聞きたかった一言
『これは、同時に破壊されたのでしょうか……? 監督者さんは確認をお願いします!』
サイベルは大会連盟に打診する。
映像を注視していた者もどちらが先か議論を交わさねばならない程、両者に明確な差は無かった。
「マジでどっちが先だったんだ⁉ お前分かるか?」
「アルムだろ、距離はあったけどあの魔法なら関係ないだろうし……」
「って言うかこんなに追い詰められるとはな……」
「アルムの奴、油断し過ぎだろっ!」
「いや俺たちだって空にあるって思い込んでただろ」
大会連盟が調べている間に会場内は勝敗の行方について話し合われた。
「アルムの油断もあったと思うけど、正直これはタリオナが一枚上手だった」
「セロブロもすげェよな、あいつが居なかったらここまで接戦にはならなかった」
「逃げた時は絶対最初に脱落するって思ってたもんな……」
そして勝敗の行方からこのような状況まで発展させたセロブロとタリオナの話が持ち上がる。
「何ていうか、カッコいいよな」
「確かに憧れる……」
「強い奴に負けて、惨めに逃げて、そして強くなって戦場に戻って来て……」
一足先にその結論に至った彼らは気付かされる。
(ベレスやアルムみたいに圧倒的な強さが欲しいと思った時は何度もあった)
(でも手に入る訳もない、だからそんな連中に無駄に戦う奴を笑った)
(そうしていれば自分の弱さから目を背けられたから……)
(頑張らない自分を正当化できたから……)
「頼む、勝ってくれ……!」
結論に至った一人の青年は両手を合わせ、静かに願った。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
セロブロは地面に座り込み、ゆっくりと呼吸を整える。
「おいっ! 早く回復薬を持ってこい」
「――――あァ、痛い……!」
左半身に大火傷を負ったエミリーは数人の監督者に治療を施されていた。
無論、その炎を纏っていたセロブロも彼女ほどではないが肌が焼け焦げていた。
「きみも火傷しているじゃないか、早く治療をっ!」
「僕の傷は結構です、それよりも早く結果を調べて下さい」
「それについては早急に調べていますので、今は治療を――――」
「すみません、回復薬貰っても良いですか?」
「あ、アルム選手⁉」
監督者の影から姿を見せるとアルムは回復薬を飲み干した。
「あともう二、三本持って来てもらえますか?」
「分かりました、ここでお待ちください……」
監督者はその場を立ち去り、彼ら二人だけの空間となった。
「ふぅ……まずはお疲れ、いい試合だった」
セロブロの隣に座り込んだ彼はそう告げる。
「こちらとしては貴様に直接手を下せなかった分、いい試合とは言い難い」
「確かにお前の奥の手は少し見てみたかったけどな……」
アルムは抉られたように焼き払われた森一帯に視線を向ける。
「まだ勝敗は着いていないようだが、貴様はどちらの勝ちだと思う?」
「さぁ、どっちだろうな」
そう言って答えを誤魔化すアルム、しかし心の何処かで何となく答えを得ていた。
水晶球を撃ち抜くことに没頭していた彼と違い、アルムは本気で取り組んではいたが気持ちでは劣っており、魔黒閃を撃った時にはセロブロのほうに意識を向けていたのだった。
(べつに引き金を引いてしまえば、目の前に集中しようとしまいが到達速度に変化はない。ならどこに意識を向けようが俺の勝手だ)
「だからこの時間に期待できないのも俺の勝手なんだ……」
「……? 何を言って――――」
「セロブロ選手、アルム選手! 試合結果が発表されました!」
回復薬を両手に監督者は急ぎ足で彼らの下へ向かう。
『大会連盟から試合結果が言い渡されました。ふたつの水晶球破壊、いや撃墜まで僅か0.1秒差……』
重々しく述べる言葉に会場の者は喉を鳴らし、これから宣告される結果に耳を澄ませる。
『数々の激闘を繰り広げ、チームメイトの想いを背負って最後まで抗い、勝利を手にしたのは――――セロブロ、タリオナチームですっ‼』
「うおおおおオオォォ‼ まじで凄すぎるって!」
「飛んだ番狂わせだぜェ! おめでとうっ!」
会場は熱狂と興奮で溢れ出し、闘技場そのものが揺れたようにする感じるほどだった。
「僕の、僕たちの勝ち……!」
監督者から告げられた言葉にセロブロは感極まり、少しばかり瞳が潤む。
しかしアルムの顔を見てすぐさま目を擦った。
「ふっ、しかしなるほど、そう言うことか!」
「何を納得したんですか、優勝者?」
「貴様は自身が負けたと気付いていたという事だ、流石はアルムだ」
まだまだだな、そう言い聞かせる彼にアルムは怪訝な表情を浮かべる。
「お前それ本気で言ってんのか?」
「僕がふざけた事があるとでも言うのか」
真面目な顔で答えるセロブロに彼は大きくため息を吐いた。
「お前が生粋の馬鹿だということを忘れていたよ」
「なんだ――――」
「いいかよく聞け。お前この試合、望まぬ形であっても俺たちと渡り合い出し抜いて勝利を収めたんだ」
「ッ……!」
セロブロの目が大きく見開かれる。
「ベストを尽くした俺に勝ったんだ、だったら変に自分を偽るのは止めろ」
「ッ――――……!」
その言葉にセロブロの瞳からとめどなく涙が零れ落ちた。
「俺の負けだよ、セロブロ……やっぱりお前は凄い奴だ」
ありのままの気持ちを吐露するアルム。
セロブロは監督者から回復薬を奪い取り、顔や右腕に浴びさせる。
「怪我の治療は良いんじゃなかったのか?」
「……痛むんだよ、急にな……」
悪戯交じりに声を掛けるとセロブロは震える声で返答した。




