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気づいたらモフモフの国の聖女でした〜オタク聖女は自らの死の真相を解き明かす〜  作者: 平本りこ
第三章

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7 まさか不義?


「……だめ、眠れない」


 ベッドに入ってからもう、どれくらいの時間が過ぎただろうか。夜が更けても一睡もできないまま、何度も寝返えりを打った末、私はむくりと上体を起こして呻いた。


「急用って何なのよ」


 怪しい。怪しすぎる。


 自然に考えれば、今朝の出来事に関係することなのだろう。だが、あの事件は城内で起こったこと。わざわざ街に出る必要があるのはなぜなのか。


 私はベッドから出て窓辺へ向かい、水差しからコップに水を注ぐ。カーテンの隙間から外を見れば、城下はほとんど闇に覆われていて、酒場など夜のお店に灯る聖力灯せいりょくとうの白っぽい光だけが、ぼんやりと浮かんでいた。


 夜明けはまだ遠い。けれど民家は寝静まった時刻であり、デュヘルもさすがに帰って来ている頃合いだろう。まさか魔王が酒場で夜遊びなんてしないだろうし。


 私は「よし」と気合を入れて、自室を出る。薄暗い廊下へ一歩踏み出すと、ひんやりとした夜気が肌を刺す。


 私はガウンの襟を掻き合わせ、足音を忍ばせながらデュヘルの部屋へと向かった。


 私室の重厚な扉が見える角に来ると、近衛兵が直立しているのに気づく。魔王の部屋なのだから、警備の一人や二人いて当然だ。それなのに、私は柄にもなく狼狽うろたえる。こんな真夜中にデュヘルの部屋を訪れるなんて、妙な噂になったらどうしよう。


 いやいや、今はそれどころではない。私は意識して堂々とした足取りを作り、角を曲がって部屋の前へと進み出た。


「こんばんは。デュヘル様はもう休んでいる?」


 突然現れた聖女に驚いたらしく、近衛兵は目を丸くしたものの、すぐに取り繕って姿勢を正す。


「これはリザエラ様。このようなお時間にお一人で、危険ですよ。事件が起こったばかりなのですから」

「ごめんなさい、あなたを困らせるつもりはないのだけれど、今すぐデュヘル様に用事があって」

「用事、ですか。しかし」

「ここまで来てしまったのだから、良いでしょう。来た道を戻る途中で、私が誰かに花瓶でも投げつけられたらどうするの」


 近衛兵の顔が歪む。本来ならば安全なはずの魔王城だが、ここ数日で、状況は大きく変わってしまった。


 後ろから鈍器で殴られて命を落とす危険がないとも言い切れない。ずるいことを言っている自覚はあるのだが、こうでもしないと問答無用で部屋へ帰されてしまいそうだった。


 制止の声が止んだことを確認し、私は扉をノックする。


「デュヘル様、私です。リザエラです」


 反応はない。再度コンコンと拳を打ち付けてから、もう一段声を高くしてみる。


「デュヘル様、デュヘル様?」

「リザエラ様」


 隣から、控えめな声が聞こえた。近衛兵が気まずそうな顔でこちらを見下ろしていた。


「大変申し上げにくいのですが、デュヘル様は今、こちらにはいらっしゃいません」

「え?」


 言葉を失う私に、とっても歯切れの悪い言葉が降り注ぐ。


「ですからその、デュヘル様はご不在で」

「どこにいるの?」

「さあ、存じ上げませんが……夕方に街へ下りられてから、一度もお戻りではありません」


 不穏な事件があったばかりなのに、デュヘルの居場所がわからない。全身から血の気が引いたが、目の前で佇むケモ耳近衛兵さんは妙に落ちついている。城主が帰って来ないというのになぜ。……もしや。


「デュヘル様は普段からこうして、夜になっても帰らないことがあるの?」

「いえ、その」

「遠慮しないではっきり言って」


 近衛兵はいかつい顔に困惑を張り付かせている。やがて、ほんの少しも引く気配がない私の視線に根負けしたのか、頬を掻きながら答えた。


「はい、実は時々、そのような晩も。ですが」


 彼は視線を彷徨さまよわせながら、しどろもどろに弁解する。


「決して、リザエラ様にお伝えできないような場所には出向かれていません」

「でも、どこにいるか知らないのでしょう?」

「うっ、それはそうですが」


 私はデュヘルの妻だけれど、別に愛がある訳ではない。だから彼が夜な夜な愛人と逢引きしていても、いかがわしいお店に足繫く通っていても気にする必要ないはずなのに、なぜだか沸々と怒りが込み上げて来た。


 あの色男、毎日私にお砂糖を浴びせかけておいて、他の女と?


 夫婦とはいえ、それらしいスキンシップはないし、デュヘルも多分健全な成人男性なのだから、そういう欲を発散する場所が必要なのかもしれない。妻らしくできない私に非があるとも言える。


 それでもなぜか、胸いっぱいに屈辱感が広がった。


 デュヘルのゲロ甘な眼差し、時には家族のために怒りを露わにする険しい顔、不意に飛び出す生真面目な声。彼の全てがまるで走馬灯のように脳裏を過り、胸がぎゅっと苦しくなる。これはいったい何事……いや、今はそんなのどうだって良い。


「別に気にしていないわ。もう部屋へ帰ります」

「あ、リザエラ様、お送りします」

「結構よ」


 思ったよりも冷たい声が出てしまった。


 そのおかげなのか、近衛兵がついて来る気配はない。夫の不義に嫉妬を隠せない感情的な妻だと思われたかもしれない。不本意極まりないが、それならそれで好都合だ。

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