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ラビスの助言

「自分の家だと思ってゆっくりしてね」


「お気遣いありがとうございます!」


 帰宅後、居間にラビスを座らせ、お茶を用意しようとレイナはキッチンへ向かう。


「今更だけど本当に大丈夫か?」


「アルムと別れたらそのまま帰る予定だったから全然問題ないよ」


 むしろ楽しみにしていた、と言いたげな様子を見せる。

 これ以上言っても状況は変わらなそうだ。むしろ帰って欲しいと受け取られてしまう可能性もある。ここまで来たら俺も楽しむとしよう。


「ちなみにアルムのお父様ってどこに居るの?」


「あの人は寝室で寝てると思うけど、起こした方が良いかしら?」 


「仕事の疲れがあるだろうから寝させてあげなよ」


 レイナの案を即座に却下する。

 友人が来たくらいでロイドを呼ぶ必要はない。逆にロイドまで来られると本当に婚約者を紹介するみたいな構図になって変に意識してしまう。

 こんなどうでも良い事を気に掛けるなんて、この二人がさっきまで話していたせいだろう……。

 

「レイナ、帰って来たか……」


 そんな気遣いとは裏腹に寝室のドアが開かれ、起きたばかりのロイドが姿を見せる。

 どんな姿かヒヤッとなったが、他人に見られても恥ずかしくない服装をしていた。


「突然押し掛けて申し訳ございません! ラビス=ベルティーネと申します!」


 椅子から立ち上がり丁寧にお辞儀する。 


「おおっ! 女性のお客さん、いやアルムの同級生か。お前も隅に置けない奴だな」


「勘繰るのは止してくれ、彼女はただのクラスメイト……どうした?」


 ロイドの考えを否定すると隣に立つ彼女に睨まれてしまう。


「何でもない……」

 

 ラビスは不貞腐れた顔で椅子に座る。


「そちらは何ですか?」


「そうやって沢山悩め。いつかお前を男にする!」


 ニヤニヤしながらこちらを見るロイドに問い掛けるも、意味不明な回答を残して顔を洗いに洗面所に向かう。


「意味分からないこと言ってないで、お茶でも飲みながら話をしましょう!」


 レイナは紅茶や茶菓子をテーブルに運ぶ。


「アルムはマインを呼んで――――いや、私が声を掛けるわ」


「頼むよ……」


「『マイン』ってさっき話してた妹さんだよね。聞きそびれちゃったけど妹さんと何かあったの?」


 好奇心に駆られて迫った先の彼女に比べて、今は不安そうなお面持ちで声を掛ける。

 俺は自宅で話すべき事なのか疑問に思ったが、本人は部屋に籠っているようなので両親を交えて事の経緯を話し始めた。

 

「――――って訳なんだ。正直、ウンザリしているよ」


「あんなに頑固な性格だったかな……」


「もしかしたら早めの反抗期なのかもしれないわね」


 二人とも普段の様子とかけ離れていて困惑しているようだった。

 両親は俺とマインの接触を避けさせ、時間が解決してくれるのを待っているがそのような兆候が全く見えてこない。


「ラビスはどう思う?」


 俺は黙って聞いていた目の前の彼女に尋ねる。

 同じ性別で年齢も近い第三者の彼女であれば客観的に状況を判断し、仲直りの助言してくれるかもしれない。


「……私はマインちゃんの気持ち、少し分かるなぁ」


「えぇ……」


 助言を求めつつも、少しくらい共感してくれると期待していたらまさかの妹側。とは言え、マイン目線の考えを聞けるいい機会でもある。

 俺たちは続けて話す助言に耳を傾けた。


「マインちゃんにとって旅行は、凄く楽しみな予定だったんだと思います。皆さんも心待ちにしていた予定が突然無くなってしまったら怒りますよね?」


 問い掛けられた俺たちは静かに頷く。


「でもそんな凄い場所に行くわけでもないぞ?」


 彼女の言っていることは分かるが旅行先は東海に構える港町。マインは海を見たことが無かったが、旅行の話をするまで関心を持ったことが無かったのも事実である。

 一応、『お兄ちゃんと二人で行くか?』と声を掛けるが、『あの日じゃなきゃ嫌だ!』と俺の誘いを一蹴。

 時を戻すなんて俺の魔法分野でないため、どうすることも出来ない。


 補足するように付け足すが彼女は首を横に振る。


「『どこに行くか』ではなく『誰と行くか』が大切なんです。レイナさん達は仕事、アルムは試験勉強でマインちゃんと接する時間が少なかったんじゃないですか?」


 再び問い掛けられた俺たちは、彼女の言葉にハッとさせられる。


「誰にも構ってもらえないのは凄く寂しいものです。それでも自分の気持ちを押し殺して我慢できたのは、《《家族旅行》》があったから……マインちゃんにとって仕事にも勉強にも邪魔されず、皆さんと居られる大切な予定だったんだと思います」


「「「…………」」」


 ラビスからの助言を聞いて俺たちは沈黙する他なかった。

 言われてみれば一人で遊んでいるところを見かける割に、こちらに構ってくる様子は少なかったと思う。しかしそれが寂しさを耐え忍んでいるのだとは気づかず、一人で遊ぶのが好きなんだと勘違いしていた……。


「……親バカかと思うかもしれないけれど、アルムは子供の頃から賢いというか、あまり手の掛からない子供だったの。だからあの子も甘えて来ないのが普通だって、決めつけていたのかもしれないわね……」


 レイナは心の内を吐き出すようにつぶやく。

 性格や考えが兄妹で違うことは二人ともよく分かっているはずだ。しかし忙しい時や余裕が無い時、自分にとって都合の良い解釈を持ってしまうことは親であっても起こり得る事だ。


 起こってしまったことは仕方ない……だが、このままで良いわけがない!


「色々教えてくれてありがとうね、ラビスちゃん」


 何故か顔を赤く染めたレイナはラビスの両手を優しく包み込む。


「そんな、子育てをしたことも無いのに差し出がましい事を言ってしまいすみません……!」


「そんなことない、貴方とここで話せなかったらあの子たちが仲直りする日はもっと遠くなっていたと思う」


 どうやら俺とマインは仲直りした気になっているようだ。


「でもね、アルムは優しくていい子なの! だから貴方みたいな人が一緒なら安心して任せられるわ」


 学園の友人として、だよな……妙な言い回しは困る。


「うちの子と幸せな家庭を築いてね!」


「ハイッ! ――――はい?」


 ラビスははっきりと返事するもレイナの言葉に首を傾げる。俺も自分の耳を疑ったが残念ながら聞き間違えではなかった。


「まさか⁉」


 嫌な考えが頭を過ぎり、レイナのティーカップの匂いを確かめる。


「やっぱ酒か……」


 紅茶と同じ色だが匂いは完全に別物だ。

 レイナは自ら酒を飲む人ではない。どうせロイドが間違えて入れたのだろうが、目の前に同級生がいる状況で酒を飲むなんて余りに非常識。

 注意しようとロイドのほうに体を向けるが、テーブルに顔を伏して寝ていた。


「さっきから静かだと思ったら……」 


 俺は額に手を当てて大きくため息を吐く。

 こんな情けない親の姿を見られたらラビスと距離を置かれるかもしれない。


「ちょっと! どうにかしてよォ!」


「マイン、お姉ちゃんが出来たわよぉ」


 父親に失望している俺を横目にレイナはラビスに抱き着く。

 何だか大丈夫そうだな、と心温まる光景に安堵しラビスから酔った母を引き離した。

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