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声の相手

 その後もほかの受験生が実技試験に挑み続けた。

 一番最初に終わったおれは彼らの魔法を眺めながら同年代と己との実力差を見極めていた。


「――――良し、これで全員終了だな」


 マイルズは名簿と受験者を交互に見て確認する。


「不合格者はここを出て試験説明があった広場に居ろ。合格者は筆記試験の会場に案内するから俺に付いて来い」


 彼は受験生の動きを粛々と説明し、来たときと別の入り口に向けて歩き出す。


「くそぉ……!」


「これで終わりなのかよ……」


 俺を含めた合格者は苦渋の声を漏らす不合格者のそばを黙って通り過ぎる。

 特に声を掛けることも無いし、下手に逆撫ですれば何をされるか分かったものではない。同情や優越感は心の中にとどめておくのが最善だ。

 無論おれは通過すると確信していたためそれらの感情は湧かないが。


「これから校舎の中に案内する。迷子になるんじゃないぞ」


 試験場から出た俺たちは校舎内へ移動する。校舎の外見は十分綺麗だったが中身は更に重厚感のあるシャンデリアや装飾品で彩られ、落ち着いた雰囲気を醸し出していた。

 なかには学び舎に必要ないものも見受けられたが、在籍生徒の七割以上が貴族の出自であるため見栄えも重視しているようだ。


 しばらく廊下を渡り歩いて階段を上り二階の部屋に案内される。


「筆記試験はこの教室で執り行う。別の教師が来るから座って待っていろ」


 マイルズは列の先頭から離脱し、俺たちは教室へ入って行く。右側には長い黒板と教壇が設置され、反対側には階段状に長机と長椅子が造られていた。

 指定席では無さそうなため、自由に座って係りの教師を待っていること数分。静かな教室にドアが開かれる音が響く。

 受験者らの視線が一斉に女性教師に向いた。


「筆記試験担当のフェルン=リカードと申します。まずは実技試験お疲れさまでした。貴方たちが入学したら担任を受け持つことになるので、覚えてくれると嬉しいです」


 教壇に立った彼女は深くお辞儀し、優しい声色で話す。


「では試験用紙を配っていきます」


 人数分の冊子が宙を舞い、それぞれ目の前の机に着地する。

 風魔法だろうか、魔法学園の教師というだけあって魔法制御力は大したものだ。


 「試験時間は60分です、それでは始めてください」


 紙をめくる音があちこちから聞こえて筆記試験が始まった。


 ***


 試験開始から30分が過ぎる。

 内容は告知されていた通りで頭を悩ませることも無く問題を解き進めていった。

 しかしこの程度の内容が入試試験で出るという事は、学園そのものの魔法教育レベルが低いのかもしれない。まあ実技試験がメインで筆記試験は形だけ執り行っている可能性もあるにはあるが……。


「実技も筆記も満点に近い点を出せそうだし良いか……」


 独り言のように小さく呟き、次の問題に取り掛かる。


≪約五百年前に終結した死累戦争(しるいせんそう)で『死神』と呼ばれた人物の名前を答えよ。≫


 思いもよらない問題にペンの動きが止まる。

 歴史の問題で人物名を書くこと自体は珍しく無い。が、前世とはいえ自分の名前を解答欄に綴るというのは少しこそばゆいな……。

 過去の記録は幼少期に見漁っていたが、俺のことは通り名や悪行くらいなものだったから入試には出ないと油断していた……だが、まあ俺のことは俺が一番知っているからな。むしろ出してくれてラッキーだよ。


 気持ちの整理をつけた俺は解答欄に≪ギール≫と綴った。


 ***


「60分が経過しました。ペンを置いてください」


 試験終了の合図とともに、受験生たちはやり切ったようなため息を漏らす。


「これで入試試験の全てを終わります。試験用紙は机の上に置いたままで良いので、校舎玄関から帰って頂いて大丈夫です。皆さんと会える日を楽しみにしています!」


 試験用紙は置いたままで良いようなので荷物を持って教室を後にする。他の教室からもゾロゾロと受験生らが退出し出す。

 その中には堂々とした態度で歩くセロブロの姿も見えた。あの様子だと受かっているだろう。あんな失礼な態度を取る奴と学園で過ごしていくのは先が思いやられるが関わらなければいい話か。


「俺も帰ってロイドたちに報告だな」


「アルム……!」


 帰路に就こうと歩み出した時、集団の中から女性らしき声が聞こえる。振り向いて周囲を見渡すがそれらしい人物は見当たらない。


「気のせいか?」


 正体は分からなかったが敵意があったわけでは無い。

 一先ず、頭に入れながら今度こそ帰路に就いた。


 ***


 時刻は12時を過ぎ、陽が昇ったお陰で早朝よりも温かく感じる。

 あと数分で家に着くが、俺の名前を呼んだ者が接触してくることは無かった。だが声の主は名前を知っていて、かつ声を掛ける程度には交流があった人物で間違いないだろう。しかし同年代との交流で魔法を使えるような者は俺の知っている限り居ない。


「教師が俺に――――いや、それは無いか」


 教師であれば強引に呼び止めることも可能だろうし、あの場で俺を見逃す必要が無い。そもそも何故もう一度呼ぶことを止めたのだろうか? ここで考えても納得できる理由が考えられそうにないな。

 思考を巡らしている間に家に着いてしまった。俺は気持ちを切り替えて玄関ドアを開ける。


「ただいま」


「「お帰り! 試験はどうだった?」」


 帰宅早々、両親は鬼気迫る勢いで尋ねてくる。


「お、落ち着いて出来たよ……」


「そうか、落ち着いて出来たなら合格だな!」


「そうね、お疲れ様! アルム!」


 二人とも胸を撫で下ろす。

 レイナはともかくロイドも不安な様子だったのは意外だ。


「お兄ちゃんおかえり!」


 何かのソースを顔に付けた状態でマインも出迎える。


「今日はたくさんご飯を作ったの! 私も手伝ったんだよ」


 確かに先程から美味しそうな匂いが玄関にも漂っている。


「試験お疲れ様と合格を兼ねてお祝いなのよ!」


「お祝いは嬉しいけど気が早すぎだよ。落ちてたらどうすんのさ」


「お前が落ちるなんて事は無いだろう! もし落ちてたら学園に文句言ってやる!」


 ロイドは拳を突き上げた。

 半ば冗談には聞こえないのが恐ろしい。


「……ありがとう。じゃあお祝いを始めよう!」


 俺は一旦セロブロや謎の声を忘れて家族とお祝いを楽しむことにした。

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