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死神だった俺、暗黒魔法の転生者として平和な時代で再び戦いに巻き込まれる  作者: バッチョ
生徒会

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優雅なひととき

「海鮮パスタになります」


 正装服を綺麗に着こなすホールスタッフの男性はセロブロの料理を持ってくる。

 一階の食堂と違ってスタッフが運んできたり、内装が違ったりと貴族への配慮を(うた)うだけはあり、ここが学園の中だと言われても信じられないほどの格差があった。

 メニューも高価な食材を扱っているものが多く、内陸のエンドリアスには海鮮食材も手頃な値段ではない。


「ライタード様がご注文されたアップルパイは焼くのに時間が掛かるため、もう暫くお待ちください」


 男性スタッフは頭を下げて厨房へ向かって行った。


「先に食べているぞ」


「どうぞどうぞ」


 配られたフォークを片手に持つとパスタを巻き付け、上品な所作で口へ運んだ。


 クッ! ……海老の香ばしい香りにそそられるが、今は堪えろ!


「そう言えば何で俺に奢ってくれるんだ?」


 気を紛らわすためセロブロに話しかけると彼は飲み込んだ後に口を開く。


「お前への借りを返すためだ」


「借り? 俺、なんかしたか?」


 思い当たる節が無いので聞き返すと眉を微動させる。


「ほう、僕の口から言わせるとは性悪な奴め」


 そのままお言葉を返したい気持ちを抑えて苦笑するに止まる。


「……僕を負かしたと喧伝(けんでん)しなかっただろ。てっきりこれまでの恨みを晴らそうとすると思っていたが、態度を変えるわけでも無く、僕の顔を立ててくれた。どんな思惑(おもわく)があるのか知らんが、借りを返さないのはジクセス家の名折れだ」


 セロブロは今回の不可解な行動について説明してくれた。

 どんな思惑と言われても正直な話、完全にただの気紛(きまぐ)れだけどね。


「入学式の時は俺が悪いし、恨むも何もないよ」


 だが余計なことを言う必要は無い、好印象を維持しておこう。


「心にも思っていないくせに」


「それよりも副会長について教えてくれ!」


 図星を付かれた俺はすぐさま話題を切り替える。


「ああ、まず彼の名前はテイバン=ビルフォート、僕と同じ公爵家で四年生だ。ここら辺は知っているな?」


 名前からまず知らなかったけど、とりあえず頷く。


「生徒会に属するに見合うだけの高い魔法力を持ち合わせていながら、特異魔法として氷結魔法を発現させている。彼は氷結魔法と相性がいい水魔法を併用しながら中遠距離の戦闘を得意としている」


「ずいぶん詳しいな、戦ったことでもあるのか?」


「同じ公爵家だからな、何度か剣を交えたことはある……」 


 勝敗の結果を言わないということはテイバンのほうが実力的に上なのだろう。

 まあこの前のやり取りを見ていたからそれなりに実力差があるのは知っていたが、セロブロの反応を見るに結構な開きがあるようだ。


「俺と副会長が戦ったらどっちが勝つと思う?」


 俺の質問にセロブロは眉をひそめる。

 面倒くさいと思われただろうが、俺とテイバンの両方と戦闘経験がある彼がどちらを選ぶのか気になって、意地悪な質問を問いかける。


「……知らん!」


 少し悩んだ末に彼はそう吐き捨てた。


「知らん? 適当で良いから教えてよ」


「こんな公の場で勝敗の予想なんて言えるわけ無いだろう。しかも相手は公爵家、侮辱(ぶじょく)と取られてもおかしくない」 


 平民は気楽そうでいいな、と付け足して呆れた様子を見せる。

 その言い方だと『テイバンが負けると予想しているからこの場で言えない』という解釈も出来そうだ。


「はいはい、体裁(ていさい)を気にする公爵様は大変ですね」


「少し話は変わるが、人前で戦った経験はあるか?」

 

「……無いな。どうして急に?」


「今日の戦いを見に来る生徒はかなり多いはずだ。会場の雰囲気に吞まれて下手をしないか心配になってな」 


 雰囲気に呑まれるなんて話はよく聞くが、俺に限ってそんなことがあるのか?


「そもそもそんなに注目されてるのか?」


「お前の話題は落ち着きつつあるが、彼は去年の『魔導大会(まどうたいかい)』で総合八位の成績を収め、今年の優勝候補でもある。人前で戦う経験は何倍も積んでいる……まあ、あまり油断しないほうが良い」


 セロブロは視線をずらして照れくさそうに言った。

 かつての彼からは信じられない反応に思わず吹き出してしまう。


「何を笑っている! 焼き殺すぞ!」


 手に持っていたフォークを俺に突き立てた。


「落ち着けよセロブロ様、マナーが悪いぞ」


「チッ! 貴様などテイバンに凍死されてしまえばいいのだ!」


「そん時はお前の炎魔法で解凍してくれよな」


 食事の会話にしては少々物騒だが、こんな軽口を叩き合うのも悪い気分じゃないな。 


「お待たせしました、アップルパイになります」


 仲を深めている間に男性スタッフがホール状のアップルパイを持ってくる。

 綺麗なきつね色に焼かれた網目状の生地、そして隙間からは熱されて甘みを増したりんごが姿を見せる。


「オォ……」


 想像を超えた至高のアップルパイに思わず声を漏らす。

 目の前の好物に圧倒されながらもナイフで切り込みを入れ、フォークで突き刺す。


「――――良い」


 アップルパイの芳ばしい香りを堪能(たんのう)した後、そっと口に置いてくる。


 絶妙な生地感、りんご本来の甘みを活かした砂糖の量、りんごと生地の割合、生地の厚さ、りんごの配置、その他諸々――――――――。


「エクセレントゥ‼」


 抑えていた心の声を漏らす、というか叫んでしまった。


「何言ってんだ、お前……」


「あまりの美味しさについ、ね」


 目の前のセロブロを含め、周りの人たちに引かれてしまったが、この高揚を抑えることは出来ない!


「一緒にいる僕まで変な目で見られるのは不愉快だ、先に教室に行っている」


 気付けば彼はパスタを食べ終えていた。

 

「このアップルパイを食べさせてくれてありがとな!」


 前払いで会計は済ませていたため、快く彼を見送る。


「庶民には滅多に食べれない料理とはいえ、悠長に食べている暇は無いぞ」


「えっ?」


「午後の授業まで残り10分だ」


 彼は食堂の時計を指差し、自身の発言が嘘では無いと証明する。

 しかし彼は嘘を吐いており、昼休みまで残り九分だった。


「九分……」


「最後の晩餐(ばんさん)にならない事を祈っているよ」


 そんな捨て台詞を残して彼は階段を下って行く。


「なにが最後の晩餐(ばんさん)だよ! 別に遅れても死なねえし!」


 でも罰則(ペナルティ)があるのは確かだ。

 いつもなら適当にかき込んでいる所だが、このアップルパイをそんな雑に食っていいわけがない。


「ライタード様、よろしければこちらのアップルパイを箱に詰めましょうか?」


 男性のホールスタッフが状況を察して俺に声を掛ける。


「良いんですか? そんなこと頼んでも……」


「勿論です。生徒の皆さんが気持ちよく食事ができるよう尽くすのが、我々の仕事ですから」


 なんて素晴らしい奉仕の心だ、申し訳ないがここはお願いしよう。


「ではっ……」


 口を開きかけた時、冷静に己を俯瞰(ふかん)した。


 ここで箱詰めしてもらえば、家でゆっくりアップルパイを食べれるだろう。


 しかしこの焼き立て状態のアップルパイを食べることは叶わない。


 もしかしたらこれ以降、こんなアップルパイを食べれる機会が訪れないかもしれない。


「ライタード様?」


「……お心遣い感謝します。ですが、俺はここでアップルパイを食べたいんです!」


 授業ならいつでも受けられる。


 だがこのアップルパイはこの瞬間にしか味わえない!


「差し出がましいことを言ってしまい申し訳ございません。では心行くまで料理を堪能していってください」


「ありがとうございます!」


 シェフが超一流なら、スタッフも超一流ということか。

 昼休み終了まで残り五分、どれだけ頑張ってももう間に合わない時間だな。


「遅れたら一分も十分も変わらない。味わって食べるとしよう」


 自身の行いを正当化し、二口目を食べる。


 結局、20分の遅刻を果たした俺は反省文を書かされ、放課後には二時間に及ぶ指導と補習を受け、テイバンとの勝負は明日へ延期することになった。

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