彼女への想い
「ふぅ――――気持ちいい……」
二週間ぶりのラビスと下校を果たした俺は気の赴くまま風呂へ入った。
いつもより二時間ほど早い入浴にレイナから小言を並べられてしまったが、ラビスと下校したことを話すとなんやかんやで許可を頂けた。
よく分からないがレイナは彼女のことが好きみたいだし、議論が進まなくなったら彼女の話をするのは良いかもしれない。
「アールムッ! 俺も入るぞ」
足を伸ばしてゆっくり湯に浸かっているとドアを開けてロイドが入ってくる。
入浴前から顔が赤いため、酒を飲んでいるのに間違いない。
「父さん、広くないんだから男二人は無理だよ」
「何言ってんだ! 昔は毎日お父さんと二人で入っていたじゃないか」
軽くシャワーで汗を洗い流すと俺の反対側から浴槽へ侵入する。
脚を畳んでお湯が漏れないよう工夫するが水面は急上昇し、ザバァーと滝のようにお湯が流れてしまった。
「極楽だぁ……」
俺の幸福な時間は一人の酔っ払いによってぶち壊された。
「……なにか俺に話があんだろ?」
「えっ?」
「父さんが酔っていることはしょっちゅうだけど、一緒に入ることは滅多にない。ふたりきりで話がしたかったんだろ?」
逆に酔うたびに風呂の邪魔をされたらいくら俺が温厚で親思いの優しい息子も怒り狂ってしまう。
「……ったく、成人になってもいないくせに俺の気持ちなんか読んでるんじゃねえよ!」
水面に合わせて両手をギュッと握り締め、水鉄砲を繰り出す。
俺はこれ以上水を流させないように瞼を閉じてやり過ごす他なかった。
「ラビスちゃんとは最近どうなんだ?」
二人しか居ない空間にもかかわらず、ロイドはこっそり耳打ちする。
「どうって何が?」
聞きたい事は何となく分かるが、あえて分からないふりをした。
「父親の口から言わせるなよ!」
知らんが、と言いたいのをぐっと堪える。
まあ息子の恋愛事情はともかく、性的な話を親から聞くのは抵抗があるようだ。
「はぁ、彼女はただの友人だよ」
出来た息子を演じるため、自らロイドの口車に乗ることに決める。
「そうなのか? 俺はてっきりやる事やっているのかと……」
「どうしたらそんな発想に至ってしまうのやら」
やはり初日から女子を連れてくるの不味かったか。ラビスは全然悪くないけどね。
「お前はラビスちゃんの事をどう思っているんだ?」
面倒くさい父親、と心の中で思いながら改めて振り返ってみる。
最初の出会いはセロブロの根回しでクラスから孤立していた時だった。
どうして俺と仲良くなりたかったのか理由は今でも分からないが、こうして楽しく学園に行けるのは間違いなく彼女のお陰だ。
それに彼女は妹の気持ちを代弁して仲直りのきっかけを作ってくれた。
二週間前の試験も班員の彼女と森を探索するのは楽しかったし、大樹塊を撃ち抜いてみんなを助けることが出来たのも、彼女が居なければできなかったことだ。
もし入学式の日に彼女が俺に声を掛けてくれなかったら、セロブロたちの奇襲を受けてまともな精神状態だったか分からない。
怒りに任せて彼らを傷つけ、退学になっていたかもしれない。
改めて振り返ってみれば、彼女から受けた恩は計り知れないな……。
こんな考えるきっかけを作るなんて、酔っ払いも役に立つじゃないか。
「フッ」
彼女に感謝を込めてプレゼントを渡そう、と心に決めて俺は風呂から上がる。
「おーい。一分近く黙っておいて、勝手に答えを得て満足するな! 俺の質問の答えは結局何なんだよ?」
「……好きだよ、結婚したいぐらいだ」
浴槽から文句を垂れるロイドに簡潔にまとめて欲していた答えを口に出す。
「まじか……⁉」
大きく口を開けてロイドは絶句していた。
結婚は大袈裟かもしれないが、ラビスなら文句などない。
「まあ無理だろうけどね」
俺が彼女を縛り付けようだなんて烏滸がましいにも程がある。
壊された幸福な気分に回復の兆しが見えたところで俺は風呂場を後にした。
後ほどお湯が少ないとレイナに怒鳴られ、早風呂と俺とロイドの組み合わせで入浴が禁止させたことは言うまでもない。




