婚約者が私をかけての決闘を令嬢と始めてしまった、受けて立たないで1
婚約者視点
パライバ辺境伯嫡子ランスロット。
鮮やかなブルーの瞳に金色の髪が麗しい。
この鮮やかなブルーの瞳はパライバ辺境伯家にて数代おきに不定期に生まれる。
癒やしと浄化の魔力が強く現れているからだ。
魔物がこの力を非常に苦手としているせいか、この瞳の子が生まれると魔物の大発生が起こる。
しかし、それを守るかのように隣のクォーツ伯爵家に尋常でない強さを持つ魔物を狩るために生まれてきたような金眼の子が生まれる。
辺境の地を、我が子を守るためにも金眼の子はパライバ辺境伯領へと婿入りをする。
二人も互いに惹かれ合うようで、いつしか「辺境の姫君と騎士」という物語まで出来てこの地では有名であった。
私、ランスロットが生まれたときパライバ辺境伯家はちょっとした混乱が起きた。
鮮やかなブルーの瞳の男児だったからだ。
今までこの瞳を持つ者は女児だったため、どうしたものかと思ったらしい。
翌年、隣のクォーツ伯爵家で金眼の女児が生まれたことで深く調べることはなくなったそうだが。
幼児といったものは絵本が好きなようで、挿絵と同じ鮮やかなブルーの瞳を持つ私は騎士への憧れを募らせた。
そして七つのときに私の騎士との対面をはたした。
一目惚れだった。
魔力の制御がまだ上手くいかないようで、薄墨のような瞳がちらちらと金に輝くのが本当に綺麗で。
「ランスロット・パライバです。ねぇ、騎士様のお名前は?」
そう聞くと
「アリーシャ・クォーツです。ずっと会いたかったです。わたしがあなたの騎士となりずっとお守りします!」
小さいながらも勇ましいその子は私の騎士なんだと、一目惚れって何回もするんだなと当時の私は思った。
会うたびに強くなるその子は辺境の地では早々に魔物討伐へ参加し、そのかっこよさに見惚れた。
十の頃に辺境へ視察に来た王太子殿下からは「おい、お前の婚約者は人間か?あれでは魔王よりも魔王ではないか…」などと失礼なことを言われたのも思い出である。
イラッときたので「殿下の初恋の人が僕だとバレたらどうなりますかね」と言い返したら黙った。
……幼少の頃は姉上を差し置いて“辺境の姫君“と呼ばれた実績がある。
さて十六を迎える年齢となり、貴族学院の入学となった。
領地経営はすでに習得を終えていたので学科はどうしようかと思っていたら、父からは騎士科を勧められた。
どうも私がアリーシャに守られて当たり前と甘えているように見えたと。
領主になったら魔物討伐の指揮をとることもあるので、戦い方を学んでこいと。
生来おっとりと過ごしてきていたので衝撃だった。
魔物もアリーシャがあまりにも簡単に討伐してくるので危機感も薄かった。
そして当たり前のように守られていた自分が恥ずかしくなった。
……せめてアリーシャの邪魔にならない程度には強くならねばと思った。
騎士科で過ごすようになると、アリーシャの強さが「あ、これ別次元だ。ありし日の殿下ごめん」と今更ながら気付いた。
軍を率いて倒すドラゴンを単独で「ランスの瞳の鱗をちょうど見つけたんだ!誕生日に渡そうと思って狩ってきたよ!」といい笑顔でプレゼントしてくれたアリーシャ。
あれは確か十二だったか…あの時も何気なく婚約者からのプレゼントをもらってと殿下に見せたら「何であいつあれ以上進化してるんだよ…怖ぇよ」とドン引きしていた。
「お前の言うことはきくんだな?そしてお前を守る存在でいいんだよな?!いいか、絶対に婚約は死守しろ」とそれはもう必死だった。
そして散々、クォーツ伯爵令嬢はヤバい。
人間の強さをはるかに超えてきている。
辺境の常識は一般の非常識と言い聞かせられた。
翌年のアリーシャの入学のとき。
本人が騎士科を希望していると知って、二人で全力でとめた。
「アーリャも年頃になったからね。今のアーリャもかっこよくて素敵だけど、私の妻になる人だからね。そういったことも学んでもらえると嬉しい」
彼女の好きな微笑みを向けていうと簡単に淑女科を選択していた。
殿下の将来有望な騎士の心が折れる、あれは騎士科へ混ぜてはいけない劇物という意見は黙っておいた。
……あの頃の私のように彼女も自分は普通だと思っていそうだったから。
「辺境の常識は一般の非常識…」思わず独り言がぽつりと出た。