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死神だった俺、暗黒魔法の転生者として平和な時代で再び戦いに巻き込まれる  作者: バッチョ
魔導大会一日目

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明日に向けて

「ふうぅ……」


 レイゼンたちとの密会を終えた俺は宿泊施設の大浴場に入り、一日の汗を流した。


「死神教、他国の騎士どころか学園の生徒にまで手を出すのかよ」


 タリオナたちの情報によれば、数週間前からグレニア王国内で死神教信者の動きが活発になっていたらしい。

 最近では布教活動に加えて、黒い玉が密かに出回っているようだ。


「黒い玉、リーゼンが持っていた物と特徴は一致する……」


 服用すればどんな怪我でも(いや)し、常軌(じょうき)(いっ)した力を手に入れることが出来る代物。

 真意は不明だが、レイゼンでも俺以上の情報は持っていないと言う。


「簡単に手に入れられる力があるなら誰だって欲しいはずだ」


 それは学園内の生徒たちを勝ち抜いた選手も同じ、むしろ自分が発揮できる『最高』を知っているからこそ、更なる高みを求めて手を出してしまう可能性は高い。

 あの黒い玉が人体にどんな影響を与えているのか分からない以上、悪だと断定することは難しいが……。


「あの球が(まと)っていた魔力は半端じゃない。とても人間に扱える代物では無いだろう――――」


「一人でブツブツと、何をほざいている」


「――――セロブロ⁉ いつから居た!」


 跳ね上がるように立ち上がり大きな波を生み出した。


「少なくともお前がブツブツ言っている時には既に居た」


「盗み聞きするなよ、趣味悪ィな……」


「はっ、平民の言葉に耳を傾けるほど僕は暇じゃないんだ。変な言いがかりは止してくれ」


 突っかかってくる様子は無いからはっきり聞こえていた訳では無さそうだ。 


「…………」


 彼みたいな人間が黒玉に手を出すのかもしれない。


「……貴様、いま無礼なことを考えていたな」


「いえいえ、無事に怪我が治って良かったなと思っただけです」


 ジロリと睨みつける彼に対し、俺は天井に目線を泳がせた。


「まあ良い、貴様が受け止めたお陰で自爆(じばく)の火傷だけで済んだのだ。多少の無礼は見逃してやる」


「……悪かったな、ベレスを止めようとしたばっかりに怪我させちまって」


「怪我をさせた? 図に乗るなよアルム」


 謝罪をしたにもかかわらず、セロブロは先程よりも鋭い目つきで睨みつける。


「僕は僕の意思で目の前の生意気な野郎を燃やそうとして魔法を放ち、そして返り討ちに合ったんだ。それを自分のせいだと? 馬鹿も休み休み言うことだな」


「セロブロ……」


 自尊心が高いセロブロが自身の様子を客観的に言えることが意外だった。


「逆に後悔することだ。貴様が助けたせいで明日(あす)明後日(あさって)魔撃墜ホープ・シューティングの出場を許してしまい、この僕に敗北するのだからな!」


 そして普段通りの自信に満ちた表情でセロブロは言い放った。


「……安心したよ、ベレスに返り討ちに合って自信を無くしているのかと思っていたから」


「あの男が強いことはずっと前から知っている。あのとき手を出したのは己との実力差がどれ程なのか興味が湧いただけだから、な……」


 言い詰まった彼は静かに天井を見上げると呆れた様子で失笑(しっしょう)する。


「……どうした?」


「――――いや、この僕がそんな事を言うとは思っていなくてな……」


 自分らしくない発言に戸惑っている様子だ。


「今まであのような態度を取れていたのは家柄、そして実力が高いと自負していたからだ。だがテイバンやベレス、貴様のような強い奴が身近に実在することを知っていたから関わらないよう見て見ぬふりをしてきた。自分の弱さ、脆弱(ぜいじゃく)さを目の当たりにしたくなかったからな」


 セロブロは心の内を独白するように語り始め、俺は黙って聞いていた。


「……しかし魔物討伐試験の日、貴様に完敗した時から不覚にも僕は変えられてしまった」


 そう言って天井を見上げていたセロブロはこちらを真っ直ぐに見据える。


「強さに固執(こしつ)していなかった僕が魔法力を向上させようと努力し、関わりたくもなかった貴様やテイバンとも話すようになった……」


 俺を見据えていた目が泳ぎ始め、彼がつぎに発する内容を察した。


「断じて認めたくはないが、そうした変化も悪くないと思っている。だから、その……あの日僕を負かしてくれた事は感謝している」


「……ばぁか、そっちこそ図に乗るんじゃねェよ。俺はお前のために相手をしたんじゃない、ラビスを守るために相手してやったんだよ」


「分かっているっ! ただ僕に貸しがあることを忘れるなと言いたかっただけだ!」 


「貸しって、別に気にする事じゃないけどな。だったら明日の大会で俺と当たった時は勝ちを譲ってくれよ。今日の成績じゃ少し心許(こころもと)ないんでね」


「それは無理な相談だ、借りは返すと言ったが貴様にリベンジすることが最優先。僕と当たったら正々堂々勝負しろ!」


 セロブロは勢い良く立ち上がり、力強く俺を指差す。


「ああ、望むところだ」


 俺は黒玉の件を念頭に置きつつ、明日の大会も期待に胸に膨らませた。


 ***


 同時刻、ベルモンド王国の王城の一室――――。


「今日の散々な結果はどういう事だ! 貴殿の教育が手緩いのではないか!」


 酒の匂いを漂わせながらバリウスは自国の理事長を叱責(しっせき)した。


「申し訳ありません……! まさか竜種が現れて競技が中断されようとは予想しておらず――――」


「言い訳など聞きたくないぞ! エンドリアスの連中に上位を独占されおって、明日から始まる魔撃墜ホープ・シューティングで巻き返せるのだろうな!」


「ははっ! 勿論でございます!」


 理事長は確信が持てずともバリウスの機嫌を損ねないため、肯定し続ける他なかった。


「まあまあ王様、その辺で勘弁してやれよ」


 重々しい雰囲気の中、扉を開けてベレスが介入する。


「ベレス殿、何用ですぞ?」


「実は理事長にお願いがあってね」


「お、お願いって何かな? ベレス君……」


 良い予感が持てなかった理事長は震えた声でベレスに向き合った。


「なぁに簡単なことさ、俺を――――」


 ベレスは軽快な口調で理事長に要求を告げ、魔導大会一日目が幕を閉じた。

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