くある。

 まあ身体強化を使うなとは言ってないし頑張るか……。


「アルム=ライタード君、少し良いですか?」


 脚を屈伸させていると後ろから声を掛けられる。


「はい――――おッ⁉」 

 

 振り返った瞬間には誰の姿も見えなかったが下のほうへ視線が向いて少女の存在を認識する。 


「驚かせてすみません、改めまして二年生のマリア=レイスグレイと言います」


 150センチにも満たない小柄な少女が軽く頭を下げる。

 それにレイスグレイ、ってどこかで聞いた家名だ……。


「――――ディアン=レイスグレイ!」


 突然思い出した男の家名叫んで彼女を驚かせてしまう。

 

「……兄の名前ですが、どうかしましたか?」


「ああ! 驚かせてすみません、どこかで聞き覚えのある家名だったので」


「兄の名前が広まっているのは誇らしいことです」


 知名度が高いお兄さんで助かった。

 竜種の話は秘匿情報だからどこで知ったのか彼女に問い詰められたらヤバかった。


「話の腰を折ってすみません、それで俺に何の用ですか?」

 

「はい、言うのが遅くなってしまいましたが、演習場での戦いではテイバンさんを庇ってくれてありがとうございます」


 今度は深々とお辞儀をするが、庇うというには語弊(ごへい)がある。

 結局、彼の全力の魔法を引き出して勝ったのだからメンツは丸潰れ。正直に言って彼と対面するのは気まずい……。


「……ちなみに彼は何か言っていましたか?」


 返答次第では菓子折りでも持ってて謝罪も……、そんな事を想定しながら尋ねる。


「『戦えてよかった……』とだけ言っていました」


「それなら良かったです……」


 少しぐらい悪態を吐いてくれたほうが逆に安心できたのに。


「そろそろ走るぞ!」


 校門前に立つバルデンへ小走りで向かう。


「先生は一周あたり四分で走るけど、ペースは各々自由で良い。自分ペースで最後まで走り切るように!」


「「「はいッ!」」」


 実際の大会で考えればバルデンのペースぐらいが丁度良いし彼に合わせよう。


「よーい、ドン‼」


 バルデンの合図とともに俺たちは走りだした。


 ***  


 練習が始まってから一時間が経過する。

 俺とスベンの男二人は走り終えて休憩していた。

 ちなみにマリアとバルデンはというと――――。


「あと一周だァ! 頑張れ!」


 必死に息を切らしながら走るマリアを隣でバルテンの応援が響く。

 体格的に難しいとは思っていたが案の定、遅かった。

 

「アルム君、水飲むかい?」


 大きな水玉を片手に生成してスベンが声を掛ける。


「頂きます」


 口を開けると大水玉から切り分けられた小さな水玉が口内に収まる。

 乾燥した口の中が冷たい水で潤い、ぼぉとしていた意識が目覚めるのを感じた。


「走っている最中に冷たい水が飲めるなんて羨ましいです」


「――――プハッ……だからこの競技を選んだんだよ」  


 飲み終えたスベンは笑顔を浮かべて答える。


「スベン先輩は去年から魔導大会の選手に選ばれたんですよね。去年も百キロ走(ハンドレッド・ラン)に出場したんですか?」


 練習に励む仲間として交流を深める。


「去年の俺は魔撃墜ホープ・シューティングに出場したかったから百キロ走(ハンドレッド・ラン)には出ていないんだ」


「じゃあ魔撃墜ホープ・シューティングに出場したんですね」


 スベンの笑顔が少し曇る。


「いや、俺は出場できなかった。大会当日まで監督する先生方に認めてもらおうと頑張ったけれど、駄目だった……」


 彼の横顔を見ると悔しさが滲み出ていた。

 先の言葉から特別な理由があって選ばれなかったわけじゃないと理解できる。

 単純に実力が他の選手より劣っておりそんな状況でも己のやりたい事を優先した結果、選ばれなかった……そんな誰もが経験するありふれた理由。


「野暮な事を聞きますけど、どうして今年は種目を変えたんですか?」


「……きみが魔撃墜ホープ・シューティングにも出場するから諦めたんだ、っていったらどうする?」


「えッ⁉」


 予想の斜め上な理由に言葉に詰まる。

 諦めさせた俺がそれを聞くって……めっちゃ地雷踏んだ。


「そ、それは……」


 どんな言い訳をすればいいか思考を巡らしていると、スベンの体が小刻みに揺れているのに気づき、一気に吹き出した。


「え……スベン先輩?」


「――――少しからかうつもりだったんだけど、そんな真面目に受け取られると思ってなくて……ごめんね、気にしないで」


 笑いを堪えながら弁明するスベン。


「アルム君が魔撃墜ホープ・シューティングに出場するしないに関わらず今年は止めようと決めていたんだ」


「それは魔導大会で活躍するためですか?」


「そうだね。俺の家は男爵家だから魔導大会で活躍して国家機関に入ること、これだけは譲れない」


 自身に言い聞かせるように語った。

 彼の言う国家機関とは、騎士団や学園教師、研究者など国の中枢を担う仕事のことだ。

 恐らくそのような職に就くことが実家の地位を押し上げる要素になるのだろう。


「良い悪いと判断する気はありませんが、そう決断できたことに敬意を表します」


「……後輩にこんなことを言われるなんてな。じゃあ俺からも言わせてくれ……全種目出場、生半可(なまはんか)な覚悟と実力では口に出すことすら躊躇(ためら)われる。でもきみは恐れ多くもあの場で宣言した。だから、絶対に実現してくれ! 俺はその言葉を信じているから」


 スベンは力強く俺の両手を握った。

 その行為には自分の無念や悔しさを託された、そんな感覚さえ覚える。


「お互いに頑張りましょう!」


「ああ!」


 初日の練習でここを選んで本当に良かった。


「良く頑張ったぞマリア!」


 汗だくになりながらも十周を達成した彼女にバルデンが激励を送る。


「俺たちも行こうか」


「はい!」


 熱く語り合った芝生から立ち上がり、彼らのほうへ向かった。

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