狙撃する者たち
「――――では私がエルヴィスさんを、エミリーさんがタリオナさんの水晶球を狙いましょう」
エミリーに第三の水晶球を教えられたカルティアは新たな作戦を編み出す。
「……ひとつお訊きしたいのですが、魔法制御はカルティアさんのほうが上なので、タリオナさんの水晶球は私じゃないほうが良いと思うのですが?」
「エミリーさんが適任だと思う理由は二つです。ひとつは貴方の土魔法は奇襲を仕掛けるのに向かないから、ふたつは距離減衰が発生しにくいからです」
魔法特性への理解が乏しいエミリーは首を傾げる。
「出力によって差異は生じますが、私の雷魔法は他の魔法に比べて発動から命中に掛けて早い傾向にあります。逆に土魔法は重さで速度が下がってしまい、奇襲にはやや不向きなのです」
「なるほど……」
「しかし雷魔法は速度に重点を置いているため、中距離以降では威力の大幅な弱体化は避けられません。逆に土魔法は重量があるので距離が離れていても、その影響を最小限に抑えられるんです」
魔法にも得手不得手があると補足するカルティア。
「……カルティアさんの考えは分かりました、撃ち落とせるよう最善を尽くします」
納得できる説明を聞けたエミリーは覚悟を決める。
「それと水晶球はエミリーさんが持っていてください。私の場合、エルヴィスさんに接近する必要があるので」
迎撃される可能性もありますから、そう付け加えて水晶球を彼女に託する。
「はい、必ず守ってみせます!」
任された彼女はより一層強く水晶球を抱き締め、それぞれの狙撃位置に移動を始めた。
『試合開始から50分が経過し、ようやく全チームの水晶球を特定できましたが、なぜ発見にここまで時間を要したのでしょうか?』
『天候と水晶球の特徴、そして選手たちの共通認識の穴を突いたからだと考えられます」
『共通認識、ですか?』
『はい、この試合の絶対条件は水晶球を破壊されてはいけないことです。そうなれば必然的に水晶球は傍に置いておく、もしくは絶対に見つからない場所に配置する、という考えに至ります』
『確かに……! 空に浮いているなんて格好の的、そんな場所に配置しているはずが無いという相手の裏を突いた策なんですね!』
『ええ、しかし他の選手もその線を考えていた可能性はあります。そこで天候と水晶球の特徴を利用されるのです』
「透き通った水晶で形作られた水晶球は太陽の下でかざされれば、その姿形を捉えることはできない」
「同じ系統の光であれば、光っていたとしても気付かれない……これは見つけられない訳だ」
エリアの解説に続けてライザとテイバンが答えを述べた。
「それだとエミリーさんに見つかったのは何故ですか?」
傍で彼らの話を聞いていたマリアは疑問を投げかける。
「理由は本人にしか分からないが、恐らく太陽の動きに合わせるほどの余裕が無かったのだろう。ただでさえ武器の操作には高い集中力を要する、そのうえ纏っているセロブロの炎に干渉しないよう細心の注意を払い続けるのだ。浮かせているだけでも精いっぱいなはずだ」
「心身ともにかなり消耗しているはずです、会長たちが仕掛けなくともいずれ決着は付くでしょう」
「結局会長たちは戦いの行く末を眺めていたほうが良かったのでしょうか?」
「いや、消耗の度合いで言えばアルムもかなりのものだ。タリオナたちが自滅してもベレスたちが健在なら勝ち目は薄い」
タリオナの問いをライザが答えると彼らは黙って戦いを見守る。
(どの選択が正解だったのか? その答えは戦いが終わった時にしか分かり得ない。しかしその選択を強いられるときは必ず訪れる。ならば我々はその判断が最善になるよう抗い続ける以外に道はない)
主賓席に座るレイゼンは無表情のまま試合を眺めた。
(……わたしのタイミングで良いって言ってくれたけど)
アルムたちの戦場から200メートルほど離れた位置で狙撃を試みるエミリー。
(エミリーさん、頑張って……)
対してカルティアはエルヴィスたちすぐ後ろの茂みに身を潜め、撃ち上がる魔法を静かに待った。
「おらァ!」
「死ねェ!」
縦横無尽に動き回る武器に適応してきたアルムとベレスは息を吹き返す。
「動きにキレが無くなっているぞ、集中しろっ!」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「……タリオナ?」
セロブロは注意を促すが、隣に立つ彼女は顔色が悪く意識も朦朧としているようだった。
「落ち着きなさい、あの人たちの力になりたいんでしょ……!」
彼女は乱れた呼吸を整え、空に浮遊する水晶球を見定める。
そして肺に取り込んだ空気をゆっくりと吐き出しながら構築式を展開した。
「――――【岩弾】」
鋭く尖った岩石が空に向けて射出される。
「来たっ……【雷撃】」
視界に捉えたカルティアも構築式を展開し、エルヴィスに目掛けて白い稲妻を放つ。
「――――ッ……」
戦場に電撃が迸るのと同じタイミングでタリオナは意識を失った。




