強襲
マルクスたちを設営地まで送り届けたアルムたちはその後も周辺の魔物と戦闘を重ね、試験時間残り一時間に迫ろうとしていた。
「そろそろ戻るか」
「そうだね、ちなみにポイントってどれくらいなの?」
班員のラビスは疲れた様子でアルムに尋ねる。
「多分だけど800ポイントはあると思う」
「はっ、800! って凄いこと、なのかな?」
試験中にクラスメイトと顔を合わせる機会はあったが、対話に応じてはもらえず自分たちの順位がどこか分かっていないのだ。
「うーん、判断が難しいけど一人あたり100ポイント取れれば良いほうだと思う。だから上位入りは確実だと思うよ」
「……それじゃ、800ポイントってすごく凄いね!」
「ああ、すごく凄い!」
「馬鹿にしてるでしょアルム……」
発した言葉を真似されたため、ラビスはムスッとした表情を浮かべる。
「まあまあ、それよりポイントの分け前はどうする?」
そんな彼女にすかさず話題を変えた。
「ほとんどアルムの手柄なんだし、100ポイント程もらえたら嬉しいかな」
「何言ってんだラビス! 普通に半々で分ければいいじゃないか」
「流石に私とアルムが同じポイントなのは悪いよ……」
ラビスは働き以上の成果を受け取ることを良くないと思っているようだ。
「悪いことなんてあるもんか! むしろ俺はラビスに多くポイントを貰って欲しいくらいだ。新しい魔法も使えるようになったし、魔物からクラスメイトを守ったんだぞ。どれだけ魔物を倒したのかも大切だけど、試験で大きく成長したことのほうが評価されるべきだと思う」
アルムは彼女の成長と勇士を評価されて欲しい気持ちはあるだろうが、それとは別に自分のせいでクラス内で孤立させている事を気に病んで罪滅ぼしをしたいと考えてもいた。
二人は数秒ほど見つめ合い、一足先にラビスが均衡を破る。
「新しい魔法の発想はアルムのお陰だし、人を助けるのは当たり前だよ! それに今回の試験は魔物をどれだけ倒せたかで順位が決まる。でもそれじゃアルムが納得してくれ無さそうだから、私が200ポイント貰う! はいこれで話はお終い!」
「なっ……!」
アルムが反論する隙を与えずに話を終わらせる。
これ以上の話し合いは無駄だと悟ったアルムもため息を吐きつつも、了承の態度を示した。
「ラビスは真面目だな。そんな得のない人生で良いのか?」
「アルムが得をしてくれるなら、喜んで損を受け入れるよ!」
(なんて、言えたらどれだけ楽だろうか……)
「あはは、そうですね……」
妄想と現実の違いに愕然とするしかなかった。
「今回はその提案に乗ってあげる。だけど次の試験は俺以上に活躍して手柄を独り占めするぐらいの勢いで頼むぜ!」
「無茶言うよホントに……まあ志だけは持っておくよ」
「うんうん話し合うことも終わったし、試験最後の問題に取り掛かるとするか……」
「試験最後の問題……?」
ラビスの疑問を待たずにアルムの足が止まる。
「残り時間が少ないのはお互い分かってますよね! さっさと出てきてください!」
アルムの声が森に響き渡り数秒後、木陰からセロブロを含め五人の生徒が姿を現す。
「出て来いって酷い言い草じゃないか。僕たちはクラスメイトが心配で駆けつけたのに……」
セロブロは悲しそうな表情を見せる。
「それは申し訳ありません。俺たちは大丈夫なので先に戻っていてください」
「ははっ、やはり駆けつけて正解だった」
そう言ってセロブロは指を鳴らすと、取り巻きたちはそれぞれの構築式を展開する。
「やっぱりか……」
「ちょ、ちょっと待ってください! これって何の冗談ですか?」
予想通りの展開と呆れるてしまうアルムと対照的にラビスは酷く怯えた。
「一応言っておきますけど、試験中にこんな問題行動を起こしたら一発退学ですよ」
「これだから頭の悪い平民は困る。ここで無残に死ぬお前らに摘発できるわけが無いだろう」
セロブロの合図で取り巻きたちは多属性の魔法をアルムたちに向けて放たれる。
「【風魔弾】――――!」
ラビスも魔法で対抗しようとするも相殺できるほどの魔力は残っておらず、取り巻きたちの魔法に呑まれて消えた。
全てを悟って目を瞑るラビス、そんな彼女を横目にアルムは静かに魔法を発動させた――――。
魔法の衝突に地面が抉れ、森中に轟音を響かせる。
土煙が舞ってアルムたちの姿は見えないが、生存の可能性は皆無に等しい。
「アルムはともかく、ラビスっていう女まで殺して良かったんですか?」
「……うん、確かに慈悲をくれても良かったかもしれない。だが類は友を呼ぶとも言う、低俗な平民に群がる平民もまた低俗だということだ。ならばここで始末しておいたほうが国のためだ」
「流石はジクセス家次期当主と呼び声だかい御方、数手先の未来まで考えておられるなんて!」
「煽てても何も出ないぞ。さて、やる事も終わった事だし設営地へ戻る――――」
「少しお待ちください!」
アルムたちの死体を確認しようともせずその場を立とうとした時、取り巻きの一人が声を上げる。
「あれは、何ですか……?」
震える指で爆発の中心地を指す。
そこには緑に生い茂るの木々の中に一際異彩を放つ黒い半球があった。




