ライオス=シュレイン
「【火矢】!」
始まった第一回戦、バジルという初出場の四年生は火魔法で矢状の炎を形成し、ライオスに向けて一気に放った。
「どっっっせええええええええェェいッ‼」
対するライオスは自前のハンマーで思いっきり地面に叩きつける。
轟く爆砕音とともに魔法で形作られたフィールドの床に地割れが生じ、砂煙の中に火矢が飛び込んだ。
『バジル選手の火矢から身を守ろうとしたのでしょうか⁉ 凄まじい衝撃が震動となって会場全体を揺らしていますっ!」
戦う選手たちと観客席のあいだは監督者たちによって結界が敷かれているため、流れ弾や魔法の影響から守られているが、地面から伝わる衝撃は防ぎ切れなかったようだ。
「ッ……何がしたかったんだ、あいつは……⁉」
ライオスを見失ったバジルは警戒態勢を崩さず周囲を観察する。
(あの砂煙から50メートルはあるはず。ならあの中から出てきた瞬間を狙い撃ちして――――)
突風に吹かれたように砂煙が動いた直後、彼の目の前にライオスが《《吹っ飛んで来た》》。
「ァ――――⁉」
知っていたはずの超高速移動、バジルはその姿を捉えることはできたが掠れた声を捻り出す以上の対処は不可能だった。
「加減はしてやる」
文字通り吹っ飛んでいるライオスは足が付かない状態でも姿勢を変え、右手の拳に力を入れると肘を引きながらバジルの顔面に叩き込む。
頬の肉が抉れ、骨を軋ませながら今度はバジルは10メートルほど後ろに吹き飛ばされる。
仰向けに倒れたバジルは起き上がることなく意識を失った。
「バジル選手戦闘不能っ! 第一回戦はライオス選手の勝利です!」
『地面を叩いた事にどんな意味があったか分かりませんがライオス選手、第二回戦進出です!」
「速過ぎるぜライオスっ!」
「パワーとスピードじゃ大会最強だァ!」
僅か20秒でライオスが初戦を制し、会場は大いに盛り上がった。
「早く医務室に運べ、ライオス選手の力なら顎骨が砕けているはずだ!」
監督者のふたりはバジルを担架に乗せて会場に設けられた医務室へ運び出す。
(タイミングはずらしたから折れてもいねェよ)
「本気なら首もろとも木っ端微塵だっつーの……」
ライオスはそう吐き捨ててフィールド入り口のほうへ向かった。
***
『三番と四番の選手はフィールドの修復が終わるまで入り口で待機していてください』
エリアは次の対戦選手らに呼びかけ、監督者たちは土魔法で地割れした地面を補修していた。
「……煙が舞って、それからよく分からないまま試合が終わったけれど何があったの?」
レイナは自分の常識と大きく乖離した出来事に理解が追い付いていないようで緊張感のない顔のまま尋ねて来る。
「ライオスの魔法で自分を超高速で移動して相手に拳を叩き込んだ、ってところかな。正直、速過ぎてあまり見えなかった」
「アルムでも見えないって凄い人なんだね、ライオスさんって……」
「あんな人ともと戦うのか……頑張ってくれ、でも死なないでくれよ」
試合前とは打って変わってロイドは声を震わせる。
「すっごく速かったけどお兄ちゃんは負けないよね?」
「……勿論、お兄ちゃんは誰にも負けないよ」
俺は安心させるようにマインの頭に手を添える。
「単純に訊きたいんだがアルムならどう戦うんだ?」
分かり易くな! と付け加えて質問するロイド。
「うーん、俺だったら相手が見えなくなった時点で迎撃を諦めて結界を張るかな。そして向こうが詰めてきたら反撃って感じで」
「ふむふむ、でも見えない速さで動かれたら反撃は難しいんじゃないのか?」
「……これは俺の仮定だけどあのパワーとスピードは限られた条件でしか使えないと思う」
「その条件とは……?」
「じゃあ隣の彼女に答えて貰おうか」
ただ説明してもつまらないと感じた俺は背もたれに体を預け、ラビスが見えるように上体を移動させる。
「えっ⁉ えぇと……」
急に振られた彼女はぐるっと目を動かしながら考えるが、最終的には俺のほうに視線を向けた。
「大丈夫、思ったことを言ってみて」
「……多分ですよ、あのパワーとスピードで動くには『溜め』みたいなものが必要だと思うんです。あの砂煙はそれを隠すために作ったと……」
訊いてきたロイドだけでなく話半分で聞いていたレイナも深く頷く。
「だからその溜めをさせないで戦う、もしくはその隙を狙って戦うことを言いたかったんだと思います! ねっアルム⁉」
褒めて欲しそうな顔でこちらを見つめた。
「半分正解。あとは直線的な攻撃しか出来ない可能性は高いから角度を変えて反撃する、まで答えられたら満点を上げられたな」
「むぅ、アルムの意地悪……」
「へぇ、やっぱ学園生は見ている所が違うな」
右頬を膨らませたラビスはそっぽを向き、ロイドは新たな見方に関心を示す。
他には距離を大きく開けて戦法もある。
ライオスとバジルの距離はおおよそ50メートルで到達までの時間は一秒程度。
戦場となるフィールド全体の直径で120メートル、であれば到達までに最大で二秒以上の猶予が生まれる。
しかしこれは反射神経の高さやライオスの魔法発動位置など実力や運に左右されやすいため、この場の説明では伏せる事にした。
「お前がアルム=ライタードだな、話があるから少し付き合え」
観客席を上り下りする階段から話し掛けてくるのは話題に上がったライオスだった。
「何しに来たんだよ、グレニア学園は向こうだぞ!」
「そうよ、あんたみたいな野蛮人が来ていい場所じゃないわ!」
「……煩ェぞ」
非難する生徒を睨みつけ、背負ったハンマーの柄を掴んだ。
「皆さん落ち着きましょう!」
パァン、と乾いた音が観客席に響き渡り、一触即発の空気が解かれる。
「ライオス君、まずは本校の生徒が貴方に暴言を吐いたことを謝罪します。ここに来た理由はアルム君と何かお話があるようですが、この場で済ませられませんか?」
「カルティア王女殿下、悪いですが彼とは内密な話がしたいんです」
敵意剥き出しの態度から一転し、丁寧な物腰でカルティアと向き合った。
「……分かりました。アルム君はそれでも構いませんか?」
俺の意志を尊重しようと尋ねるカルティア。
彼との関わりは初日の夜以降は何もないため、レイゼンからの伝言とかそれらに近いもので間違いないはずだ。
「ええ、俺は問題ありません」
レイゼン本人が伝えに来ればこんな面倒な事にならなかったのに、そう思いながら俺は重い腰を上げた。




