水晶球の所在
試合開始から50分が過ぎようとした頃、姿勢を屈ませてカルティアとエミリーはアルムたちの下へ向かっていた。
「彼らの戦場はすぐそこです、決して気を抜かないで下さい」
「は、はい……!」
カルティアに促され、上着で包まれた水晶球をより一層強く抱きしめるエミリー。
中央に進むにつれ、激しさと勢いを増す戦闘音に彼女たちは不安と緊張を募らせた。
「【魔黒閃】!」
目の前の茂みを通り過ぎると土煙で汚れ、体の複数箇所が血で染まったチームメイトの姿を目撃する。
「【不可視の歪み】」
アルムの指先から放たれた黒光線がベレスの目先でぐにゃりと曲がり、タリオナたちのほうに軌道を逸らす。
「【炎々する盾】」
しかし烈火を纏った大盾が流れ弾から彼女たちを守った。
(くっそ! ベレスがようやく本気を出してくれると期待したが、タリオナたちのせいで膠着状態。アルムの野郎もセロブロたちを取り巻く炎で近付けないようだしな……)
エルヴィスは自身にヘイトを向けられずに優位に進められる方法を模索していた。
『先程とは打って変わりアルム選手たちはかなり戦いにくそうですが、それ程までにあの炎を灯した武器が強力なのですか?」
『あの武器たちはタリオナ選手の万器統率の魔法とセロブロ選手の炎魔法の魔力が二層に重なって成り立っている魔法になります。そしてその層を突破して武器を破壊するのは極めて難しいと考えられます』
ベレスの手が焼かれた光景を思い出し、サイベルは深々と頷く。
『そのうえ彼女たちを最も乱していたアルム選手の影移動はセロブロ選手の炎で抑えられ、正面から炎を纏った武器を相手にしなければなりません。しかし全ては一度撤退し、お互いに話し合ったからこそ見つけ出せたアイデアと言えるでしょう!』
密かに応援していたエリアは誇らしそうに解説した。
『戦況は水晶球が発見されておらず、接近を許していないタリオナ選手たちが優勢、逆に人数差のあるアルム選手は不利か⁉』
『彼のチームメイトが気付かれずにすぐそこで控えていますが、急所となる水晶球を所持していますね。彼女たちが起こす行動によってどう戦況が変化するのか目が離せません』
(あんな激戦、入れる訳ないでしょ……帰りたい)
期待されているエミリーだが目の前の光景に気圧され、不安は恐怖、そして遂には戦わずして挫けてしまう。
(あぁ、何かが変われると信じて死神教を信仰しようと思ったのが間違いだった。お陰で身の丈の合わない舞台に来てしまった……結局わたしは何者にもなれないまま生涯を終えて――――)
「危ないっ……!」
頭の中が後悔と自己否定で埋め尽くされる彼女をカルティアは抱き付く形で押し倒した。
「か、カルティアさん!」
混乱するエミリーだが彼女の右肩から突き刺さった結晶の破片を見て状況を理解できたようだった。
「ごめんなさい、わたし……」
「気にしないで下さい、チームメイトを守るのは当然ですから」
安心させるように笑顔を作る彼女、しかし眉がぴくぴくと痙攣しており激痛に耐えているのは言うまでも無かった。
「それよりも水晶球が光る頃合いです。このまま私が覆いかぶさるので少しの間この体勢でお願いします」
エミリーは静かに頷き、数秒後に五度目の発光が行われた。
(……役に立つどころか怪我まで負わせてしまって、この人たちのチームにいる自分が恥ずかしい)
「本当に何しに来たんだろ……」
エミリーは瞳を潤ませ、茂みの隙間から遠い空を覗く。
自分たちを囲う結界、その向こう側に広がる青い空と太陽、そしてこの試合で見慣れた人工的な白い光を……。
「――――なにあれ……?」
エミリーは目を擦り再び空を見上げると確かに太陽とは別の物体から光が生じていた。
(水晶球はチームごとに配られていて、私たちの水晶球とエルヴィスさんが持っている水晶球、そして未だに見つかっていないタリオナさんたちの水晶球……もしあの光が水晶球に依るものだとしたら……)
「……光は収まったようですね」
カルティアは光りが消失したことを確認してからゆっくりと上体を戻す。
「私たちの存在は気付かれていないようですし、ここから作戦を練りましょう」
「カルティアさん、あの――――」
水晶球の存在を知らせようと手を伸ばすエミリー、しかし肩に触れる直前で止めてしまう。
(この考えが間違いだったら? 私の見間違いだったとしたら? 一刻も早く現状を打開しなくちゃいけないときに確証のない話で時間を取らせちゃいけない……)
エミリーは知らせない言い訳を作り出し、伸ばしていた手を引っ込める。
(そもそも私が気付くような事をアルムさんやカルティアさん気が付かない訳がない。きっと私の想像も及ばないような策略で泳がせているに決まっている……!)
自分が恥をかくだけ、そう言い聞かせて彼女は下を向いた。
「エルヴィスさんが所持している水晶球を破壊するとタリオナさんたちとの一騎打ちになるのでそうなる前に――――」
「カルティアさん!」
肩から手へエミリーは腕を伸ばして力強く掴む。
「そらを、見て貰えませんかっ!」
(迷惑を掛けても、恥をかいても……私はこの人たちの力になりたいっ!)
他人の顔色を窺い、受け身だった彼女の瞳にも闘志が宿った。




