転生…した? 1
ここは私達の住む日本によく似た別次元の日本。
強いて言うならモンスターや魔法のある、RPGを追加したような世界。
初めは気づかなかった。
高層ビル、電車、車、そしてたくさんの人…。
よく見る光景、いつもの光景。
今日は休日。
たくさんの人で賑わう町。
私は平日仕事を頑張った自分へのご褒美に、大好きなアイドルのNEWアルバムを買いに来ていた。
都心部だからか煌びやかな服の人、コスプレのような格好をしている人、路上で変わったものを売る人、とにかくいろんな人がいた。
(流石に都会は変わった人もいるなぁ。)
そんなことを考えながら道を歩く。
普段はあまり家から出ず、外出も最低限なことが多い私は今日どうしてもここに来なければならない用事があった。
なんと私の欲しいNEWアルバムが店頭で買うとランダムでサイン入りの写真が特典として貰えるらしい。
普段ならネット注文をするところだがサイン入りの写真となっては私も外へ出るしかない。
もう少し先に十字路があって、右に曲がるとお目当ての店だ。
大きな液晶画面にCMのようなものが映る。
【ギルド加入者募集!】
(新しいゲームの宣伝かな?)
ゲームは好きだ。
辛いことも嫌なことも全部忘れて没頭できるから。
特にバトル系はストレス解消にもなるから頻繁にやっている。
(帰ったら見てみよう。)
帰ったらまた一つ楽しみができたことに胸を高鳴らせながら目的地へと向かう。
十字路に差し掛かり右へと曲がるとあるはずの店がない。
店どころかその先に進める道もなく、そこにあるのは大きく“冒険者ギルド”と書かれた文字だった。
道を間違えたのかとスマホを確認しようとするも圏外の文字。
(圏外…?都心部なのに…?)
スマホを再起動しても直らず途方に暮れる。
このままでは特典が貰えないかもしれない。
私は腹を括って通行人に声をかけることにした。
「あの、すみません。少しお尋ねしたいのですが…。」
黒いパーカーのフードを深く被り黒いジーンズにスニーカー。
マスクと伸びた前髪で顔がよく見えないその人は、人々が様々な格好をしている中で自分は目立ちたくないとでもいうような格好をしている男性に声をかけた。
「…はい、なんでしょうか?」
その人は酷く驚いた顔をして返事をしてくれた。
少し脅えたような顔をして、私を見る。
「CDショップへ行きたいのですが道に迷ってしまって…なぜかスマホが圏外なんです。」
そう言って自分のスマホを見せるとその人はまじまじと見ながら呟いた。
「CDショップ?それにスマホ?申し訳ありませんが何を言っているのかわかりません。」
そう言うと男性は困った顔をして私を見る。
「え?CDショップもスマホも見たことがない…?」
もしかしたら私は声をかける相手を間違えてしまったのかもしれない。
ほんの少し後悔した時、また男性は口を開いた。
「ごめんなさい、よくわかりませんが道案内でしたらできますよ。」
「え、本当ですか?ありがとうございます!」
先程疑ったことを申し訳なく思いながらありがたくお願いすることにした。
こんなに親切な人もこの世の中にいるのだと少し感動したが、男性が腕につけたブレスレットに触れた瞬間、私は僅かに動揺した。
「え、それ…どういう仕掛けですか…?」
立体映像で出てきた地図、明らかに私のよく知る文明ではない。
まさか自分が仕事と推し活に励んでいるあいだに時代はここまで進化したのか?それともからかわれているのだろうか?
謎は深まるばかりだがとにかく今は先を急ぐため行きたいCDショップについての情報を伝え調べてもらう。
「ごめんなさい、その、CDショップというものはないみたいだ。」
「え?CDショップがない?」
確かに最近はスマホでできることが多く、CDやDVDは観ない人が多いのかもしれない。
しかしCDやDVDにもメリットはあるし、とても古い作品はむしろスマホでは観れない場合も多いのだ。
それなのにショップすらないことなどあるのだろうか?それとも今いる場所の近くにはないだけだろうか。不安が募る。
「他のお店なら売っているかもしれません。CDとは具体的にどういったものですか?」
男性からの質問に疑問が確信になる。
「あの…失礼ですがCDを知らないのですか?ドーナツのような円形の音楽を聞ける板のようなものなのですが…。」
説明が下手なのは重々承知だ。
しかし産まれてから一度も見た事がないなんてことがあるのだろうか?
「音楽を丸い板で聞くのですか?先程のスマホといい、不思議な方ですね。」
男性は驚いたような、新しいおもちゃを見つけたような、そんな笑い方をした。
続けて音楽は全てブレスレットで聴くことができるし、映像を観るのもブレスレットで映し出せるとの事だった。
スマホによく似ているが全くの別物のようで、頭が混乱しそうになる。
その時、遠くから爆発のような音と共に叫び声が聞こえた。
「危ない!!!!みんな避けて!!!!」
声のする方を向くと何かが飛んでくるのが見えた。
人間でいう7歳くらいの大きさのナニカ。
半透明で、淡い水色をしている丸い球体のようなものが飛んでくる。
驚いてその場で動けずにいると先程の男性に手を引かれて抱きとめられた。
「怪我したいのか!?」
物凄く焦ったような声で私を抱きしめる男性。
先程まで自分がいた場所に目をやるとゼリーのようなものがうごめいている。
「あ、あれは…?」
何が起きたのかまるで理解できず震えながら男性に聞く。
「スライムも知らないのか?」
男性が呆れたように教えてくれた。
「スライムの中に閉じ込められてしまったら息ができずやがて消化されて溶けていくんだ。人を取り込んだスライムを直接攻撃してしまうと中の人も影響を受けてしまうからFランク以上の冒険者じゃないと救出できないんだ。」
その説明を聞いて混乱する頭の中ですっと霧が晴れたようにある一つの言葉が浮かんだ。
「ここは一体どこですか?」