旧敵と昼飯
登校途中でラビスと合流し、廊下を歩いていると掲示板に張られた新聞が目に入る。
「見て、学園新聞にアルムの名前が載ってるよ」
ラビスは興奮気味に張られた新聞に注目した。
学園新聞とは学園内のイベントや告知に利用されるもので園内の各所の掲示板に載せられている。
「何て書いてあるんだ?」
「えっとね、『アルム=ライタード、副会長と雌雄を決す』だって!」
「…………」
赤文字で染められた見出しを読み上げられると言葉を失ってしまう。
いや、まあ心当たりがそれくらいしかなかったけどまさか新聞に掲載するなんて。
ご丁寧に予定時刻に開催場所まで綴られており、観客を呼んで騒ぐ気満々のようだ。
「戦うとは聞いていたけど、まさか新聞に載せちゃうなんてね」
「そんなに盛り上がるか、これ……」
新聞に載せられたのは驚いたが、どれだけの生徒が興味を持つのかは疑問が残る。
しかし注目度と勝負の結果は関係ないと割り切って教室へ向かった。
しかし俺の思いとは裏腹に教室のドアを開けるとクラスメイトが俺の周囲に集まった。
「副会長と戦うってホントなの?」
「昨日の生徒会で何をやらかしたんだ?」
「カルティア様とお話しできました?」
新聞の真偽や個人的な話など様々な質問が寄せられた。
試験以降から彼らとの関係が改善されたが、こういった押し寄せは迷惑極まりない。
「……お前ら――――」
「僕の道を塞ぐな」
注意しようと口を開いた時、背後からセロブロの声が聞こえる。
「ごめん……」
セロブロの怒りに触れないよう集まっていたクラスメイトはドアの両端に移動し、道を開けた。
触らぬ神に祟りなし、俺やラビスも道を開けようとしたが聞きたい事があったため、俺はその場に留まることに決める。
「……なんだ?」
らしくない俺の様子にやや困惑の表情を見せる。
というのもセロブロを痛めつけたあの日から、彼と俺の関係はほとんど変わっていないのだ。
へりくだった態度を見せてくれると期待していたのだが、翌日も傲慢な態度は変わらなかった。
クラスの様子を見るに孤立させる気は無くなったようなので俺としてはこれ以上何かを求める気はない。
公爵家が平民に頭を下げる姿を見せたくないのは理解できるし、自分より強い存在がそばにいる状態であそこまで毅然とした態度を取れるのは自分を強く持っている証拠だ。
だから彼の気持ちを汲み取って不要な接触は避けてきた。
「セロブロって副会長と知り合いだろ。どんな人なのか教えてくれないか?」
最低限の敬意は持ちつつ、対等な関係であるかのように話しかけた。
試験前だったら呼び捨てとタメ口で取り巻きから罵声を浴びせられただろうが、今では黙ってセロブロの返答を待っているだけ。
とは言え『話しかけるなぁ!』という視線を俺に向けているが、聞きたい事があるのだから仕方ない。
「……別に良いが、大した情報は持っていないぞ?」
見下すような言葉遣いでは無く、向こうも対等なクラスメイトの関係として返答する。
「ああ、それで構わないよ」
相手が公爵家と副会長という情報しか知らない俺にはそれだけで十分だ。
「分かった、昼休みに食堂で話そう」
俺との約束を取り付けて、取り巻きたちのほうへ向かう。
根は悪い奴じゃない……はずだから、どこかで仲良くなりたいものだ。
「皆さん、おはようござ――――何ですか⁉」
入室したフェルンはドアの両端にまとまった生徒らに驚く。
俺たちの会話が気になって動かなかったのだろうが、そこまで注目を当てめていたのか……。
「普通に話せるようになるには、一体何年かかるんだ……」
セロブロと交流するのは難しいことだと再認識し、朝礼が始まった。
***
午前の授業を終え、俺とセロブロは約束通り食堂へ向かった。
扉を開けた瞬間からパスタやスープなどの美味しそうな匂いが鼻を通り抜け、食欲を搔き立てる。
今すぐにでも注文したい俺だったが、目の前の問題解決に取り掛かった。
「『二階』で一番安い料理っていくらだ?」
一縷の希望を込めてセロブロに尋ねた。
何故おれがこんな質問をするのかと言うと、学園の食堂システムに問題があるのだ。
学園の食堂は一階と二階で別れており、それぞれの階で台所が設置されている。
一つ目は混雑を避けるためだ。
食堂は四百人近くの生徒が同じ時間に利用するため、広いスペースを確保しなくてはならない。
一階だけでは園内の敷地を使いすぎてしまうため、二階にも食事の場所を設けられている。
二つ目は貴族へ配慮するためだ。
学園内では家柄や権力の違いに寛容になるが、それでも子爵以上の人間は平民と同じ席で食事を取ることに抵抗を感じる者が多い。
それに食事の内容も違ってくるため二階はお値段高めの高級料理を中心に、一階はリーズナブルな価格でお値段以上の料理を楽しめる形を取っている。
無論、一階の食事で満足しているため昼飯代は多く貰っていない。
セロブロが俺に合わせて一階に来てもらおうと考えたが、俺から頼み込んでいるのに合わせてもらうのは流石に申し訳ない。
ならば俺の予算内で食べれる料理を探すしかない。
「そんなの知るわけ無いだろう」
そんな淡い期待は無残に朽ち果てた。
まあ、公爵家の人間が料理の値段なんて気にするわけも無いか……。
「僕がお金を出すから、貴様は食べたい料理でも考えておけ」
「えっ……?」
「まさか払えないと思っているのか?」
突然の奢り宣言に驚いているとジロッと睨みつけられる。
「いや、そうじゃないけど……」
頼み込んだ俺が奢ってもらうのは心苦しいし、そこまでしてもらう義理も無い。
何か悪巧みをしているほうが彼の行動に納得できる。
「……僕を疑うのは好きにするといい。だが腹を空かしているのはお前だけじゃないんだ。決めるなら早くしてくれ」
セロブロは腕を組み、俺の判断を待っている様子。
奢ってもらうのは気が引けるし、何を考えているのか不明な状況で彼の誘いに乗るのは少し怖いな。
副会長の話が聞けないのは残念だが、昼食は別々に取ろう。
「頼んでおいて悪いけど――――」
「ほら、早く行かないと元宮廷シェフが作る本格アップルパイを食べ損ねちゃうよ!」
「ごめんごめん、期間限定だから今日こそ食べたいね」
そう言いながら女子生徒たちは二階の食堂へ続く階段に足を運ぶ。
「……分かった、じゃあな」
俺から離れようとするセロブロの腕を掴む。
「……頼んでおいて悪いけど、ご馳走になるね!」
普通のアップルパイなら見送っていたが、今回だけは絶対に逃せない!
「……ああ、分かった」
予測不可能の言動に困惑しながらも承諾し、俺たちは二階の食堂へ向かった。




