チームの方針
白い光に包まれ、気付けば緑に生い茂った森の中に立っていた。
「……! カルティア先輩、エミリー先輩」
「大丈夫です、ここに居ます」
「転移は成功したみたいですね。私たち以外の人は見当たりませんし」
彼女の言う通り、周囲に人の気配は感じない。
「もう競技は始まっているし、とりあえず移動しますか?」
「いやその前に自分らの戦略と、相手がどう動くのかを考えておきましょう」
俺は地面に置かれ保護対象に視線を向けた。
『この魔撃墜決勝戦での勝利条件はただひとつ! それは彼らの目の前に置かれた『水晶球』を最後のチームになるまで守り抜くことです!』
「……どうですか?」
「そうですね。中の球体は透明度が高い壁で守られているので、ちょっとやそっとの衝撃で壊れることは無いでしょう」
俺たちは『水晶球』と呼ばれるものに触れながら作戦の方針を固め始める。
中は拳サイズの水晶球が中央で浮遊しており、その球体を囲むように正方形が形成されている。
「重さはそこまで気になりませんが、持ち運ぶには少し大きいですね」
男の俺は片手でも持てなくはないが、彼女たちはそうもいかないだろう。
しかし無理に持ち運ぶ必要もない。それはこれから立てる作戦で決めればいい事だ。
「じゃそれらを踏まえたうえで意見を出していきましょう」
「「はい」」
アルムたちは順調に試合がスタートした。
「僕たちはどう動く? 昨年の優勝者の意見を聞かせてくれ」
「……敬語は使わなくても良いと言ったのは私だけれど、貴方って遠慮が無いのね」
「そんなどうでも良い事は試合に勝った後で聞いてやるから今は競技に集中しよう。それとも敬語を使ったほうが良いのか?」
「いいえ、結構よ」
タリオナは首を横に振った。
「このチーム戦の定石としては一人が水晶球の守り、もう一人が敵水晶球を破壊、そして他は周囲の索敵や攻守に参加する、と言ったところかしら」
「じゃあ僕たちは二人だから攻守に分かれて動くってことか?」
「そうしたい気持ちはあるけど、敵チームにはベレスとアルムさんが居ます。下手に戦力を分散して戦闘になったらまず勝ち目はないわ」
「じゃあどうするんだ。このまま作戦も考えずにのらりくらりと敵が潰し合ってくれるのを待っているというのか!」
「だから今考えているんじゃない! そもそも前の大会は四人でチームを組んだから勝手も分からないのよ!」
「……ったく」
(実力と経験を踏んで彼女を誘ってみたが、少し軽率だったかもしれない。だが試合は既に始まった、今更悔いても仕方ない)
セロブロは考え込み、一つの名案を思い付く。
「だったら別れず一緒に行動をしたらどうだ? それなら各個撃破もされないし、その両名にも対抗できる」
「貴方馬鹿なの? 水晶球を壊されたら私たちが無事でも負けるのを忘れたのかしら」
「最後まで話を聞け。何もそれを持ち運んで戦えだなんて言わないさ」
「……貴方、まさか――――!」
タリオナは数秒の沈黙の後、彼の意図を汲み取った。
「さてベレス、必要ないとは思うが俺たちも作戦を練って置こう」
「エルビィスが水晶球を守って、俺がアルムたちを狩りに行く。作戦は以上」
競技の勝敗自体に興味のないベレスは早速敵を倒そうと歩き始める。
「ちょっと待てっ! 俺一人で他の選手から守るのはいくら何でも無茶だ、もう少し話し合おうぜ!」
「……はぁ、分かったよ。じゃあ結界付近まで移動してその場を中心に捜索をするのはどうだ? それなら敵チームの発見も容易だし、正面以外の攻撃を心配する必要は無いだろ?」
「おぉ、急にすごいまともなこと言い出したな、じゃなくて了解だ!」
ベレスの後ろをついて行くようにエルビィスも歩き始める。
『各々のチーム内の方針を決めて行動を開始していますが、アルム選手擁するチームは方針を固めていないようですね』
『他の2チームと違って人数が多いですからね。その利点を最大限に活用する方法を模索しているんだと思います』
魔法によって現地の映像を見ることは可能だが、私語などの小さな音を拾うことはできない。
「疑問なんですけど、森林地帯に張ってある結界ってかなりの規模ですよね?」
「そうですね、恐らくこの王都の半分くらいの大きさはあるでしょう」
会場で試合を眺めていたラビスは復帰したマリアに尋ねる。
「周囲は森に囲まれて陽の光もあまり届きません。正直、接敵するだけでも骨が折れそうですけど……」
「それなら心配はいらないよ。あの水晶球は一定の時間ごとに光り出すんだ」
「えっ、光る⁉」
彼女の疑問はとなりのスベンが答え、深緑色の瞳を大きく見開かせた。
「どうしたって発光する瞬間だけは敵の注意が向いてしまいます。私の意見としては、攻撃に人数を割かず三人で守りを固めることを提案します」
水晶球に触れながらカルティアは考えを述べる。
「木の後ろに隠してどうにかやり過ごせないんでしょうか?」
「はっきりとした事は言えませんが、この魔法特性は敵チームに所在を知らせるためのものです。森の奥深くでも明かりに気付ける程度ですから、かなりの光を発すると考えたほうが良いかもしれませんね」
「そうなると下手に戦力を分けるのは最善の手ではないかも……私はカルティアさんの意見に賛成します」
エミリーは小さく手を挙げた。
(真正面から敵を迎え撃てる利点を考えるなら彼女らの意見に賛成だが、その理屈が通るのは飽くまで水晶球を狙う敵のみ……いや普通ならそうなんだけど)
彼はベレスの存在を考慮し、中々作戦を決められずにいた。
「アルム君、考えがまとまらない時は口に出すと良いですよ」
「……気を遣わせてすみません。ではお言葉に甘えて――――」
アルムは軽く息を吐いてから口を開く。
「客観的に見て俺たちのチームは戦力的にはやや優勢、しかしだからこそ他のチームから狙われる可能性は高いです。それに少なくとも二名の選手は私的な理由で狙われています。それらを踏まえると自分のそばに貴方たちが居ることは大きな危険を孕んでいるのではないか、と考えていました」
「……確かに一理ありますね。私としてはアルム君の案に従っても構いません」
「え、えと、アルムさんの案って一体……?」
「彼を敵地に放り込み、敵チームを壊滅させる作戦です」
「そんな都合の良い作戦じゃないですけど概ね合っています」
「おひとりで⁉ アルムさんはそれで大丈夫なんですか!」
「まあ四人一斉に相手取っても生還できる自信はあります」
「さ、流石ですね……」
そう答えるとエミリーは引き気味に顔をしかめた。
「では作戦が決まりましたね。私たちが水晶球を守るのでアルム君は全ての敵を倒してきてください!」
「……分かりました、死力を尽くすことを約束します」
無理を言った手前、断ることが出来なかったようだった。
「ではカルティ先輩、エミリー先輩、水晶球の守りをお願いします!」
アルムは彼女らに水晶球を託すと中心地へと駆け出した。




