暴かれる内情
「……ッ――――!」
試合終了から三時間後、太陽が沈み始めた時間帯にタリオナは目を覚ます。
「済まない、起こしてしまったか」
彼女が寝ていたベッドの隣には木製の椅子に体を預けるレイゼンがいた。
「……先生、いえ私が勝手に起きただけで――――」
「楽な姿勢で構わない、きみは負傷者で私はただの見舞い人だからな」
「では、お言葉に甘えて……」
ベッドから出ようとする彼女を制止させた。
「先生、試合は……決勝は誰が勝ちましたか?」
少しの沈黙の後に弱々しい声でタリオナは尋ねる。
「きみたちのチームの勝ちだ。セロブロ君の魔法がさきに命中し、水晶球を破壊したんだ」
「セロブロが、そんな間に合ったんですか⁉」
「ああ、きみの策が上手く嵌まり本当に僅かな差しかなかったけどきみたちが勝ったんだ。おめでとうタリオナ」
「ありがとう、ございます……」
レイゼンの金色の瞳に見つめられた彼女は直視できず、俯きながら称賛の言葉を受け取る。
「では私は出て行くとするよ、きみの気が張って落ち着けないだろ」
「――――そんなことは……!」
図星を突かれた彼女はレイゼンを引き留める言葉が思いつかない。
(先生が行っちゃう、訊きたい事が沢山あるのに……!)
必死に言葉を紡ごうとするタリオナだが口が重く開くことすら辛く感じてしまう。
それは多くの魔力を消耗し、魔力欠乏症を発症したから。
そしてその言葉が彼女自身を傷付け、レイゼンたちとの関係に壊してしまう可能性があるからに他ならなかった。
(……いや、こんな状態でまともな話し合いは無理。また別の機会に――――)
『黙って聞いていれば、何なんだその結論はっ! 駄目に決まっているだろう!』
そんな言い訳を塗り潰すようにセロブロの言葉が脳裏に過ぎる。
「……そうね、貴方の言う通りだわ」
「ん? 何か言ったか?」
叩かれた左頬に手を添え、彼女の瞳に生気が宿った。
「先生、訊きたい事があります。先生とアルムはどういう関係なんですか⁉」
「……それは答えなければならない事か?」
「はい、答えて下さい」
「……私にも知られたくない隠し事はある」
「そうですか。では先生にとってアルムは特別な存在ですか?」
「……ああ、特別な存在だ」
「そうですか。では……私と彼ではどちらが特別ですか?」
躊躇いを見せる彼女だが勇気を出してそれを口にする。
「何を馬鹿なことを訊いているんだ、少し休んだほうが――――」
「誤魔化さずに答えて下さい、レイゼン先生!」
先程とは打って変わりこの場から逃がさないように睨みつけるタリオナ。
レイゼンは反論しようと口を開くが、観念したように軽くため息を吐いた。
「……無論、きみが特別に決まっているだろう」
「――――分かりました。お見舞いありがとうございました、先生」
訊きたい事を終えた彼女は普段通りの様子で感謝を告げ、静かに毛布をかぶる。
「ああ、お大事に」
レイゼンは転移魔法で病室から姿を消した。
(私よりも、いや私たちよりも特別なのですね……)
「アルム=ライタード、一体何者なのかしら?」
虚しさと興味を沸かせ、まぶたを閉じた。
「ふぅ……」
タリオナとの対話を終わらせたレイゼンは別の病室に転移する。
「お疲れのようですね、タリオナの様子はどうでしたか?」
病室で待機していたモーゴットは彼の上着を受け取る。
「疲労の色は見えたが元気そうだったよ」
(それに遠慮がちだった性格も試合を通じて変わったようだ)
「あんな奴のお見舞いなんて必要ないって言ったのに」
見舞い品のリンゴをかじりながらタリオナの悪態を吐く。
「そう言うなライオス、きみが倒れた時に行かなくて良いのか?」
「来なくて良いさっ! だって俺はアイツみたい軟弱じゃないからね」
「ぼ、僕は来て欲しい、です……」
部屋の隅で縮こまりながらリベルは声を発した。
「言われるまでもない、必ず行くさ。それよりもそんな遠くちゃ魔法を使えないだろ?」
「そうだぞ、我々は部外者なのですから人が来る前に調べてくれ」
「さっさと来いよリベル! もうすぐ祭りの時間になっちまうだろう!」
「う、うん、今行くよ!」
ライオスたちに促され、足早にベッドのほうへ移動するリベル。
「ったく、アルムの野郎が黒玉を回収してくれればこんな手間を掛けずに済んだのによォ」
「まあ彼には彼の事情があったのだろうからそれ以上は止めなさい」
「じゃあいつも通り会話の復唱、それから重要事項を質問するから答えてくれ」
「分かりました」
彼は深呼吸をしてから治療で運ばれたエミリーの額に触れた。
「――――【記憶逆行】」
リベルの意識が自身の腕から彼女の脳へ移り、昨夜の出来事を覗き見た。




