決勝戦の下準備
俺は店から抜け出した後、自分たちが寝泊まる宿に足を運んだ。
この時間帯では宿泊施設の従業員を除いて生徒や教師は居ない。
密談をするのにこれ以上の場所は無いだろう……。
「……俺だ」
俺は目的の人物が居るであろう部屋の扉前に立つ。
「お入りください」
するとガチャっと音を立てて、レイゼンが出迎えた。
「ここに来ておきながら驚いたよ、何も言わなくても居たんだからな」
「あそこまで熱い視線を向けられれば、誰だって気付きます」
レイゼンは淡々と述べ、紅茶が注がれたテーブルに誘導する。
「気付くのと居るのとは別問題だが、とりあえず手間が省けた」
俺は会場で感じ取った悪寒の正体を話そうと思ったが、他校の理事長や王族に囲まれている彼に直接声を掛ける度胸はなく、視線を向けて事情を察してもらうことに賭けたのだ。
「それで決勝戦の直前にお話ししたい事とは何ですか?」
「……じつは第三回戦のミリエラの相手選手に違和感を感じたんだ」
「違和感、ですか……」
「その様子だと何か知っている、いや気付いていたんだな」
レイゼンは黙って紅茶を啜り、沈黙の肯定と判断する。
ミリエラの相手選手が常人で無いと気付けば俺の意図を理解し、話す場を設けようという考えにも至るはずだ。
「違和感なんて曖昧な言葉を使ったが、率直に言うとあの女からは黒玉と同じ魔力を感じ取った!」
情報を引き出そうとも試みたが、先の反応を見るに彼も多くは知らない様子。
決勝戦も差し迫っている以上、無意味な話し合いに時間を割いている暇は無い。
「実物を見たわけでは無いが確信に近いものを得ている。もしあの女子生徒が黒玉を服用すれば、取り返しのつかない事態になるかもしれない!」
魔物討伐試験の時はリーゼンしか居なかったから対処も出来たが、今回は黒玉所持者も複数いて、黒玉をばら撒く元凶が王都に潜んでいる可能性すらある。
「だから決して本意ではないが、お前の力を貸してくれ……」
俺は少しだけ頭を下げ、レイゼン相手に頼み込んだ。
「……くふっ、そんな屈辱を噛み締めなくても協力くらいします」
「良いのか⁉」
「ええ、こちらも死神教の存在は目障りですからね」
「……レイゼン、たすか――――」
『どうして、そんな冷たいことを言うの……』
その瞬間、タリオナの言葉が頭を過ぎ去った。
「何かおっしゃいましたか?」
「……いや、何でもない。早速作戦を考えよう」
俺の事をどう思っているのか、そう尋ねたい気持ちをぐっと堪えて目の前の問題に取り掛かる。
「いえ作戦を考える前にお聞きしたいのですが、貴方はその女子生徒から黒玉を奪取できれば良いのですよね?」
「ああ、その認識で構わない」
「もう一つお聞きしたい事があります。その女子生徒が黒玉を所持しているという事は死神教の信者、もしくは接触があったという事になります」
「そうだろうな」
「いずれにしても死神教の情報を有しているのは確実です。私としては黒玉の解析に続き、死神教の全貌を把握したい気持ちはあります」
「それはあの女子生徒を捕らえて情報を吐かせるという事か?」
「概ね間違っていません」
「……素直に吐かなかったらどうする気だ?」
「手荒な真似は好みませんが、場合によっては……とだけ言っておきます」
「おい……」
彼の口から言わせなくても分かっていた。
しかしここで釘を刺さなければ何の躊躇いもなく実行していただろう。
「お気持ちは理解できます。しかし連中の尻尾を掴むのは容易ではありません。貴方だって知りたいのではありませんか?」
「ッ……黒玉の奪取は確定として、その女子生徒の処遇はあとで決める」
「……分かりました、合理的な決断が下されることを祈っています」
レイゼンは背もたれに体を預け、軽くため息を吐いた。
彼の言う通り、正しさにこだわっている場合ではない。
だからあらゆる手段を尽くした後に『その決断』を下そう……。
「では彼女から気付かれずに黒玉を回収する作戦を立てましょう」
「そうだな」
俺たちはチーム決めが始まるまで作戦を話し合った。
***
その頃、タリオナは学友たちとの昼食を早々に切り上げ、会場に設けられた一室に向かっていた。
(少し時間は早いけど遅れるよりはマシね……全てあの男のせいだわ)
怒りに身を任せた足取りは人気のない廊下に大きな音を響かせた。
「グレニア魔法学園のタリオナ=クルバルト選手だとお見受けします」
「……どなたですか?」
タリオナは警戒心を高める。
「失礼。僕はエンドリアス学園一年セロブロ=ジクセス、貴方と同じく 魔撃墜の決勝戦に出場する者です」
「そう、覚えていなくてごめんなさい。それで私に何か用ですか?」
「僕たち二人で手を組み、アルム=ライタードを打倒しましょう」
「……⁉」
静寂な廊下の中で両者の視線が交じり合った。




