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気づいたらモフモフの国の聖女でした〜オタク聖女は自らの死の真相を解き明かす〜  作者: 平本りこ
第一章

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12 憶測は不安を呼んでいる

 私は大股で侯爵と距離を詰め、彼の鼻先まで顔を寄せて言った。


「ナーリスはおうよ。デュヘル様と私が神樹に祈って生まれた、正真正銘の皇!」


 あまりにも静かなので、私の声は広間中に反響してしまう。少し間を空けてから、嫌悪を含んだ囁き声が広がった。


「品行方正で理想的な聖女だったリザエラ様があんなに声を荒げるなんて」「やっぱり気がおかしくなってしまったのだわ」「お淑やかな方だったのに」「やっぱり別人? だって、この前国葬をしたじゃない」「そうよ。棺桶の中で青白い顔をしているのを見たわ」「まさかゾンビ!」「いやいや、幼少期から聖女として担がれてきたのに、肝心の皇があれじゃあ気が狂うのも仕方がないさ」


「ああ、諸君」


 場の空気を味方につけた侯爵が、大仰に両手を広げて階下へ声を張る。


「リザエラ様のご気分を害してしまったのはこの私の非。どうか静粛に」


 あまりにもわざとらしい仕草に、一発殴ってやりたい気分になるが、所詮リサもリザエラも腕っぷしには自信がない。私はただ、無言で侯爵を睨む。


「ですが諸君らの不安もごもっとも。……ナーリス様、この際無礼を承知で申し上げますが、これまで一度も人型をお見せ下さらないので、心無い噂が飛び交っておりますぞ。まさか皇殿下は、人型になることが出来ない只人ただびとなのではないかと」


 囁きが一段落した頃合いで発せられた侯爵の追撃に、ひやり、と背中に汗が流れる。私の表情を見て何かを悟ったのか、彼はいっそう笑みを深めた。


「もし……本当にそうであるならば、口にするのもおぞましいですが、皇を廃し、別の方に魔王と聖人となっていただいて、全てを仕切り直さねば」


 それが、あえてこの場で私達を侮辱する目的なのだろう。きっと自分に都合の良い立場の人間を、次の魔王と聖人として擁立したいのだ。


 私の鋭い視線には全く引かず、侯爵は続ける。


「もしかすると、ここ数年世界に蔓延はびこる災害は、ナーリス様が不完全ゆえに、魔と聖の均衡が乱れて」


「侯爵殿。これ以上の侮辱は聞くに堪えん」


 低い、地鳴りのような声が発せられた。出どころに目を向ける。驚くべきことに、この恐ろしい声を吐いたのは、いつもは柔らかな笑みを絶やさないデュヘルだった。


 家族を愛する温厚な男だと思っていたのだが、そういえば彼は魔王。最も優れた魔術の使い手であり、全魔族の頂点に立つ覇者。


 デュヘルの身体から、ぴりぴりと黒い静電気状の靄が滲み出ている。抑えきれない強烈な魔力の奔流だ。誰が見ても明らかなことに、デュヘルは今、激怒している。


「へ、陛下」


 侯爵の顔が引き攣る。ナーリスも目を丸くして父を見上げ、かく言う私も先ほどの威勢はどこへやら。ただ言葉を失いデュヘルを見つめる。


「そなたらは我が民である。私には無論、臣民を守り慈しみ、世界の安寧を維持する責務がある。我が治世において、不安を蔓延させてしまっていることは実に不甲斐ない。しかしそれと同時に、ナーリスとリザエラは我が家族。憶測で彼らを傷つけることは断じて許さない。発言を撤回されよ」


 侯爵は顔を青くしたものの、挑戦的な表情は崩さない。デュヘルの全身を覆っていた魔力がいっそう昂る。やがてそれらは広間を闇色で包み込み、窓や扉など、魔力が込められた全ての物へと影響を及ぼした。


 辺りに、小さな悲鳴が響く。ぱりん、とどこかで窓が割れた音がした。


 デュヘルが声を荒げた直後は正直清々した気分になった私だけれど、段々と恐ろしくなってきて、手を伸ばしデュヘルの腕に触れた。


「あの、デュヘル様。このままだと広間が……」


 しかし杞憂だ。部屋中を満たしていた高密度の魔力は不意に霧散して、一時は消えかけた聖力灯が光を取り戻す。辺りはしんと静まり返った。


 最初は、デュヘルの怒りが収まったのかと思った。しかし相変らず彼は憤怒の形相で、やがて私は気づく。デュヘルは魔力を制御したのではない。力尽きたのだ。この世界にやって来て日が浅い私でも気づいたほどなのだから、招待客にわからないはずがない。


 やがて、呆気に取られていた侯爵が我に返り、乾いた笑い声を上げた。


「陛下、何とおいたわしい。以前はあれだけ猛々しい魔術をお使いになられたというのに、まさか魔力が枯渇してしまうとは。いやいや仕方ありませんな。陛下方の魔力の大半が、神樹に捧げられているのですから、お姿を保つことが出来るだけで我々のような者どもとは一線を画す。しかしそれならばなおのこと、その化身とも言うべきナーリス様にはご立派な皇になってもらわねば」


 デュヘルがぐっと奥歯を噛み締めた。あまりの屈辱に、全身から怒気が滲んでいる。だが、それだけだ。先ほどのような魔力のみなぎりはなく、ただ力の限り……睨んでいる。

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