試験開始
それぞれ行動班を形成した俺たちはオリバーとフェルンの打ち合わせが終わるのを待っていた。
「オリバー隊長って人、優しそうで良かった」
班員のラビスも同じ結論に行き着いたようだ。
一応言っておくが、行動班は俺とラビスの二人のみ。ルールでは最大五人まで班を組むことが出来るがセロブロに目を付けられた俺と組みたい奴なんて誰も居ない。無論、一人でも試験突破は容易だろうが彼女と組めたことは素直に嬉しい。
「全くその通りだ、セロブロみたいな奴だったら絶望しているところだ」
セロブロ以上の実力者がセロブロ以上に倨傲だったら、魔物として狩っていたかもしれない。
「またそんなこと言って、誰かに聞かれたら大変だよ」
話をしている内に設営されたテントから二人が姿を見せる。
「改めて試験内容を説明します。この試験では魔物を倒して、倒した魔物の点数で順位を決定します。そのため倒した魔物が証明できるように、配布した袋の中にそれぞれの魔物に指定した部位を入れて設営地へ持って来てください。点数は個人順位で付けるので取り合いにならないよう配分は行動班で決めておいてください。試験時間は六時間、時間内に戻ってこなかった生徒は失格となるので、余裕を持って行動しましょう。ここまでで何か質問はありますか?」
「はい」
男子生徒が挙手をし、フェルンは発言を許可する。
「挑んだ魔物が強くて撤退しようとしても出来ない時はどうすれば良いですか?」
「はい、理想としては力量差を理解してから挑んでいただきたいのですが、その場合は騎士団の方々に助けを求めてください。助けを呼んだからと言って減点にはしません。しかし騎士団が倒した魔物は無効となるので、体の一部を持って来ても点数は入りません。万が一、酷い負傷で試験の継続が不可能と判断される場合には失格となるので、あまりリスクは冒さず慎重に試験に挑んでください」
「分かりました……」
質問した男子生徒は残念そうな顔を浮かべる。
騎士団の活躍を見たいがために、強い魔物に挑もうとでも考えていたのだろう。
「この試験では魔物との戦闘を学ぶ場です。初の実技試験ということで緊張するとは思いますが、皆さんの実力であれば魔物ともきっと渡り合えます。では五分後に試験を開始するので、班員同士で最終確認を行ってください!」
「「「はいッ!」」」
クラスメイトらは持ち物やお互いの魔法など確認作業を始める。
初めての魔物との戦闘、憧れの騎士団と対面、浮足立つ状況ではあるがフェルンのお陰で気を引き締める事には成功したようだ。
「アルム、私たちも作戦立てよ」
先程まで怯えていたラビスもやる気に満ち溢れている。
「見つけて倒す、しか作戦なんてなくない?」
「それはそうだけど……どこに進むとか、先手はどっちが先かとか色々あるでしょ」
「冗談だよ」
しっかりしてよね、と小言を言われてしまう。
正直、作戦を立てる必要は無いと思うが彼女からすれば不安を取り除く数少ない行為なのだろう。
「接敵したら俺が魔物のほうへ突っ込む。だからラビスには後ろで援護を頼みたい」
彼女の使用魔法は先天性の風属性、目で捉えることが難しいこの魔法は援護にぴったりだ。
「援護は良いけど、後ろからだとアルムに当たっちゃうかも……」
「自信を持てラビス、お前の魔法制御力なら俺が居ても関係ない」
もし当たりそうになれば、影移動で回避してやる。
「……分かった、アルムの目を信じるよ」
「自分を信じて欲しいけど、まあいいや。念のため支給された道具を確認しておこう」
俺たちはベルトに括り付けられた短剣と革袋があることを確認する。
支給品はこの二つだが武器や回復薬など持参することは可能であるため、長剣や弓矢などを持ってくる者もチラホラ見受けられる。俺は魔法で武器を作れるため特に持ってくるものは無かったが。
「そうだラビス。行く方向は試験が始まってから決めて良いか? 時間は取らない」
「それは全然良いけど、何か作戦があるんだね」
「ああ」
「五分経過! 試験開始です!」
あっという間に五分が経ち、フェルンは試験開始の合図を行う。
「おっしゃ! やってやるぜ」
「一位を取りましょうね、セロブロ様」
「当たり前だ」
試験の始まりに全員が気持ちを昂らせて走り出す。そんな中、俺はクラスメイトの行く先を把握した後、行く先を確定する。
「よしっ、こっちへ行こう」
「えっ? う、うん!」
ラビスの肩を軽く叩いて行き先を伝えると、戸惑いながらも走り出す。
「アルム! なんでみんなの《《反対方向》》に行くの?」
俺の指示に従って走りながら自身が抱える疑問を投げかける。
彼女が疑問に思うのも無理はない。俺たちが向かっているのは北方向、すなわち王都のほうへ向かっているということになる。
端から見れば、魔物に恐れをなして試験を放棄したと思われてもおかしくない動き。
「説明してやりたいけど――――見つけた!」
「えっ?」
進行方向に小鬼の群れを確認する。数は七匹で手には石や錆びた剣を所持している。
「初めての実戦だ、まずは俺の動きを見ててくれ」
「う、うん……」
「【黒器創成】」
構築式を展開して長剣を生成し、小鬼に斬りかかる。咄嗟に錆びた剣で受け止めようとするも一瞬で砕き、小鬼の首ごと斬り裂いた。
空かさず長剣を右横に振り回し、三匹の小鬼の胴体を真っ二つした。
「グギャアアアァ!」
自身の身長程の高さまで跳躍し、棍棒を振り被る。
同族が殺された恨みを込めた一撃を受けることなく、続いて四匹の小鬼を斬り倒した。
「小鬼一匹五点、合計35点ゲットだな!」
「流石アルムだね!」
「今回は俺が仕留めたけど、次はラビスの手を借りるから頼りにしてる」
「うん、任せてね」
俺たちは配布された短剣を使い、指定部位の右耳を切って革袋に入れた。
そして次なる魔物を求めて森の奥地へ足を運んだ。




