望んだ展開
『数々の激闘を制し、会場を大いに沸かせた魔撃墜決勝戦を終え――――魔導大会四日目、一対一の幕開けだァ‼』
実況役のサイベルの宣言とともに会場は大いに賑わう。
「体調はどうだ、アルム?」
選手入場で会場の真ん中に足を運んでいると肩を叩いてライザが声を掛けた。
「今すぐにベレスをぶちのめせるぐらいには快調ですよ」
「ははっ、少し気が早いが素晴らしい事だ」
わりと本気の発言を笑い飛ばす彼の瞳にも闘志が宿っていた。
『ではトーナメント発表前に選手の紹介をしていきます。まずは昨年の一対一で準優勝まで上り詰め、優勝候補の一角――――』
「おい見ろっ、『石人のライザ』だ」
「やっぱデカいな……」
「トーナメント次第じゃ優勝するかもな」
「やっぱ昨年二位の実力者は名前が知れ渡っていますね」
「……石人という二つ名は気に入らないがな」
茶化すように褒めるとライザは頬を掻く。
彼は二年生から選手として出場する程の実力者だ。
ライザの二つ名がどこから湧いて定着したのかは分からないが、岩魔法や硬化魔法を主軸に戦うスタイルで馴染んだのだろう。
『また昨年の一対一で上位八位まで上り詰めたエンドリアス学園所属のテイバン選手とグレニア学園所属のライオス選手も出場しています』
「頑張れよライオスっ!」
「タリオナに続いてお前が優勝するんだよォ!」
「あたりまえだっ! しっかりとその眼に焼き付けろよ!」
解説役のエリアの紹介とともにグレニア学園の生徒たちが声援を送るとノリノリでライオスも応える。
昨年の成績、そしてレイゼンの仲間であることを考慮すれば実力はタリオナと同等かそれ以上なのは間違いない。
ベレスのくそ野郎を倒すまでは誰であろうと負ける気は無い……。
「テイバン、今年こそ絶対大丈夫だからなァ!」
「気合い入れて頑張れよ!」
エンドリアス学園の生徒たちからも声援を送られるが、テイバンは何の反応も示さないまま歩き進める。
「そう言えばテイバン先輩は体調でも悪いんですかね? 誰とも話さなかったし、顔色も悪いですよ」
視界の端で彼を捉えた俺は交流が深いライザに尋ねた。
緊張で顔が強張っているのならまだ理解もできるが、あの青ざめた顔色は体調不良以外に考えられない。
「……トーナメントが発表されるまでは去年もあんな調子だったから心配しなくていい」
淡々と答える彼に俺は口を閉じ、テイバンがいつもの調子を取り戻してくれることを静かに願う。
『そして今年度もこの男が出場っ! 魔導大会個人総合優勝三連覇の絶対的王者、ベレス=ダーヴィネータァ!』
「今年もお前が優勝だ!」
「ここで勝てば昨日の結果なんて関係ない!」
「この大会のメインイベントがようやくやって来たぜェ!」
ベルモンド学園の生徒だけでなく会場で全体からベレスの声援が聞こえる。
普段は粗暴な態度で周囲の人間を怖がらせていても、個人で他国を威圧させられる存在は数えるほどしか居ないだろう。
「悪役も一歩そとに出れば英雄扱いみたいだな」
ライザは俺と同様の感想を口にする。
その本人は反応すら面倒くさいのか風を切って歩き続けていた。
『そして今年度入学し、初の魔導大会でありながら全種目出場という偉業を成し遂げた男、これまでの中継を観戦した人で彼を知らない者は居ないでしょう! エンドリアス学園所属のアルム=ライタード選手ですっ!』
少しばかり期待していたら最後の最後で興奮気味のサイベルが紹介した。
「アルムっ頑張って!」
「終わり優勝なら全て良しだぞォ!」
「ベレスの優勝阻止はお前に掛かってるからな!」
ベレスほどではないが会場のあちこちから声援が聞こえた。
『長年この大会の実況を務めてきましたが一年生を紹介をしたのは初めてですよ』
『彼のような複数種目に出場する事例は今までにないですからね」
彼らが掛け合っている間に俺たちは会場の真ん中に集まる。
『では今年度の魔導大会の最後を飾る選手たちが集まったことで一対一のトーナメントを発表します』
二日目の魔撃墜と同じように四方へ展開された映像の中に32名の対戦相手が書かれていた。
「ええっと、ライオスが左2番で俺が左14番」
「俺は……右2番か」
両側にそれぞれ16番までの番号と名前が配置された。
みんなが指を伸ばして自身の配置を探すが反応は様々だ。
肩を落として落胆する者、良い位置に付けて喜ぶ者、良くも悪くもなく反応が薄い者――――。
「右14番にベレスか……」
しかし自身の配置に対する反応に違いはあれど次に探し出す人物は共通だった。
「アルムは何番なんだ?」
ライザはトーナメントを見上げながら俺に尋ねる。
「……右9番です」
無論、自身の番号とベレスの番号を把握した俺は確認することもなく答えた。
「右9番、ってお前……⁉」
「嘘だろっ⁉」
「アルム=ライタードがどこなのか少し気になっていたけど……」
「お互いが順当に勝ち上がって行けばアルムとベレスが第三回戦で戦うのかっ!」
これまでの試合でベレスに対抗し得る存在だと思われたのか、見上げていた選手たちは俺に視線を向ける。
「よぉアルム、昨日の祭りは楽しかったな」
この時を待っていたのか一昨日と同じ状況で接触するベレス。
「……目論見通りの展開でお前一人は楽しかったかもな。この配置もお前が関与しているのか?」
適当にあしらおうとも考えたが試合は今日中に行われることを考慮し、敬語も使わずに対話を試みた。
「何の事だかさっぱり分からない。俺はただ4連覇を成し遂げられるよう祈っていただけだ」
現時点の俺のポイントは84点、対するベレスは25点で点差は倍以上。
だが仮に第3回戦で俺が敗北し、上位八位で40点獲得した場合は合計124点。
そして仮にベレスが勝ち進め、一対一に優勝したら100点を獲得したら合計は……。
「徳を積んでいなくとも祈れば叶うってことね」
俺が個人総合優勝に固執している理由は把握していないはずだが、目の前の優勝を餌に本気を引き出させるつもりなのだろう。
優勝候補が圧力を掛ければ大会運営だって首を縦に振らざる負えない。
もしかしたら本当に偶然なのかもしれないが……いずれにしても無駄な事だ。
「余計なお膳立ては必要ねェんだよ、天運だろうがお前だろうがな」
この学園生活を楽しく、豊かにしてくれた彼女に手を出した時点で叩き潰すことは決まっていた。
「どうせなら初戦にしてくれよ、さっさと戦いたくてうずうずしてんだから」
「……それは残念だっ! でも決まったんだからその気持ちはお互いにその時まで取って置こうぜ」
「それもそうだな……」
俺は乱れた呼吸を整え、ベレスから視線を外した。




