予想外の出場者
魔導大会二日目、魔撃墜の会場となる円形闘技場は学園関係者らや観客が賑わっていた。
『昨日に引き続き、からっと晴れた青空の下で魔導大会二日目が始まって参りました!』
『本日の魔撃墜は中遠距離からの魔法攻撃、昨日のようなトラブルが起こる事は無いでしょう』
『はい、選手の皆さんには安心して競技に取り組んでほしいですからね。では選手の入場です!』
実況役のサイベルの宣言とともに、各学園の選手たちが門から中心のフィールドに足を踏み入れる。
『入場とともに選手紹介に入ります。まずは昨年の魔撃墜優勝チームに属していたグレニア学園二年生のタリオナ選手、ベルモンド学園五年生のエルビィス選手は今年度の大会にも出場しています』
「タリオナちゃん! 頑張って!」
「エルビィス様ァ! 今年も勝ち取ってください!」
解説役のエリアに合わせて観客席から応援の声が上がる。
「今年も組みますか、エルビィスさん?」
「ずいぶん気の早いことだ。まあお互いそこまで残っていたら考えておくさ」
「そうですね」
エルビィスは余裕の笑みを浮かべ、タリオナは自前に丸眼鏡をくいっと挙げた。
『他にも昨年に出場経験のある選手が続々と登場しているようです――――おおっと、これはァ!』
『サイベルさんもお気づきになりましたか』
驚愕の表情を浮かべ、隣に座るエリアのほうを振り向く。
『何という事でしょう! 百キロ走で五位入賞を果たしたアルム選手が昨日に引き続き、魔撃墜に出場しています! ちなみにですが大会規則上、許されるのでしょうか?』
『……一応、その年の内に二つ以上の競技に出場する事について明記されていないので問題は無いと思われますが……』
エリアは回復しきれていない体で彼の実力が発揮されるのか疑念を懐いている様子だった。
「全く、司会者の方たちを混乱させないで下さい」
「そんな事言って想定していたんでしょ」
カルティアは困った表情を浮かべるが、取り繕っていると即座に看破された。
「まさか本当に出場する気だったとは思いませんでしたが……」
(とは言え、早朝のアレを見せられてしまえば先生も反対は出来ませんね)
ミリエラはふたりの後ろを追従しながら小さくため息を漏らす。
大会開幕前の朝は出場選手を決定するため、最終調整を行うのだがアルムが披露した魔法が他の生徒を大きく凌駕しており、反対していた教師たちも口を閉ざすしかなかった。
「とりあえず出場はお互いに叶ったな」
「ああ、けど勝負はここからだってこと忘れんなよ」
「無論、そのつもりだ」
アルムたちの下へ立ち寄ったセロブロだが、伝えたかった事を言い終えるとすぐさまその場を離れる。
『魔撃墜の出場選手たちが出揃った事なので、競技説明に入ります! ではエリアさん、お願いします!』
『はい、まず魔撃墜は今日と明日の二日間で行われる競技になります。またトーナメント方式を採用し、ベスト56位を午前に、ベスト28位を午後に、ベスト14位を明日の午前に、そしてチーム戦を明日の午後に実施いたします』
『昨年の魔撃墜から競技規則や順位ポイントに変更などはありますか?』
『はい、じつは競技の勝利条件が一部変更されまして――――』
司会役の両名が掛け合いながら競技説明が続けられた。
『――――そしてこちらがトーナメント表になります』
投影魔法によって紙面で描かれた表が大きく映し出される。
「げぇ、一番最初かよ……」
「本当ですね、私は……12番目だからアルム君と戦うことは無さそうで良かったです」
カルティアは安心したように胸を撫で下ろす。
「うわっ! 勝ち上がっても二回戦目お前かよ!」
「あんま仲間内で戦いたくなかったんだけどな……」
しかし全員が納得できるトーナメント表ではないようで選手たちから苦情の声が漏れた。
一回戦は同校対決にならないよう配慮されているが二回戦、三回戦と続けば避けるのは簡単では無い。
「言っても選手配置は大差ない感じだから公平と言えば公平――――うん?」
アルムは流し目で表を見ていると一人の人物名に焦点を当てる。
「見間違えたか……」
そう言って目を擦り、再びその人物名に焦点を当てたが何一つ変化はなく事実であることが明らかとなった。
「え、何であいつが……」
「ちょっと聞いてないんだけど……!」
自身の配置に一喜一憂していた選手たちもその人物の存在に気付き始める。
『こ、これは……! 56番目の選手としてベルモンド学園四年生、ベレス=ダーヴィネータ選手が出場しています!』
『しかしベレス選手がフィールド内に見当たらないようです。間違いの可能性も――――』
「遅れてすみませぇん」
大会運営者に真偽を求めようとしたエリアだったが、直後その本人が入り口から姿を見せる。
「間違いじゃありませんよ司会さん。俺は魔撃墜に出場します」
堂々とした足取りでアルムのほうへ足を運ぶベレス、遅れたことに注意はおろか歩みを邪魔することも恐れ多く、選手たちは彼の道を開ける他なかった。
「よぉアルム、お前が出場するって聞いてたから俺も来ちゃった」
にこやかな笑みで再開を果たす彼だが、一昨日の出来事を知っていた者は不安と恐怖しか無い。
「……言った覚えが無いんですけど」
「となりの彼女が教えてくれたんだ」
アルムはジッと視線を向けるが、彼女は逃げることもなく笑顔を見せるだけだった。
「はぁ、貴方は次の競技で戦うと思っていたので驚きました」
「俺もそのつもりだったけど、昨日の試合を見てたら我慢できなくて来ちゃったんだよ。あと敬語は要らない、俺たちの仲だろ!」
そう言ってベレスは広げた右手を突き出す。
「また素晴らしい戦いをしよう。次はお前の全てを見せてくれ」
「…………」
アルムは彼の右手を見つめるが、そっぽ向いてトーナメント表に目線を戻した。
「静かにしてもらえませんか、進行が止まってしまうので」
「……ふっ、それもそうだね」
周囲の人々はベレスの報復を恐れたが、アルムに促されたお陰かそれ以上話す事は無かった。




