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死神だった俺、暗黒魔法の転生者として平和な時代で再び戦いに巻き込まれる  作者: バッチョ
生徒会

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表の顔

 リーゼンの暴動で騎士団に大損害を与えたあの試験から二週間が経過した。

 巻き込まれたB組の生徒たちも落ち着きを取り戻し、一人の生徒を除いて全員が集中して授業に臨んでいた。


(あいつは何を考えているんだ……!)


 アルムは昨日の放課後に起きた出来事を思い出し、静かに怒りを(つの)らせた。


 ***


「理事長が俺になんの用なんだ?」


 放課後、フェルンの指示で俺は一階の廊下を歩きながら呼ばれた理由を探っていた。

 だが理由はともかく内容は魔物討伐試験に関することで間違いないだろう。でなければ一般生徒の俺に理事長自ら声を掛けてくれる訳が無い。

 お褒めの言葉を頂けるのか、面倒事に巻き込まれてしまうのか、期待よりも不安のほうが勝ってしまうがそれは一旦置いといて……。


「認知してもらったのは嬉しいことだ」


 二年前、俺が魔法を使えることが両親に話せるきっかけを作ってくれた人だ。

 彼にとっては自分の為に魔法研究を追及していただけなのかもしれないが、その熱意と執念のお陰でこうして魔法学園に通うことが出来ている。

 レイゼンという男は尊敬できる数少ない人間と言えるだろう。


「ここが理事長室……」


 目的地に到着した俺は扉を三度叩く。


「入ってください」


「失礼します!」


 ドア越しから本人の声がぼんやり聞こえると俺は静かに扉を開ける。


「よく来てくれましたね、そこにお掛けください」


 レイゼンに促されるまま、俺は左右で置かれた革ソファーの右側に腰掛ける。

 学園の長が過ごす部屋だから教室くらいの広さはあると思っていたが意外に広くはなく、教室の半分程度。しかし成人男性一人が過ごすには十分ではあった。

 それに絵画(かいが)や芸術品が置かれているかとも思ったが湖を彷彿(ほうふつ)とさせる絵が一枚飾られているだけで、あとは白一面のシンプルな壁紙のみ。

 だが天井に吊るされたシャンデリアは物数が少ない内装と相まって上品な大人の印象を(かも)し出していた。


「紅茶で良かったですか?」


 二つのティーカップに紅茶を注ぐとテーブルに置き、反対側のソファーへ腰かけた。

 俺は注がれた紅茶を一口飲む。


「……美味しいです」


 紅茶の良し悪しは分からんが芳醇(ほうじゅん)な香りと上質な茶葉を感じ取った気はする。

 

「飲みながら話をしましょう。まず貴方を呼び出した用件は二週間前の魔物討伐試験の事です」


 紅茶の感想に軽い笑みで返すと真面目な面持(おもも)ちで切り出した。


「事件の概要は騎士団が声明した通りの内容です。俺から話す事は無いように感じますが……」


「私が聞きたいのはリーゼン=へレイストンという人間についてです。直接戦い、最後を見届けた貴方が感じたことを教えてくれますか?」


 金色の瞳が俺を真っ直ぐに見つめる。


「……分かりました。忘れている部分もあると思いますが彼と対峙(たいじ)ときに感じたことの全てを話します」


 隠す理由も口止めもされていない俺は快く快諾する。

 それに魔法研究の最前線で活躍する彼なら黒玉について何か知っているかもしれない。


 俺は二週間前の記憶を掘り起こしながら包み隠さず全てを話した。


「死神教に、体を変容させる黒い玉ですか……」


「何か知っている事でもあれば開示できる範囲で良いので教えてくれませんか?」


 淡い期待を秘めて尋ねるも彼は首を小さく横に振った。

 

「一方的に話させて申し訳ありませんが、初めて耳にするものばかりでこちらが提示できる情報はありません」


「気にしないで下さい。正直言うと騎士団だけにこの情報を持たせておくのは得策ではないと思っていたので、レイゼン理事長にお話しできて良かったと思います」


 騎士団を信用していないとは言わないが、リーゼンのような諜報員がもう居ないと断言はできない。

 それに俺としても死神教の存在を見て見ぬフリは出来ない。

 その点で言えば、彼ような知識と人脈を兼ね備えた人物が協力してくれのは心強い。


「話は終わったようなので俺は帰らせていただきます」


 ソファーから立ち上がり、帰り支度(じたく)を済ませる。


「私も時間を見つけてこの件の真相を追ってみます。もし進展があれば話せる範囲で貴方にも情報を共有しましょう」


 レイゼンも立ち上がると右手を突き出して握手を求める。


「その時はぜひお願いします、レイゼン理事長」


 求められた俺は彼と力強く握手を交わす。

 こんな形で彼と交流のは不本意だが、尊敬できる人と真実を追い求めるのも悪い気分ではないな。


「長話をさせてしまったお礼に気持ちばかりですが、お菓子を貰って下さい」


 そう言って彼は仕事机へ向かい、引き出しを開ける。


「そんな悪いですよ!」 


「遠慮しなくても良いんですよ。王都でも指折りの名店から取り寄せたものなので、帰ったらご家族で召し上がって下さい」


 そんな事を聞いたらかえって貰いにくい。

 単に高級菓子を貰うのが悪いのもあるけど、理事長からの贈り物を素直に両親が食べるようには思えない。 

 レイナに至っては大事に保管しようと言い出しかねない。


「確かチョコレートも入っていたので、甘党の妹さんも喜ぶと思いますよ」


「え、ええ! チョコレートならアイツも喜びますよ」


 彼の口から妹の話が出るとは思わず、不自然な返しをしてしまう。

 しかしマインの存在はともかく、好物まで知っているのは驚きだ。

 学園側も生徒の家族構成は把握しているだろうし、女子が甘党なんて珍しくも無いから言っただけだろう……。


「そうだ! 明日の放課後、予定がなければまたこの部屋に足を運んで頂けますか? 私が極秘に研究している魔法資料をお見せしましょう」


「そこまで良くしてもらう義理はありませんよ」


 あとから断ったことを後悔するかもしれないが、不意に生じた胸のざわつきを無視することは出来ない。


「義理ならあります。貴方はゴンダさんを殺してくれましたから」


 理事長は普通に義理立てする理由を説明するが、その内容は極めて異常な理由だ。  

 ゴンダって誰ですか? そんな野暮な事を聞ける空気ではない。

 聞き流していい内容では無かった、がしかし聞き返してはいけないと俺の本能が訴える。


「なに、言ってるんですか……?」


 だが俺は本能に抗って彼の思惑(おもわく)を読み取ろうと試みる。

 もはや彼に対して尊敬や信頼は跡形もなく消え去り、今では嫌悪と疑念の感情しかない。


「お忘れですか? 貴方が八歳の頃、雪山で泥潜蛇(グランド・サーペント)と戦った時の出来事ですよ」


 俺の様子を気に留める様子も無く、理事長は飄々(ひょうひょう)と話し続ける。  

 そして彼の言葉で六年前のあの日が鮮明に思い出された。


 雪山で泥潜蛇(グランド・サーペント)と戦ったこと。


 ゴンダという男を死なせてしまったこと。


 そして木陰に隠れていたもう一人の存在も。

 

「……どうして、その事を知っているんだ?」


 確信を得たと言える状況だが、勘違いである可能性に賭けて最後の質問をした。


「木陰から見ていましたから。貴方と対面はしていませんが――――」


 俺は返答を待たずに目の前のテーブルを彼に向けて蹴っ飛ばした。

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