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ランスはというと…空を仰いでいた。
何かあるのかしらと目を向けると、ごく小さな黒い点が不規則に動いている。
魔烏か。
嫌な気配はこれだったのか。
こちらに向かってきているが友人たちがいる方向。
「皆様!魔烏がこちらに!」
声をかけてからでないと、武器は向けられない。
獲物を見つけた魔烏のスピードは恐ろしく速い。
「はぁ?!何をいきなり言っているのかしら?」
こちらに歩みを進めるガーネット伯爵令嬢が邪魔だ。
「ギャアッ」
「きゃっ…痛!」
舌打ちをしながら、ガーネット伯爵令嬢を追いやると獲物…大好きな宝飾品を咥えて魔烏が旋回している。
「私の髪飾りが…」
友人の泣きそうな声がする。髪も少し乱れてしまっている。
この瞬間、あの鳥野郎も許さないリストに追加された。
「シトリン嬢、泣かないで。私がすぐに取り返してみせます」
すっと跪き、友人へハンカチを手渡す。
この場にいる騎士科の誰よりも騎士らしい仕草である。
次の獲物を物色するそいつを躊躇なく射る。
「ギャッ…!」
途端にバランスを崩した魔烏が急降下してくるので、その尾羽を掴んで組み伏せる。
中型犬くらいのサイズ感はあるそいつの嘴から髪飾りを取り返す。
取り返すと邪魔だとばかりにそのへんへ蹴飛ばす。
……ふむ、見たところ傷はついていないようだ。
「ランス、魔烏が触れたものだ。浄化を頼んでもいいか?」
もちろんと我が婚約者は浄化の魔法をかけてくれる。
これでよし。
友人に手渡し髪飾りの無事を確認してもらう。
「クォーツ伯爵令嬢、あの魔烏はどう撃ち落としたのですか?」
興味津々といった様子のランスの友人に口々に声をかけられる。
「風切り羽を数本、折っただけですよ。友人の髪飾りもありますし、仕留めても彼女たちへの刺激が強いのでただ落とすだけに注力したまでです」
「アリー!本当にありがとう。大切な、本当に大切な髪飾りなのよ」
泣き笑いながら髪飾りをぎゅっと抱きしめている友人に本当によかったと思う。
そこに馬の駆ける音がする。
学院の警備の…これは本物の騎士の方々だ。
「魔烏を追っているのだが見かけ…あれか?!」
ふらふらと魔烏はだいぶ低空飛行で逃げ出していた。
「君がやつを弱らせてくれたのか?大した弓の腕前だな!これでやつを追って捕らえることもできる」
騎士が声をかけたのは、その場でまだ弓を持ったままのガーネット伯爵令嬢だった。
「ありがとうございます」
小さな声でそう返事をした彼女。
「学院で宝飾品の盗難が発生していてな…あの魔烏を追わねばならない。急ぐのでこの礼はまた後程」
そう言って駆け出しそうな騎士を引き止める。
「これを…。魔烏の足に結んでいます。追うのに役立てていただければ嬉しいですわ」
騎士に渡したのは糸玉。
話している間にも少しずつ小さくなっている。
「これは助かる!」
「いえ、裁縫は淑女として当たり前のことですから持ち歩いているのです」
そう言ってにっこりと騎士の方々を見送りました。
「さて、ガーネット伯爵令嬢」
自分でも思ったより低い声が出てしまった。
「先程の騎士の方へ魔烏を射たのは自分ではないと否定しなかったのはどうしてなのか?」
騎士となる者としてこれは如何なものか。
「そんな…貴女がしたことなんて信じてもらえるわけはないじゃないの」
目を逸らしながらそう言うガーネット伯爵令嬢。
しんとした空気が広がる。
「そうですか、分かりました。弓は貴女が三本の的中。私が…二本ですね」
三本目は魔烏に使ってしまったから手持ちの矢はもうない。
「弓は貴女の勝ちですね。では、二本目の決闘といきましょうか?」
邪魔な前髪をかき上げて今度はこちらが睨みをきかせる。
先程までの薄墨のような瞳が今は金色に輝いている。
有無を言わせない圧に負けたのか、白い顔をしてガーネット伯爵令嬢は頷いた。