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死神だった俺、暗黒魔法の転生者として平和な時代で再び戦いに巻き込まれる  作者: バッチョ
竜種討伐

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戦いの惨状

 殆んどの人間が寝静まる頃、王都東門で鉄柵が静かに引き上げられ、オリバー率いる彼の隊は馬に(またが)っていた。


「行くぞ、お前たち」


 状況判断や指示が出しやすいようオリバーを先頭に部下たちは馬を走らせる。

 目的地は竜種襲撃のために立てられた設営地。王国南部にも発展した町があるが、竜種たちの住処(すみか)から遠すぎて動向を掴むのが困難なため、数キロほど距離を取って設営した。

 

「彼のお陰で魔灯石は必要ありませんでしたね」


 後方を走らせていた部下の一人が先頭のオリバーと並ぶ。


「ああ、出発前に確認はしていたが改めて走ってみると本当に何もない。用意したのが馬鹿らしい」


 オリバーは発光性の魔石を用意させた自分を嘲笑(ちょうしょう)気味に答える。

 月明かりが地上を照らしたとしても真夜中では足元などはっきり見えない場所は多く、何より森に覆われて月明かりが届くことさえ無かった。

 しかしそれは数時間前のはなし。周辺に生い茂っていた広大な森はアルムによって大半が焼き尽くされ、焼け野原が拡がっていた。


「彼の凄さは報告書で把握しているつもりでしたが、ここまで規格外だとは思いませんでしたよ……」


 彼は人の身で成せる(わざ)なのかと驚嘆(きょうたん)畏怖(いふ)の声を漏らした。

 無論、彼の見分が狭いという訳ではない。事実、これだけの威力と範囲を両立させられる魔法師は現代においてそう多くない。

 常人を遥かに凌ぐ魔力総量を宿している上で、高い魔法技術を備えていなければ、連発するなんて芸当は不可能と言える。


「ああ、アルム君が王都に残ってくれるのなら安心だよ」


「彼が学園を卒業したら騎士団に入団するんでしょうか?」


「アルム君の将来なんて想像できないが、彼と共にこの国を守れるのなら大歓迎だ。まあすぐに昇進していくだろうがな……」


 オリバーは再び自嘲交じりに呟く。

 年下の子供と自身の圧倒的な実力差に打ちひしがれている様子だった。


「……オリバー隊長はブレイド団長と彼、どちらが強いと思いますか?」


 そんな彼を見兼ねた部下は別の話題を振るが、失言だったようでオリバーに睨まれてしまう。


「す、すみません! ふと疑問が湧いてしまって……」 


「……先の言葉は聞かなかったことにしよう。まああの二人の戦いは見てみたいと思わないことも無いがな。だが今の我々では彼らの実力を推して測ることも出来ない。ならば自己研鑽(けんさん)に時間と思考を回すべきだ、そう思わないか?」


「オリバー隊長の仰る通りです!」


 いつもの調子を取り戻したオリバーに部下は目を輝かせた。


(アルム君と僕に大きな実力差があるのは分かっていたことだ。しかしそれを恥じていたって状況は好転したりしない。今は竜種(ワイバーン)を討伐し、彼の信頼に報いることだけを考えろ!)


「団長たちの元までまだ先は長い、気張って行こう!」


「「「はっ‼」」」


 オリバーの溌剌(はつらつ)とした声は部下たちは鼓舞(こぶ)させた。


 ***


 王都から出立したオリバーたちは魔物に遭遇することは無く順調に進んでいき、昼過ぎにはブレイドたちの設営地に到着した。


「オリバー隊長、御足労(ごそくろう)頂き本当にありがとうございます……!」


 一足先に竜種と戦っていた騎士がオリバーに声を掛けた。


「疲れているところ申し訳ないが、ブレイド団長たちの元へ案内してくれ」


 疲労の色が見受けられたオリバーは早々に案内をさせた。


「今後の動きはこれから会議するからお前たちは休んでいろ」


 彼の指示に従い部下たちは馬を連れてその場を離れる。


「討伐隊の被害はどうなっている?」


 似たようなテントを通りながら案内する騎士に尋ねた。


「はい、まず今回の討伐作戦に動員された騎士の数はディアン隊から20名、ディンゼル隊から180名、そしてブレイド団長率いる80名を合わせて283名の騎士が動員されました」


 オリバーに分かりやすいよう動員された騎士の数から説明する。


「その内、56名が死亡、98名が重傷により討伐隊から離脱することを余儀(よぎ)なくされました……そして激闘の末、ディンゼル隊長は殉職(じゅんしょく)されました……」


「ディンゼル殿が‼ それは本当か⁉」


 報告を聞いていたオリバーは酷く取り乱し、鎧に掴み掛かる。

 主に西部地域を駐屯(ちゅうとん)するオリバーにとって接する機会はそんなに無かったが、憧れの騎士であることに変わりはなかった。


「……事実です‼」


 疲労が伺えた顔はいつの間にか悔し涙を流していた。

 

「す、済まない……」


 彼の声と涙に衝撃を受け、オリバーはゆっくり手を離した。


「――――謝らないでください、オリバー隊長が悪いことは《《何もしてしませんから》》……」


「……!」


 悪意や皮肉を込めたわけでは無い彼の言葉がオリバーの罪悪感を掻き立てる。


(僕が謹慎(きんしん)されていなければ、ディンゼル隊長が死ぬことも無かったかもしれないのに……)


「こちらに団長とディアン隊長が居ります、では私はこれで」


 そう言って案内を果たすと感謝を告げてオリバーはテントの中に入った。

 

「俺は来るなと言ったはずだぞ? オリバー」


「ッ……!」


 入るや否やブレイドの深紅色の眼がオリバーを鋭く見つめた。


「オリバーは悪くありません。伝承石で彼に救援を求めたのは僕なんで」


 怒られるのは筋違いです、と言ってディアンが庇う。


「まあこんな戦果しか収められなかった俺に説教する資格はねぇか」


 オリバーは普段と変わりない両者の様子を見て胸を撫で下ろした。


「先ほどこちらの被害状況は把握しました。ディンゼル隊長は国と民の為に使命を全うしたと……」


 ブレイドたちは無言を貫きディンゼルが戦死したことを肯定した。


「聞きたいのですが、生存している竜種(ワイバーン)の数はどれほどですか?」


「15体の内、討伐できたのは九体です。多くの死傷者を出した手前、あの場で駆逐したいところでしたけど団長が竜種(ワイバーン)のヘイトを一手に引き受けたくれたお陰で撤退することが出来ました。正直、あのまま戦い続けていたらヤバかった」


 死と隣り合わせの戦いは想像以上に精神と肉体を酷使(こくし)する。

 特に大規模な戦闘の場合は激情の渦に呑み込まれ、正常な判断が出来ないケースが多発する。それは引き際を誤り、必要以上に敵を追い掛け、より多くの損害を(こうむ)ってしまう。

 経験豊富なブレイドが率先(そっせん)して囮を引き受けたのは最善の選択だったと言えるだろう。


「たくさんの仲間が逝ってしまいましたが、貴方たちが無事でよかったです。残り六体なら何とかなりそうですね!」


 竜種と戦ったことはない彼だが、報告を聞いて脅威度についてある程度理解はできたようだ。 

 オリバーは素直な思いを口にするとブレイドは高らかに笑った。


「それはどうかな」


「……?」


 ブレイドは右腕部分の接合部を掴むと回転させながら鎧を取り外し、そのまま地面に落とした。


「え……!」


 オリバーは驚愕(きょうがく)しながらブレイドを指差す。

 そこには在るべき筈の右腕が無かった。


「肩から下はがぶっと食われちまった」


 不敵な笑みを浮かべるブレイドだが、その時の痛みが(よみがえ)ったのか顔全体に汗が(したた)る。


「そんな大怪我で何故この場に留まっているんですか!」 


 四肢(しし)の欠損は離脱しなければならない程の重傷である。


「お前たちを置いて俺だけベッドで寝ているわけにはいかねえだろ」


 彼の主張にオリバーは押し黙る。

 戦線から離脱し、腕を繋ぎ合わせることができるならオリバーも食い下がったかもしれない。だが欠損部を再生させることは現代の魔法技術でも不可能であるため、無理に説得を諦めたようだ。  


「つまり団長を抜きに残りの六体と戦うことに……」


 竜種の総数が半分以下になったとはいえ、ディンゼルの戦死とブレイドの事実上の戦闘継続不可は悪い状況だと言えよう。

 それに心身ともに疲弊(ひへい)した騎士たちも考慮するとオリバーたちの援軍を合わせても厳しい戦いになることは必然だった。


「待てオリバー。確かに残りは六体だが、一体だけ別格のやつがいる」


「……目安として聞かせてください。その竜種(ワイバーン)は通常個体で何体分ですか?」


 耳塞ぎたいと心の中で思いながらも真実に対面する覚悟を決めた。


「正確に言い表すのは難しいが、五体程度に考えておいてくれ」


 淡々と告げられた真実にオリバーは上を向いて口を閉じる他なかった。

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