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気づいたらモフモフの国の聖女でした〜オタク聖女は自らの死の真相を解き明かす〜  作者: 平本りこ
第一章

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11 悪意に立ち向かえ

おう、ねぇ……」


 くすり、とどこかで笑い声が漏れた。デュヘルは声の出どころを軽く睨んだだけで、ひらりと手を振り歓談を促す。魔王の許可を得て、広間には徐々に喧騒が戻って来た。私は少し力を抜いて、デュヘルの横顔を見る。彼は力強く微笑みを返してくれた。


「デュヘル様、これはいったい」

「気にしなくて良い。少ししたら君とナーリスは退席すると良いよ」

「でも」


 それではデュヘルが一人で矢面に立つことになる。


 気を揉む私を安心させようとして、彼はいっそう笑みを深めてから、妻の腕を優しく撫でた。


「私にとって一番大切なのは、リザエラとナーリスだ。君達を守るためならば、どんな荒波に揉まれても溺れやしない。木から落ちても死なないし、腐ったミルクを飲んでも腹を下さない」

「デュヘル様」


 ちょっと何を言っているのかわからないのだが、彼が妻子のために身体を張ってくれていることは感じ取れる。 


 思わず涙ぐむ私。優しく見つめ返すデュヘル。


 ……おかしい。たしかに彼はイケメンだけれど、ときめきを抱いたことなんてほとんどなかったのに、私の胸は割れんばかりに早鐘を打つ。なぜなのリザエラ?


 ナーリスが、何やらぶわっと毛を逆立てて、目をぱちくりさせる気配がした。


 デュヘルと私は、息子のことを視界の端に入れたまま熱く見つめ合い、そして。


「陛下」


 こほん、とわざとらしい咳払いに邪魔された。何よと思い、視線を遣れば、真顔でも眠たそうな細い目をした紳士が私達の前で慇懃な礼をとっている。頭部には、先端がカールした太い角。多分山羊だろう。彼は、深々と折っていた腰を伸ばし、媚っへつらしい顔をしながら手を揉んだ。


「両陛下、皇殿下、ご機嫌麗しゅう」


 ご機嫌麗しゅうはずないでしょうよと思ったが、ぐっと堪えて作り笑顔を浮かべる。デュヘルの方も、柔和な表情で紳士に目礼をした。


「どうも、リーチ侯爵殿。誕生祭は楽しんでくれているかね」


 デュヘルが訊けば侯爵は笑みを深め、大袈裟な仕草で肯定する。


「ええ、それはもう心から」

「それは何より。どうか引き続き、飲食を楽しんでくれ」


 言外に、早く戻れと告げるデュヘルだが、侯爵は私達の前から離れない。様子がおかしいと思った時には、もう手遅れだった。彼はナーリスへわざとらしい笑みを見せて言う。


「ところでナーリス様。そろそろ我々に、神々しい純然なる人間のお姿をお見せいただいてもよろしいではないですか」


 私は絶句し、ナーリスも石像の様に硬直している。私達が動かないのを良いことに、侯爵の嫌味は加速する。


「いやいや、皇の皇たるお姿を両陛下お二人だけのものにされたいお気持ちはわかります。引き合いに出すのも烏滸おこがましいことですが、私も我が娘の一番愛らしい姿は妻と二人占めしたいものですからね。ですがナーリス様は全魔族と聖族の皇。全ての民衆がそのお姿を一目拝見したいと切望しております」


 デュヘルが、ぐっと拳を握り締めたのが視界の端に映る。まだ何も言わない。侯爵に話しかけられたのはナーリスであり、彼の返答を待たずして親が横からしゃしゃり出たのでは、侮られかねない。


 けれど可哀想なナーリスは、怯え切り言葉も出ないらしい。侯爵は嘲りに歪んだ唇を開いて続ける。


「ご立派なご両親の御子ですからね。当然ナーリス様もそれはそれは麗しいお姿なのでしょう」


 その言葉を耳にした瞬間、身体中の血液が凍り付いたかのような感覚を覚えた。侯爵の言葉に触発されて、かつてリサの目に映った、ネット掲示板に並ぶ非道な文字らが浮かび上がる。


 ――有名俳優の子っていいなあ。どんだけ美人なんだろ。

 ――蒲原かんばら夫妻の娘? 同中おなちゅうだったけど、普通の地味な女。しかもオタクだよ。卒アル貼っとく。

 ――何これウケる。美形遺伝子どこ行ったwwww


 蒲原リサの両親は有名俳優だ。それなのに私は美人ではないし、頭も良くないし運動も苦手。


 エゴサをすれば、リサと両親を比較するような誹謗中傷がわらわらとヒットする。


 ナーリスには皇としての役目があり、リサとは比べものにならないほどの責務がある。それはリサとは異なる点。けれど、親がどうのと言われて身体を縮こまらせるナーリスの姿はリサと重なって、これ以上は見ていられない。


 氷になった血液は徐々に溶け、温度を増して沸騰し、怒りとなり身体中を駆け巡る。


「ねえ、ナーリス様。皇ならば、我々のような醜い獣の証などない、美しい人間としての姿を取ることは簡単なことのはず。どうされたのですか、これではまるで」


 ドゴン、と重たい打撃音が広間に響き、人々の好奇の囁き声がぴたりと止んだ。


 いったい何の音かと思ったら、その出どころは私の右手。どうやら無意識に拳を握り、肘掛を殴っていたようだ。しかも、気づいたら立ち上がっていた。


 驚きに頬を引き攣らせたリーチ侯爵を睨み付ける。部屋中の目が、私に向いている。頬にはデュヘルとナーリスの視線が突き刺さっている。ええい、こうなったら腹を決めるしかない。

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