二日ぶりの登校
オリバーたちと救助隊を町まで送り届け、朝の七時頃には王都へ帰還を果たし、そのまま制服に着替えて学園へ向かった。
「おはようアルム、風邪はもう治ったの?」
教室に入ると俺の顔を見るや否やラビスが駆け寄る。
「ああ、完全に治ったよ。お見舞い来てくれたのに悪かったな」
俺は罪悪感が芽生え、彼女を直視できず教室の隅に視線を向けた。
流石に竜種討伐のために英気を養うため、なんて理由で休める訳が無い。
無難に風邪を引いたと伝えたら一昨日の放課後にラビスが家に訪れたのだ。
彼女がお見舞いにすることは想定しておらず、当時の俺は薬で熟睡していたため、レイナが機転を利かせて誤魔化せた。
正直、ラビスなら事情を話しても良いと思ったが、人並み以上に正義感が強い彼女に竜種の存在を知ってしまったら付いて行くと言い出しかねない。
隠し通すつもりはないが教える必要も無いと判断し、今は知らないままで良いだろう。
「ううん、気にしないで。でも私に出来ることがあったら遠慮なく言ってね!」
「あ、ありがとうな……」
純粋な笑顔を向けられ、ズタボロの良心を絞り出して感謝の言葉を口にした。
「あっ! 聞いてアルム、昨日は魔導大会の出場者を決める試験をやったんだ」
ふと思い出したようにそんなことを話し出す。
魔導大会、生徒会長との賭けた舞台……。
「出場者を決める試験ってことはその試験を受けないと魔導大会に出場できないってこと⁉」
もしそうなれば彼女との賭けはどうなる?
あの女のことだ、不戦勝でも条件を呑ませようとしてくるに違いない……。
「そこは大丈夫だよ、アルムは選手として出場することが確定していたから! 因みに私も選手になったよ」
俺の不安を余所にラビスは嬉しそうに告げる。
「すげぇじゃん! でも受けてもいない俺が選手に選ばれて良いのか?」
この大会の重要性や意味についてあまり理解できていないが、周辺国を交えた取り組みである以上は軽んじれるものでないことは分かる。
「お前の実力は魔物討伐試験とテイバンとの戦いで十分に認められている。今更テストを受けるまでもない」
俺の疑問はいつの間にか後ろの席に座っていたセロブロが答える。
「言うまでも無いと思うが、僕も選手として選ばれた」
聞いてもいない事を教えてくるセロブロに対し、俺はおめでとうと言って適当に褒めた。
「昨日の試験はどんなことをやったんだ? 他のクラスにも出場選手は居るの?」
俺は二日分の遅れを取り戻そうと情報収集に掛かる。
「試験は持久走と魔法で的当て、そして最後はクラス全員で乱戦だったかな」
「初めの二つはともかく、最後のは恐ろしいな……」
ラビスの口から乱戦という単語を聞くことになるとは思わなかったが、その内容であればセロブロやラビスが選ばれるのも納得できる。
そもそも学力や魔法力が試される試験なら、学園内でも飛び抜けた実力を有している彼が選ばれない道理はない。
「選手の人数は一クラスに三人の生徒が選出されるから、全学年を合わせて60人だな」
魔法学の教本を読みながらセロブロも真面目に答えてくれた。
「60人⁉ 学年の半分が選手として出場するのか!」
「いや、正確に言えば選手候補だな。競技ごとに分かれて練習し、大会当日に候補生から出場選手を選ぶんだ。まあ実力的に上級生が選ばれるのが恒例で、下級生は経験を積ませるのが主な目的らしいが」
そう言うセロブロだが出場する気は満々だった。
「俺も先輩たちの雄姿を眺めるだけなんて御免だね」
「アルムがこういうイベントに乗り気だなんて少し意外……」
「ま、まあ候補として選ばれたなら最善を尽くさなくちゃね。目指すは個人総合一位だぜ!」
「個人総合一位⁉ 本気で言っているのか?」
勢いに任せて賭けの条件を口にするとセロブロが驚いた様子で聞き返す。
「本気だけど、そんなおかしいこと言ったか?」
「……ったく、前年度の選手も競技内容も知らないからそんな戯言が言えるんだ」
セロブロはため息を吐きながら背もたれに寄り掛かる。
簡単に成し遂げられるとは考えていないが、三年生のテイバンが総合八位なら達成できない目標では無さそうだが……。
「そんな危うい発言はここだけにしろ。上級生に聞かれでもしたら反感を買うぞ」
脅しのように聞こえる物言いだが、見方を変えれば心配しているようにも聞こえる。
「だったらこの前みたいに教えてくれよ、飯でも食いながらさ!」
「……借りは返したはずだぞ?」
これ以上の義理は無い、そんな意地悪く突き放つ。
「じゃあこれからは対等に飯が食えるな」
予想外の返答に肩透かしを食らうセロブロ。
「平民のお前と同列に考えられるなんて僕も舐められたものだ……」
自嘲気味に話す彼だがそこまで嫌そうには見えない。
面倒くさい性格ではあるけど、それを含めてこいつと仲良くしたいと最近では思い始めている。
「舐めてなんかいない、俺はただお前と仲良くなりたいだけだよ」
そう言うと彼の金眼が鋭く俺を睨みつける。
入学したての頃なら傷害事件になってもおかしくないくらいに険悪な関係だったが今は違う。
試験での争いを経てお互いの見方が変わり、義理を果たすためとはいえ昼飯を共にするまで関係になった。
嫌われるリスクを背負ってまで彼の口から聞き出す必要はないと分かっている。
だが俺はこの学び舎で同世代と交流を深め、学園生活を謳歌するために入学したのだ。
やりたい事が決まっているなら効率も合理的も関係ない、交流を深めるためにもう一歩踏み込んで行きたい!
「……好きにしろ」
吐き捨てるように言い放つとセロブロは教本で顔を覆う。
その行動は表情を悟られないよう隠すようにも見えた。
「みなさん、おはようございます!」
ホームルームの時間になりフェルンが入室する。
「頼むな、セロブロ!」
俺は体勢を黒板側に向けて新たな学園生活をスタートした。




