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死神だった俺、暗黒魔法の転生者として平和な時代で再び戦いに巻き込まれる  作者: バッチョ
竜種討伐

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戦場に降り立った少年

「……あいつらも頑張ってるみたいだな」


 遠くから躍起に満ちた部下たちの声が聞こえるとブレイドは安心したように微笑む。 


「俺も負けていられねェ――――ッ……!」


 そう意気込むブレイドだが呼吸遣いは荒く、鎧の下は尋常では無い汗をかいており立つことも難しい様子だった。

 竜息のせいで呼吸すらままならない戦場だが、これまでの彼であれば難なく乗り越えられる障害だった。


「団長ォ! 片腕しかないんですから無茶は止めてください!」


 心配して注意する部下にブレイドは言い返す余裕も無い。

 ブレイドは片腕を失っても普段通りの態度を取っていたが、当たり前にあったはずの腕が無くなるというのは想像以上に過酷なものだった。

 私生活の不自由さを感じるのは勿論、体の左右で重さが異なるためバランスが取りにくく、両腕を振れないのは歩行にすら影響を与える。その上、魔法そのものを苦手とするブレイドは剣に魔力を纏わせるという魔力操作の基礎技術と剣術のみで戦って来たため、片腕の欠損による戦闘力の低下はこの場の誰よりも大きいものだった。

 出来る限り左右差を少なくするため右腕部の鎧も身に付けているがそれも誤差の範囲。


(誰かに心配されるなんて何十年ぶりだ、クソォ!)


 ブレイドは自身の無力さに嘆く。

 強化種灰竜をおびき寄せるため群れに突っ込んだ際も、俊敏性や踏み込みが劣っていると気付いたのは本人だけでは無かった。


「一番ひだり! 竜息(ブレス)を来るぞ!」


 最前線で竜種と対峙する騎士は大声で仲間に警告する。


「――――【不可視の斬撃(イヴェル・スレイド)】!」

 

 竜種の首元に狙いを定めて斜めに剣を振り下ろすと空を切ったはずの剣筋は竜種の首元に同じ軌道を描く。

 切断するには至らなかったが、外皮を斬り裂いて血を噴出させた。


「「今だァ!」」


 竜息を撃ち止めた隙に騎士たちは一斉に斬りかかる。しかし必死に抵抗する竜種を相手に簡単に仕留められず、ある者は圧し潰され、ある者は咬み千切られ、一瞬にして命を落とす。

 それでも目の前の好機を逃すまいと騎士たちは果敢(かかん)に攻め続けた。


「……お前ら」 


「ブレイド団長ォ! 逃げてください!」


 目の前の騎士たちを跳ね除けて手負いの竜種がブレイドに猛進する。


「……来いよ。細切れにしてやる!」


 それに呼応してブレイドも長剣を片手に駆け出す。


「冷静になってください団長!」


(うる)せぇ! お前らが下がれ!」


 竜種を止めようと追従する騎士にブレイドは言い放つと更に強く踏み込み、竜種の首に斬り掛かる。


「【|一刀(スレイド)ォ!】」


 魔力を纏わせた剣を横に一閃――――しかし次の瞬間、ブレイドの剣は無数の破片となって砕け散った。

 竜種は自身の大きな体を捻ると目の前の人間にしなやかな尻尾を叩き込む。


「ガハァ――――⁉」


 大きな爆砕音を立てて斜め上に吹き飛ばされた。


「「「団長ォ――――‼」」」


 騎士団員が憧れる男は戦場を残して遥か遠くへ消えて行った。

 誰もが追いかけたという衝動に駆られるも目の前の敵はそれを許してはくれない。


「くっそそそおおおおォ――――‼」


 騎士たちは怒号を上げながら竜種に斬りかかる。

 しかしそれで力量差が埋められるほど竜種は甘い相手では無く、状況は悪化の一途を辿り始めた。

 ブレイドの援護が無くなったことで戦力の拮抗(きっこう)関係は崩壊し、騎士団側の死傷者が加速的に増加し始めた。


 一方、ディアンたちは適度に距離を置いた状態で魔法を連発し、もう一体の竜種を仕留めようと奮闘(ふんとう)していた。


「全員で魔法を放ち、一気に畳みかけるぞ!」


「「了解!」」


 ほかの戦況を危ぶんだディアンはもう一体の竜種を仕留めに掛かる。


「もう一度頼むぞ、グラン!」


 魔法の一斉攻撃から泥潜蛇(グラン)の酸液で止めを刺そうと、再び地中に潜らせる。


「行くぞお前ェ――――何だこれ?」


 攻撃の合図を送り出そうとするも地面からの大きな揺れに警戒心を高める。

 

「……まさか⁉」


 嫌な予感に襲われたディアンは周囲を見渡すと、自分たちで仕留めたはずの竜種が掘られた地面に目掛けて竜息を吹き込んでいた。


「何で生きて――――じゃなくて、早く出ろ!」


 ディアンが命令するのと同時に地面から焼け爛れたサシャが姿を現す。

  

「グラン!」


 相棒のあられもない姿に顔をしかめ、即座に駆けつけて怪我の具合を確認する。

 竜息に晒された時間が長くなかったことから重傷ではないが、地中に潜れるどころか動けるような怪我ではなかった。


(死んだふり? 自己再生? それとも強化種灰竜(グレイバーン)からの命令……ってそんなことは今はどうでも良い!)


「ふざけんなよォ……!」


「不味い! 逃げろォ!」


「「「うあああああアアアアアアァァァ――――‼」」」


 激しい怒りを露わにするディアンだが応戦していた竜種が二度目の竜息を吐きだし、部下たちも大火傷を負ってしまう。


「……くッ!」


(くそッ! どうすれば良いんだ! 他の戦場に駆け付けようとしていた僕たちも今じゃ絶望的状況。これでは勝つどころか生きて帰ることすら危うい……!)


 焦る様子の主人に泥潜蛇(グラン)は心配そうに頬を舐める。


「……お前には励まされてばかりだな」


 ディアンは優しい顔で泥潜蛇(グラン)を撫でるとゆっくりと立ち上がった。


「死に(ぞこ)ないの竜種(ワイバーン)が二体、生きて帰れるのはほぼ無理だろうけど、精々粘って彼に託すとしよう……」


 意を決したディアンは竜種に斬り掛かろうとした時――――視線の先で影が僅かに揺れる。


「じゃあ託されました」


 直後、少年の声で聞こえると瞬く間に竜種の頭が地面に転げ落ちた。


「本部に連絡を入れてくれたのは貴方ですね。どうも門兵見習いのアルムです」


 そう言って大斧を両手に携えた少年が戦場に降り立った。


 ***

 

 同時刻、オリバーは右手の甲冑(かっちゅう)以外の鎧を脱ぎ捨て、半裸姿になっていた。


「良し、行こう」


 強化種灰竜が背中を見せると剣を片手に全速力で走り出す。


「ッ……⁉」


 焼け野原と化した地面は竜息の熱が冷めておらず裸足の彼に激痛を走らせる。

 しかし後戻りの選択肢など無く、痛みに耐えながらただひたすら走り続けた。


(あっっっっついけど! 足音を立てなかったお陰でだいぶ近付けた……でも、そろそろ振り返る頃合い……)


 オリバーは作戦を立てる際に竜種が周囲を見渡す間隔にも注目していた。

 そしてオリバーの予想通り、確認を終えた竜種が彼のほうを向こうとする。


「……今だ」


 小さく呟くと同時に彼の向こう側の木がへし折れると体勢を反転させ、折れた木に注意を向けさせた。


(作戦成功! あとはこのまま突っ走る!)


 勝機を見出したオリバーは更に加速する。

 鎧を脱いだ理由は静音性を高めるため、そしてもう一つは魔法を用いて注意を引き付けるためだった。

 彼が有する特異魔法『振動』は無生物に振動エネルギーを付与できるため、あらかじめ脱いだ鎧を木に括り付け、タイミングを見計らって魔法を発動させたのだ。


(あと少し……!)


 しかしオリバーと強化種灰竜との距離が40メートルに差し掛かったところで後ろを振り向かれ、接近に気付かれてしまう。


「なッ⁉」


 誘導されている違和感を気付いていたのか驚く様子は見せず、竜息をオリバーに向けて吐き出した。


「――――俺の賭けはここからだ!」


 そう意気込むオリバーは強化種灰竜に目掛けて持っていた剣を投擲する。

 しかし剣は竜息を避けるように下を向き、地面に深く突き刺さった。


「【震動刃(クルシュナイダー)】!」


 高速に振動する剣は地面にも伝播(でんぱ)し、竜種の足場に亀裂を生じさせる。

 竜種は大きく体勢を崩し、オリバーに向けられた竜息が僅かにずらした。


「アアァ――――‼」


 下半身が業火に焼かれるも直撃を回避したオリバーは勢いよく跳躍し、強化種灰竜の頭にしがみ付く。

 オリバーを食らおうと大きな口を開けるもギリギリのところで躱し、貫いた右目に自分の腕ごと甲冑(かっちゅう)をぶち込んだ。

 更なる激痛に襲われ暴れ狂う強化種灰竜、オリバーは甲冑から腕を引き抜き、地面に着地する。


「次は脳みそぶっ壊してやるよォ!」


 眼内に置いた甲冑に魔法を発動させ、凄まじい振動が竜種の頭を破壊する。

 前足で自身の顔を引っ掻く強化種灰竜だが、奥深くまで侵入した異物を取り出すのは非常に困難だった。 


「――――――――‼」

 

 自身の内側で起こる脳破壊を止める術はなく、竜息をガムシャラに吐き続けた。


「うああァ……⁉」


 焼き焦げた足で懸命に逃げるオリバーだが、竜息に呑まれてしまい背中にも火傷が広がってしまう。

 甲冑を取り出すことも出来ない強化種灰竜は、怒りに身を任せてオリバーを踏み潰そうとおぼつかない足取りで近付いた。


「――――まだ死ねない……お前が死ぬまでは絶対に死なない!」


 地べたを()って少しでも離れようとするオリバー、そんな彼に向けて強化種灰竜は竜息を吐き出した。


「くっそォ……!」


「【魔黒閃(ビルスター)】」


 死を覚悟するオリバーの頭上に一本の黒い熱線が通り過ぎる。

 その鋭い熱線は豪炎の濁流の中を逆流するように進み続け、強化種灰竜の頭部を抉るように消し飛ばした。


「……なぜ、きみがここに……?」


 昇る朝日が逆光となってはっきりと見えないが、オリバーはその人物を完全に認識する。

 三日前の夕暮時、そして夜明け前に始まった戦いは多くの犠牲を払い、騎士団が勝利を収めた。

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