四日間の代償
「疲れているようだったが大丈夫なんでしょうか?」
「しかし本人が『構わないでくれ』と言っていますし少し様子を見ましょう」
テイバンとカルティアは心配した面持ちで話し合う。
「さっきの試合は中々に酷かったからな」
「そうか? 圧倒的な強さを見せつけた完全勝利って感じでカッコ良かったと思うけど?」
「いや俺もそう思うけどアルムの奴、ほとんど動かないで相手を倒しちゃうからさ……」
「分かる! 容赦ない、とも違うけどあの勝ち方はライオスよりもアレな気がした」
「「そうそうっ!」」
無論、アルムが無傷で勝利を収めたことは喜ばしいため選手たちも戦い方にケチをつける訳ではないが、称賛に値すると問われれば首を傾げてしまう、そんな試合だった。
「あの子の様子、少し見てこようかしら……」
「心配なのは分かるがそっとしておいた方が良いと思うぞ」
立ち上がろうとするレイナを夫のロイドは制止させる。
「お兄ちゃん、どこか悪いのかな?」
「お兄ちゃんは少し疲れているんだろうな。でも大丈夫! しっかり休めば元気になるさっ!」
心配する気持ちをぐっと堪え、ロイドは彼女たちを落ち着かせた。
「何かの飲み物でも買ってこようか、ラビスちゃんは欲しいものある――――って、あれ⁉」
気を紛らわそうと提案するがさっきまで座っていた席に彼女の姿は無かった。
***
「ふぅ……」
窓のカーテンを閉めた俺はベッドに横たわる。
「少し、寝よう……」
自分に言い聞かせるように静かにまぶたを閉じる。
俺は第一回戦が終了後、『宿舎で休んでくる』と家族や学園の生徒たちに伝え、影移動で自分の部屋まで移動して来た。
朝の練習や試合が始まる前はこんな疲れを感じることは無かったが、今では再び立ち上がる事すら面倒に感じてしまう。
だが問題ない、第二回戦まで甘く見積もっても一時間はある。
その間に休息を取れれば、この疲れもきっと…………。
「寄ってらっしゃい、見てらっしゃい!」
「ギャハハッ! こっちだよぉ」
「アルムがフィールドを荒らしたせいで10分も待たされちまったぞ!」
「今年の出場選手は粒ぞろいばかりだな」
「違うだろ――――――――」
「だから――――――――――――」
「おいっ――――――――――――――――――――――――」
「――――――――――――――――――――――――――――」
「……うるせェ……!」
俺は窓の外を睨むと白い枕で両耳を押さえ付け、横向きで目を瞑った。
しかし宿舎前の談笑が、会場での声援が、王都内の喧騒が絶え間なく鼓膜を震わせ、フラストレーションが膨らみ続ける。
「ッ……くそォ‼」
俺はベッドから立ち上がり、窓前に備え付けられた机にバンと両手を叩きつけた。
「どいつもこいつもうぜぇなァ! 誰が寝ていると思ってるっ!」
窓を開けて怒鳴り散らせば黙らせられるか⁉
それとも黒棘で適当に二、三人貫けば黙らせられるか⁉
それともここら一帯を焼き払えば黙らせられるかァ⁉
怒りと殺意に委ね、カーテンを開けようとしたとき――――。
「なに考えてんだ、俺は……」
我に返った俺は全身の力が抜けたように膝から崩れ落ちる。
「ただ気紛れに人を傷付けようとするなんて、あいつと同じじゃないか……!」
最も憎み、嫌悪する人間と同じ思考を抱いてしまった事に吐き気すら催す。
「時間は、あと40分……」
少しでも寝て気を紛らわせようとしたが、壁に取り付けられた時計は無情なほど現在の時刻を知らせた。
仮眠をするには丁度いい時間かもしれないが、今の俺には圧倒的に足りない。
「あと20分、いや10時間くらい……」
もう大会そのものを忘れたい、そう思えてしまう程だった。
「ははは、なに言ってんだろ、おれ……」
乾いた笑い声が一人寂しい部屋に聞こえ、そして消えていく。
「……誰か、話しかけてくれないかな」
このまま消えて無くなりそうな、そんな訳の分からないの恐怖に駆り立てられる。
「……いるわけないよな」
俺自身がそうなるように言った、立ち振る舞った。全てはおれの自業自得……。
寝ることを諦めた俺はそのまま時間を過ぎるのを待つことにした。
「アルム、私だよ……」
しかし扉のそとから擦るような音が聞こえると微かに彼女の声が聞こえた。




