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死神だった俺、暗黒魔法の転生者として平和な時代で再び戦いに巻き込まれる  作者: バッチョ
魔物討伐試験

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二人で人助け

「……ラビス?」


 アルムは後ろを振り向くと彼女は優しく微笑みかける。しかしその奥には怒りの感情も混ざっているようだった。


「そうか、ついに幻覚まで見るようになっちまったか」 


 彼は目を擦りながら限界に近い自分に落胆し、彼女に対しては何も無かった。

 ラビスはぷくっと頬を膨らませると彼の頭頂部に目掛けてど突く。


「いてッ」


「不意打ちで気絶させておいて、本人を前に幻覚で言い逃れできる訳ないでしょ!」


 ラビスの声と痛み感じ取り、再び目を擦って幻覚と思しき彼女をまじまじと見つめる。


「――――ラビス⁉ 何でここに居るんだよ!」


「今はそんな事を話してる時間は無いよ。私も手伝うから早く大樹塊(あれ)をぶっ飛ばしましょう」


「……そうは言ってもあと一発撃てるかどうか……」


 強気なラビスとは対照的にアルムは右手は震わせていた。

 転生してから自身の魔力の『限界』を感じるほどに消耗した経験がないため、想像以上に精神も弱っていたのだ。


 そんな情けない彼を見たラビスは黙って震えている右手を握った。


「言ったでしょ、今度は私も戦うって。貴方一人に背負わせたりしないわ」 


 閉じかけていたアルムのまぶたが大きく見開く。

 その自信に満ち溢れた瞳と誰かを守り支えたいと想う優しくも力強い表情……それはどことなくアルムに似ていた。


「……分かった。力を貸してくれ、ラビス!」


「任せてアルム!」


 そんな彼女に充てられ、アルムもいつもの調子を取り戻す。


「作戦がある、少し耳を貸してくれ」


 すっかり冷静さを取り戻したアルムは彼女と協力できる作戦を閃き、数秒の時間を要して作戦を伝えた。 


「良し! やるぞ!」


 気合を入れ直してアルムは大樹塊(たいじゅかい)の中心に指先を向ける。

 ラビスは彼の正面に立ち、突き出された人差し指の周りを覆うように両手を広げる。 


「熱線が出るから熱いと思うけど、何とか耐えてほしい……」


 先の説明で伝えたが申し訳なく思い、発動直前で再び謝罪する。


「大丈夫! 貴方と一緒ならどんな苦痛だって乗り越えられるから!」


 そんなアルムに彼女は笑顔で答えた。

 

「ありがとなラビス……」


 アルムは注げる限界の魔力を指先に集約させ、構築式を展開する。


「――――――――【魔黒閃(ビルスター)】‼」 


 彼らと大樹塊の距離が50メートルを切ったところで黒い熱線を放出する。

 たび重なる放射で疲弊しており、反動を抑えること出来ないが熱線は真っ直ぐ、そして鋭く細く伸びていき――――初めて中心に命中する。


(魔力制御は得意なのは知ってたけど、他者(おれ)の魔力も制御できるのかよ!)


 人並み以上に魔力制御を行えるアルムですら扱いきれなかった魔法を一度も練習せず、それも他者の魔力を制御するという離れ業を土壇場でやってのけてしまう目の前の少女に戦慄(せんりつ)を覚える。

 

(狙ったとこに当ててくれる! あとは俺の魔力を、出し切るだけだァ!)


(どんどん内部の木を貫いてる! でも核を破壊するまで気を抜いちゃダメ! もっと細く、もっと鋭く!)

 

「「いっっけけけええええェェェェェェ――――――――‼」」


 汗ですら瞬く間に蒸発してしまう程の熱波に晒されているにもかかわらず、彼らは声を上げ、目を見開いて出せる力を惜しむことなくこの瞬間に費やした。


 一人は自分を信じて死地まで赴いてくれた彼女に報いるため。

 もう一人は守られる存在だったかつての自分から脱却し、堂々と彼の隣に立ちたいがため……。


 黒き閃光が押し固められた大木のことごとくを貫き――――中心部の核すらも貫いて、向こう側まで貫通させた。


「「……ッ‼」」


 そして両者の並々ならぬ思いは一つの魔法を通じて成就(じょうじゅ)することになった。


***


 引力の核が破壊されたことで、圧縮された木々が内側から爆ぜるように散らばった。


「【岩壁(ロック・ウォール)】」


 フェルンは自分たちを覆うように岩壁を作り出す。


「アルム君、ラビスさん! 早くこちらへ」


 しかし魔法抵抗(レジスト)で魔力を消耗した彼女には彼らに魔法を使える余裕は無かった。


「頑張ってアルム、もう少しだよ」


「ああ、すまねえ……」


 ラビスは魔力欠乏症に陥って動けない彼に肩を貸し、フェルンたちのほうへ足早で向かう。


 だがそんな彼らの頭上に三本の大木が落ちてくる。 


「危ないッ‼」


 フェルンは叫んだが、回避が間に合う距離では無い。


「なぁ⁉」


 アルムは最後の力を振り絞って重心をずらして彼女を突き飛ばすと、根っこが抜かれた小さな穴に落とし入れる。


「ウソ、嫌だ――――!」


 泣きそうな顔を浮かべる彼女にアルムは口角を上げて笑いかける。


(これは、悪くない死に方だ……)


 死を悟って目を閉じる――――が、突然大木が木っ端微塵(こっぱみじん)に弾け飛ぶ。


「……え?」


 うつ伏せで倒れるアルムは僅かに首を動かして状況を確認する。


「間一髪だったな」


 そこには小刻みに振動する長剣を右手に持ったオリバーが姿を見せる。


「早く下ろしてください隊長!」


「く、苦しい……!」


 背中には逃げ出して大樹塊(たいじゅかい)に引き込まれた三人が、彼が巻いていた包帯できつく結ばれていた。

 

「隊長、ご無事でしたか!」


「あの怪我でよく、生きてくださいました!」


「それに人助けまで出来るなんて、流石はオリバー隊長です!」


(((ヤッベェェェ、忙しすぎて忘れてたぁ――――‼)))


 騎士たちは冷や汗をかきながら勢いで誤魔化そうと必死な様子だ。


「本当に、よく頑張りましたね……」


 一方、フェルンは動けないアルムを起き上がらせる。


「褒めてくれるなら今すぐラビスを止めてください」


 フェルンはラビスを一瞥(いちべつ)する。

 穴に落ちたせいで顔や制服が泥で汚れており、涙目になりながら怒りを露わにしていた。

 そんな彼女を見てフェルンは仰向けに寝かせたまま静かに離れる。


「ええェ、止めてくれないんですか?」


「これは教師の管轄外(かんかつがい)です!」


 地面を踏みしめて近づいてくる彼女に今度こそアルムは死を悟る。

 ラビスは膝を折って彼に(またが)ると手を広げて頬を叩いた。


 パァンと乾いた音が響くと同時に叩かれた頬に一滴の涙が落ちる。


「ばか……」


 今度は反対側の頬を叩き、三滴の涙が落ちる。


「ばかッ……!」


 次は一度目に叩いた頬を叩き、二週目のお仕置きに突入する。


「ラビスさん――――どっちも――――酷い火傷だしさっ――――そろそろ止めよう――――制服なら――――綺麗にするから――――」 


「そんなことで怒っているんじゃないの!」 


 叩くのを止めた彼女はアルムにぐっと顔を近づける。


「……ごめん、でもあの時はあれが最善だと思ったんだ」


「アルムはそう思っても私にとっては最善じゃなかった……」


「じゃあ、ラビスの最善って何だったんだ?」


「一緒に穴に入るか……受け止める?」


「無茶だよ。穴は小さかったし、受け止めるなんてとても――――」

 

「出来るよ! アルムと一緒ならどんな困難も乗り越えられるって言ったでしょ!」


「…………言ってなくない? 『どんな苦痛も』じゃなかった?」


「もう! どうしてそういうとこばかり鋭いのかな……」


 怒りから呆れと彼女の急な情緒(じょうちょ)にアルムは戸惑いを隠せない。


「とりあえず私が言いたいのは、自分一人が犠牲になれば良いなんて考えないでってこと! 分かった?」  

 

「……分かりました、以後気を付けます」


 反省したアルムに手を貸して立たせる。


「本当に分かったの、って何でみんなにやついてるんですか!」


 冷静さを取り戻すラビスだが、恍惚(こうこつ)とした表情を浮かべて彼らのやり取りを眺めていた。


「若いって良いな……」


「やっぱ二人ってデキてたんだ!」


「仲が良いの結構ですが、その……(ただ)れた関係になるにはまだ早いですからね!」


 オリバーや女子生徒、フェルンがそれぞれ感想を口にする。


「た、爛れた関係ってまだ早いですよ!」


 赤くなった頬を隠そうとして思わずアルムの手を放してしまう。


「ちょ、待て! 俺まだ立てないッ――――」


 なんとか踏ん張ろうと試みるも全く力が入らず、足を滑らせて頭から穴に落ちてしまう。


「ご、ごめんね!」


「つ、土くせェ……」


 最後の最後に泥まみれになって魔物討伐試験は終わりを迎えた。

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