動き出す騎士団本部
夕日が沈み、空全体が薄暗くなってきた頃、一人の騎士が狭い石階段を駆け上がり執務室のドアを勢い良く開ける。
「ブレイド団長! 報告があります!」
『ブレイド団長』と呼ばれたその男は机に足を上げて踏ん反り返っていた。
部屋の壁には魔物の剝製や多種多様な武器が飾られており、内装だけでも本人の凶暴性を物語っていた。
「そんな大声を出さなくても聞こえるわ」
ブレイドは不機嫌そうに彼を睨む。
魔物との戦闘で左目に怪我を負って視力を失った彼だが、深紅色の眼光は屈強な騎士を恐れさせるには十分だった。
「も、申し訳ありません……しかし王国南部に駐屯しているディンゼル隊から竜種の群れを発見したと、伝晶石から連絡が入りました!」
「竜種? レブロック山脈からの目撃情報は上がったのか?」
ブレイドは眉をひそめた。
レブロック山脈には竜種などの飛行系の魔物も多く生息しており、南部に移動する際には王都から発見できることを踏まえてブレイドは尋ねる。
「私も見間違えだと言いましたが、竜種との身体的特徴が完全に一致していたため、報告に参りました」
ブレイドは机から足を下ろして立ち上がる。
「分かった、んで数は?」
「15体です……!」
尋ねられた騎士は声を震わせながら返答する。
「仮に竜種だとしてそれが15体か……お前の様子を見るに小さいわけでも無いんだろ?」
「……成竜、と言うには少し小さいようですが、脅威度で言えば違いは無いとの事です」
「成竜に育つまで三か月は要すると聞くしな。ますますどこから湧いて出て来たのか疑問だ」
ブレイドは自室を出ると部下とともに階段を下っていく。
(仲間の遺体が見つからなかったのも関係があるのかもしれない。リーゼンの本当の目的は騎士団の壊滅ではなく、竜種どもの餌……まあ良いか)
彼は思考を巡らすも無駄な行為だと切り捨てる。
ブレイド=ラインヴィルという男は戦闘以外では凡人以下であることを数々の戦場で身をもって教えられた。
だからこそ、彼は心に決めたのだ。
誰よりも前線に立ち、誰よりも血に塗れようと。
「ブレイド団長……」
広場で訓練していた騎士たちは一斉に動きを止めて彼へ視線を向ける。
「南部を担当していたディンゼルから、15体の竜種を発見したと連絡があった。よって俺はそこへ向かい、合流したディンゼルと竜共を狩り殺す。出発は明日の夜明け前、物資やその他諸々はディアンに一任する。人選はそうだな……」
騎士たちは唾を飲み込む。
「ディアン、人選まで手を回せるか?」
ブレイドは壁に寄りかかっている軽装の男へ尋ねる。
「不可能です団長」
言葉と共に身振りで答えた。
「そうか……良し、竜を狩りたい奴だけ来い。話は以上だ」
話を終えたブレイドは来た道を引き返すと同時に後ろからは歓喜の声が湧き上がる。
「ブレイド団長と一緒に戦えるぞ!」
「ここで活躍して一気に昇進してやる!」
「ディアン隊長、俺行きます!」
「「「俺たちも行きます‼」」」
「これは行かない奴を探したほうが早いね……」
ため息を吐いて面倒くさそうにしつつも任された仕事を取り掛かる。
「ブレイド団長、僕も行かせてください!」
ゆっくり階段を上るブレイドに普段着姿のオリバーが声を掛ける。
戦力が不足している今、騎士団隊長が申し出てくれるのは願っても無いこと。
「駄目だ」
だが、ブレイドは即座に彼の申し出を断った。
「お前は部下の暴走を止められなかった監督責任を問われて謹慎中だ。残り二週間も自室に籠ってしっかり反省しておけ」
「しかし竜種の群れが相手ならば、僕の力も必要――――」
オリバーの言葉を遮るように左手で空を切る。
「ッ……⁉」
オリバーの右耳に小さな切り傷を作り、石壁に深い切り込みを入れた。
「それを判断するのはお前じゃない、団長であるこの俺だ」
圧倒的な実力差を前にオリバーは反論する意志すら折られてしまう。
「まあ根拠のない自信は若者の特権だからな。付いて行くことは禁ずるが、鍛錬は許してやる」
そう吐き捨ててブレイドは止めていた足を動かした。
(僕が駄目なら彼でも……いや、それは最低だ)
思いついた策は騎士の職務を放棄するのと同義だと瞬時に理解する。
「もっと、力があれば……!」
瞳を歪ませ、暗がりの石廊下で静かに嘆いた。に見えた。




