わたしは先生に導かれたい 中編
レイラさんはにっこり笑ってアルス先生の話を続けた。わたしはコレを待っていたのだ。ついにあの謎に包まれた魔術の発動方法が今明かされる。そう思うとわたしは自然と体を前にかたむけていた。
「まず、師匠の魔術の発動方法は三段階あるのはあなたの観測通りあってます!じゃああれはなんなのか気になりますよね?実はあれ、親指で魔術を探しているんです。」
「親指で探す……?」
親指で探すなどと言われて頭に思い浮かんだのは、アルス先生が何の魔術を使うか迷っている場面。考えている最中ということかと考えた。
「師匠の魔術はちょっとばかし特殊で、親指を立てる動作で師匠の中に眠る全知の書から使いたい魔術を検索するんです。」
「...ふへ!?」
今なんと...!?全知の書!?そんなものがこの世に?なんて一瞬考えたのだが、よく考えてみればこの世に覇王なんていう人知を超えたふざけたモノが実在してしまっている以上、この世にはこういったものがあふれかえっているのだと自分を納得させた。
「で、では次に人差し指を立ててましたがこれはいったい?」
「師匠はそのことを定義と呼んでいます。要は魔術が見つかったと言うことです。最後は言わずもがな、実行。その名の通り魔術を発動します。もちろん行使できない魔術は存在せず、あなたが求めているであろう魔術の継承のための魔術も、当然ながら発動可能です。」
「....っ」
やはりそうだったのかと私は納得した。本舎の生徒のを遥かに超えた異常なまでの魔術の習得度。普通なら魔術が使えないであろう魔力量の子供たちがそれぞれの魔力量に完全に応じた魔術。あのレベルの魔術の習得カリキュラムを組める実力。すべての謎がほどけたと同時に私はどこか安心した。
「そのお顔、当たりのようですね!これで大方は説明できたでしょうか。」
「はい!すっきりしました!...あ、でも発動するための魔力はいったいどこから...?」
そんなおとぎ話のようなものがあってたまるかと一筋の願いを賭け、彼女に問う。
「もうお察しかもしれませんが、師匠の扱うすべての魔術は代償として魔力は用いません。流石はアルフの遺物です、何も消費しないんです。」
不意に誰かが土砂降りの雨の中で膝をつき、藻掻き、叫ぶような描写が頭に浮かぶ。代償すら必要とさせないということに創成神アルフの本気度が容易に伺える。『こんな世界は間違っている』と死にかけながら願うような人が存在することが余程気に食わなかったのだろう。
「そういうわけで、師匠の教えを乞う方法なんだけど、一番手っ取り早いのは私から言っちゃうことなんだけど......あはは、やっぱりそれは嫌だよね。」
いけない、つい顔に出てしまっていた。でも嫌なことは事実。私自身の力じゃなくてここまで来て他人任せにするのは面白くない。
「で、では、まずは素直に教えを乞ってみましょう!たぶん貴女の性格上あまり師匠に直接的にお願いできてなさそうですし!」
「う...」
何も言えない。だってそうだから。貴族として生きてきてしまったせいで空気が読めすぎてしまうのだ。行動を起こす前に頭ごなしに自分のそれを否定する。悪い癖だ。よく考えてみればこれを突破しなければまず話すことすらできないじゃないか。
私は今まで自分がしてきたことがほぼ無駄であったことにようやく気付き顔が赤くなる。これではただのストーカー行為であったと。
「では私からのアドバイスは以上です!あとあとえっと、また貴女とお話がしたいので、進捗があり次第お手紙くださいね!」
「はい!ありがとうございます!」
自分一人だけの悩みが打ち明けられたことで心のどこかで詰まっていた灰汁が取り除かれた気がするんだ。大丈夫、もう前を向ける。今度はちゃんと地面に足をつけて歩いてカフェを後にした。
「さて、もう出てきていいですよ。フィアットちゃん?」
「あはは、やっぱりレイラさんにはバレちゃいますか...自分でも結構うまく幻術を使えてたと思ってたんですが....」
さきほど彼女らの座っていた隣の席にいた客。....に幻術を用いて身を偽装していたフィアットを見てレイラはやれやれとでも言うようにため息をついた。
「は、話はもう聞かれちゃってたかな...?」
「申し訳ないです。幻術で全部聞こえちゃってました。...で、私は何をすればいいんですか?」
「わ、わぁ、呑み込みが早いね。じゃあ貴女には今日から1か月の間だけ転校してもらいます!」
転校というワードが出たとき、フィアットは飲んでいた紅茶を吹きこぼしてしまった。
「ゲッホゲッホ、ちょっと待ってレイラさん!?わたしにあの子の学校に行けと!?陰からのサポート要員じゃなくて!?」
「ちなみに実はハスト君からもオッケー貰っちゃってます!『楽しんで来い、俺はこのバカンスを楽しむから』だそうです!」
「あんのクソガキ...!!」
「あはは、それとこれ。『困ったたらそのペンダントを砕け。』だそうです。」
そして彼女はどこからかきれいに折りたたまれた制服とペンダントを取り出して差し出す。ペンダントはライトブルーの鉱石と上品に金で刻まれた文字の装飾に意匠を感じる。とても砕きたいとは思えないほど美しく綺麗だ。
「あとこれ、彼女の通う学校の制服です!あなたはSクラスというめちゃくちゃデキる子たちのいるクラスに通いますので、頑張ってうまい具合に生きてください!....えと、これがハスト様に言えと言われたことです...」
「ちょ、まっ....へっ....!?わたしの扱い雑過ぎませんかぁぁぁ!?あのクソガキィィ...!!!!」
フィアットの叫び声は虚しくも防音魔法で搔き消えていた。
今日は待ちに待ったハブられ分館に赴く日。週に1度のチャンスをものにできるかが今の私の鍵となる。アドバイスは貰った。あとは自分の気持ちを真っ向からぶつけ続けるだけ。その思いを胸に私はこの自然豊かな土地を踏みしめる。
「よぉーっ!わが校が誇るこの国の未来を託された、優秀なお貴族サマがた!今週もよくいらっしゃった!!ちょっと今日は何とこのクラスに転入生がやってきたぞ!遠くからご足労様ぁ!入っていいぞ!」
「ご紹介にあずかりました。本日より皆様とご一緒に学ばせていただきます。フィアット・セルジーネと申します。どうぞ、よろしくお願いいたします。」
教室に拍手が巻き起こる。見て取れる透き通った少し薄く蒼い髪に整った容姿。そして極めつけは明らかに他者と異なる魔力の気配。誰もが彼女が化け物であると理解できているわけではない。このクラスでも数人程度しか認知できていないようだった。しかし先生の方を見るとどこも動揺している様子は感じ取れない。
「んーっと席は....お、フォルト嬢と目が合っちまったからフォルト嬢の隣で!」
「ほへっ!?」
「よろしくお願いしますね!」
急な名指しに驚き声が出てしまう。わたしは申し訳程度の笑顔を取り繕う。セルジーネさんも微笑んでくれてるしセーフであろうと思う。そう思いたい。
「あぁ、わたしニーア・フォルトといいます。えと、セルジーネさんはどうしてこの学校へ?」
「フィアットでいいですよ!そうですね、私はここへ魔術を学びにきました。親が魔術を習いに来るのであればこの学園が最適だろうと。」
「えと、フィアットさんは転校生ですよね?どうして今の時期に?」
「...実は私昔にこの容姿のせいでいじめられてしまい...しばらく学園へ通うことができなくて...」
私はそれは災難だったと頷いた。だいたい察した。出る杭は叩かれる。その文化はどこであろうと必ず存在するのだと。それと同時に私は心のどこかで彼女を守らなくてはならないという声が聞こえた。
「それはつらかったですね..この学園はそういった話はなかなか聞かないので楽しく過ごせると思いますよ!私で良かったらぜひとも友達になりましょう!」
「ありがとうごいざいますっ!」
私たちが仲良ししているとアルス先生は「あー、」と話を再開する。
「あと2週間後に申し訳ねぇけど一応試験があるから....とはいってもめっちゃ簡単で、皆でこの校舎の裏にあるダンジョンの最下層に置いてあるフラッグを取ってくるってだけのヤツな!」
そう言い切ると生徒たちは「そういえばそんなシーズンだったね」とがやがやし始める。
「そんじゃあ今日も自習で!!」
私に残された時間は2週間。思い立ったが今行動を始めるしかない。そう席を立とうとした瞬間爆弾は落とされた。
「私、じつは魔術がとっても好きで...よかったら実力の確かめ合いとしてお手合わせしていただきたいのですが...ニーアさん、いかがでしょう?」
「ほへっ!?....わ、わたしですか!?....あぁびっくりしちゃってごめんなさい!全く構わないです!むしろお願いしたいくらいです!」
周囲を見渡せば私を見る視線が多い。そう感じて瞬時に断ることはできないと判断したわたしは思っていないことを口走ってしまう。口に出してしまったものは取り消せないということを念頭にどうにかしてアルス先生を巻き込む方法を思索する。...っ!
「えーと、その私たちの手合わせをする際にあたって、審判役が欲しいのですが、どなたか...」
「先生、アルス先生っ!見届け役をお願いしますっ!」
「んぉ、俺ぇ!?....まぁ可愛い生徒に変わりはないしな!あぁ、ほかの生徒が審判やりたいってヤツはいないか~?」
『引けない、引いて堪るか』と心のどこかで自分が叫ぶここでほかの生徒に指名されてはすべてが狂ってしまう。私は緊張でかすれそうなまま声を上げる。
「....ッ先生っ!私はアルス先生に見てもらいたいんです!」
「....ッ!!.....おぉう、分かったぞ!」
ありがとうございます!と頭を下げる。そのとき私は先生が一瞬動揺したのを見逃さなかった。そしてフィアットさんが心なしか微笑んでいるように感じた。時間はいつもアルス先生が教えている初等部たちの子との授業と同時にしてもらった。自分たちの目標となる魔術師をまじかで見てもらう。その方が初等部の子たちにもいい影響を与えることができるそうだ。
「さて、と。」
これでいいのかしらと私は息を吐く。この学園の分校とは言え、広大な敷地に大きな校舎。場所が場所なだけもあって人は多くはない。当然誰もいないフロアなんてざらにある。私は廊下で壁に寄っかかった。本当に彼女はカフェにいたときに比べ、大きく変わったように見えた。彼女は私が出した助け舟に乗るのではなく大きな船を自分で用意して見せた。
「ほんと、どこかの『覇王』様みたいね。」
窓から光が差し込むその廊下にはコツコツと歩む足音だけが鳴り響いていた。
時間は進み、約束の時間がやってきた。私は昼の日差しが照り付けるグラウンドに足を運ぶ。強い日差しに慣れて前を向くとたくさんの生徒たちに囲まれるアルス先生と楽しそうに初等部の子たちとお話しているフィアットさんが目に映った。
「はあっ、はぁっ...!!待たせちゃってごめんなさい!」
「いえいえ全然。むしろ初等部の子たちと交流できましたから!...それではアルス先生?宜しくお願いしますね!」
「おー、わーった!というわけでお前ら!今日はなんと高等部のお姉ちゃんたちがすっげぇ魔術を使ってくれるらしいからよぉーく見て、学ぶんだぞ!お前たちもいづれああなるんだからな!」
「すっげーお姉ちゃん!?」
「かっこいい魔術ある!?」
アルス先生は目を輝かせる子供たちをあやしながら安全な位置に移動させ、審判としての位置についた。
「ルールは高等部生かつ一番上のクラスだから1つだけ。...死なない程度に魔術を使用すること。もし命を奪うような魔術を行使した場合は失格だ。いいな?」
「「はい!」」
「....両者構えよ!......始めッ!!」
アルス先生の合図とともに私は陣を描く....が
「第23階梯scorching thunder...!!」
「...ッ!!」
私は危機を感知してとっさに横に飛ぶ。制服のコートの端が焦げて飛んでしまっている。早い...早すぎる。クイックスペルへの対処法は教科書でたくさん学んだ。そう考えている間にも彼女は攻撃をやめない。...私は思い立ったように今までとは逆に逃げるのではなく前へ駆け出す。
「そうくるならッ!...わたしにも策がありますッ!!!ダブルスペルッ!!」
「ッ!?」
「凍れッ!!アイシクルネイルッ!...」
ただのアイシクルネイルは細く鋭い氷のダーツを放つ技だが、彼女のは違う。刺さった氷のダーツがそれぞれ地面を凍らせ、足場が悪くなったフィアットの体勢は崩れる。そこを狙うようにもう一つの魔法がフィアットを襲う。
「これで決めますッ!ウインドカッターッ!」
風の刃を生成する際に魔力にブレがあり、余剰にあふれた魔力が周囲の砂を舞わせる。私は「どうだ」とでも言うように舞う砂塵を凝視する。...が。
「....惜しかったですね。それは私の幻体です。」
「...ッ!」
私はとっさに魔術師の近接武器である指に魔力をまとわせて簡易的なナイフに変える魔術で背後にいる彼女を切りつけながらバックステップを決める。が、しかし切った感触はない。
その時ちらっと見えたアルス先生の表情は驚愕の色に染まっていた。
「....シャフトチェンジ...」
切っても、魔術を彼女に向けて放っているはずなのにひと掠りもしない。当たってもその幻影は砕けて消える。砂塵の中私はひたすらに魔術を放つ。
「ダブルスペルッ!フリーズアウト!....っ何でなの!?」
だめだ。きりがない。
そして私は目の前で何が起こっていいるのかわからない状況に陥る。
「...ッ!なんで...目の前に私がいるの....!?」
思考が止まる。よく見れば私の体は何故かズタボロになっている。今私は目の前にいる自分の右腕に魔術を放った。そして見るとどうだ、自分の右腕が傷ついている。必死にエネルギーを求めるアタマを全力で回転させ、そこでようやく一つのことに気づいた。
────────「それは私の幻体よ」
「....そういうことですかッ!これは幻術ッ!なら対処法はッ!」
「気づいたのね。でもその魔術は使わせないわ!」
私の考えを遮るように砂塵から姿を現した彼女は"また同じ魔術を行使する"。でも、.
「もうその魔術は見た!」
「...ッ!」
息をのむ彼女を目視した瞬間、わたしは全力で前に走る。そして絶え絶えになった息でその魔術を叫ぶ。
「...ァッ!!!ダブルスペル!フローズンレイッ!!」
「凍った床なら燃やせばいいだけよ!フレアアウトッ!」
「ならもう一回ッ!!!届けぇぇッッ!フローズンレイッ!!!!」
彼女の魔術の熱が残留していたのか、凍らせたはずの床は爆ぜて燃え尽き、体勢を崩していた彼女は立て直し私めがけて走ってくる。先ほどと同じようにフィンガーナイフを取り出し一か八かを賭けて彼女の懐へ駈け込もうと走り出す。届け!と頭で叫び....そして息を大きく吸い叫ぶ
「アイシクルバインド!」
「なぁッ!!まだ魔術が残ってッ...!!!」
最後の願いを込めて張った氷の蔓は彼女を掴んで離さない。私は、必死にもがく彼女に────────────
「そこまでッ!!!!!」
私があと一歩で彼女にとどめを刺すところでアルス先生のあの魔術によって私たちの魔術がすべて崩れ去る。そしてアルス先生は口を開く。
「勝者、フィアット・セルジーネ!」
「ぇ...!?」
地面にひれ伏すフィアットさんを確認して...ぁれ?これは彼女のコートだけ...?そして後ろを振り向くと魔術を今にも発動しそうな状態で立っているフィアットさん。
あぁ!これは....!!
「これも...幻体...!!.....はは、完敗です。フィアットさん。」
私はそう言い残すとわたしのなかの何かが砕け、それと同時に意識を失った。
気が付くと殺風景な白い天井と不規則にチカチカと点滅を続ける蛍光灯が目に入る。手に掴んでいたと思っていたモノは砂のように崩れ去ってしまった。目の前に映る景色を見て、自然と涙がこぼれる。
「ぅ....ぐすっ......ぅぅ...ぁ......また、わたしは全部、ぜんぶぅ....レイラさぁ....ぁん、やくそく...果たせなかった.....せっかく...せっかくここまで手伝ってもらったのに...ぅぅう.....アルス先生にも...これじゃあ認めて....もらえなぃよぉ....ぅ...」
ここまで私を助けてくれていた、いや心の支えとなったレイラさんとの約束を果たせない。それすら果たせないただの人間に彼の指導を受けるなんておこがましい。そんなわたしの虚しい叫びは誰にも届くことはなかった。
─────────────ただ独りを除いて。
「誰に認めてもらえないって?」
わたしは目を見開き視界の端に映る彼を見てフリーズする。とめどなく流れていた涙も不思議と止まっていた。
「......ぇ....?.....あるしゅせんせぇ....??」
そんなわたしから彼への第一声は間抜けな一言だった。
わたしは様々な感情がめぐり、あたまの中がぐちゃぐちゃになってあられもないことを言いそうになるのを抑えるために自分の口を押えた。
「ぁぁああ、落ち着け落ち着け!、悪かったなフォルト嬢。急に話しかけちまってよぉ!ちょっとまってな~!おりゃッ!」
「...い゛だっ...!」
そう言ってアルス先生はべしっと私のおでこに絆創膏を張り付ける。おでこの切り傷がヒリヒリと痛む。
「なんだ、いろいろ俺に言いたいことがあるのはなんとなく伝わる。ただ、別に今じゃなくても大丈夫だ。」
だめ。放しちゃいけない。ここでどうにか決着をつけなきゃ。体は自然は彼の袖へと延び、しっかりと掴んだ。
「...っぁ....だめ....だめですっっ!!.....いまじゃないと、だめなんですっ!」
瞳は彼へと延び、アルス先生はぎょっとしたように振り返る。周りの音はかき消され、時計の長針の音が鳴る。わたしは覚悟を決めてその言葉を伝える。
「.先生!.....お願いです!わたしに魔術をおしえてください!!」
「....ッ!...き、きみは成績優秀だし、今のままでも立派な宮廷魔術師になれる。俺が教えることなんてひとつも...」
「わたしはどの先生でも、今代の賢者であるレイラさまでも、ましてや開祖たるイザベラ様でもない。...あなたに魔術を、いや、わたしを導いてほしいのですッ!!!」
わたしは逃げようとする彼を逃すまいとありったけの思いをぶつける。わたしはぎゅっと彼の袖を握った。あきらめてたまるもんか。
彼はわたしの顔と震える腕を交互に見て、片手を額に運び大きくため息をつき、目を見開く。
「.....お前が今口にした言葉。嘘偽りはないか。.....まぁ俺の弟子にする話はまぁ聞いてやらんことはないが、その情報、どこで聞いた。どこまで知っている。場合によっ...」
「せ、先生がしてきたことは、知ってますッ!」
「じゃあ...」
「でも、ここだけは譲れないんですっ!たとえあなたが人を殺めてしまってもッ!約束したんです!いつかレイラさんの隣に立つって!!もう嫌なんです!誰かを失うのはッ!!」
肩で息をするわたしにアルス先生は、取り繕ったであろう怖い顔を自然とやめ、ぎょっとしたように私を見つめる。「そのためにあなたが必要不可欠なのです」というわたしの魔術への思いは本物だと伝わったのだろうか。
わたしは沈黙する彼を前に息をのんだ。
「分かった。お前の思いはちゃんと俺に伝わった。....ニーア、俺の指導はその辺の奴らに比べて死ぬほど厳しいぞ。それでも.....なんて、聞くまでもなかったな。」
少しの間が空いた後、ぐちゃぐちゃになった視界の中で彼から延ばされた手を探し、今度はしっかり両手で掴み、精一杯の笑顔でその言葉を叫ぶ。
「よろしくおねがしますッ!師匠ッ!!」