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婚約者が私をかけての決闘を令嬢と始めてしまった、受けて立たないで5

 怒れるアリーシャの瞳は金に輝く。

 魔力が揺れている。


「さて、次は剣術ですね。武器はレイピアを使用。武器を離すか倒れるかまでですね。」


 金眼のアリーシャを見て頬を染める彼女の友人を尻目にどんどん血の気が引いてくる。

 魔物の討伐ならまだしも人間相手にこの魔力はヤバい。


「アーリャ…もう本当に頼むから程々で。相手は人間。さぁ、復唱して」

 懇願する。


「心配いらない、ランス。人間と魔物の違いくらい分かっている。貴方との婚約を守るため全力を尽くす。安心して待っていてくれないか?」

「はい…」

 あまりのかっこよさに思考回路が停止し反射的に返事をしてしまった。

 止めないといけなかったのに。


「久しぶりの騎士のアリーだわ」

「なんてかっこいいのかしら…」

 ささやき合うアリーシャ友人たちに心底同意。

 アリーシャのかっこいいがとまらない。


「審判をそこの…オニキス伯爵子息に頼めないだろうか?」

「はい!かしこまりました!」

 お前は部下か。

 完全に威圧にやられて反射的に返事をしているな。


「レイピアは騎士科女子の中では一番だもの、大丈夫…」

 ぶつぶつと自分に言い聞かせているガーネット伯爵令嬢。


「それでは…はじめ!」

 オニキス伯爵子息が手を振り下ろし合図をした。


「ゴッ」


 と鈍い音が一つ。

 遅れてカランと金属音が。


 最初の構えのままのガーネット伯爵令嬢の首元にはレイピアが突き付けられていた。

 その手には何も持たないまま。


「勝負あり!勝者、クォーツ伯爵令嬢!」

瞬殺。

 危なっ。そしてよかった!ちゃんと手加減を覚えてた!

 金眼になっての手加減がかなりうまくなっている!


「な?え?」

 じんじんと痺れる手を見つめ呆然とするガーネット伯爵令嬢。


「なぁ、ランスロットはその…見えたか?」

 おずおずと友人が尋ねてくる。

「もちろん…と言いたいところだけど、レイピアを搦手で弾き飛ばしたところまででその後は何がどうなったか正直わからない…アーリャまた強くなって」


 久しぶりに見たアリーシャの剣筋はまた一段と磨かれたようだった。

 また差が開いてしまうな。

 騎士科にいってからそう悔しく思えるようになった。


「さぁ、これで五分ですね。三本目、次は武器は自由選択とします。さっさと終わらせるので早く選んでくださいね」

 袖からなぜか扇子が出てきた。

 ねぇ、何それ。私も初見なんだが何をするの?


「私はこの扇子で。仕込みはありませんがオニキス伯爵子息。念の為に確認を」

「はい!かしこまりました!」


 少し見やると鉄扇のようだった。

 見た目より重量はありそうだけれど、まぁ扇子だし死傷者は出な…くもなさそうだな。

 矢で岩を破壊するし、扇子も侮れない。


「確認しました!お返しします!」

 オニキス伯爵子息がアリーシャに扇子を渡したところで、ガーネット伯爵令嬢も準備ができたようだ。

 震える手で先程のレイピアを握りしめている。


 決闘も最終戦となる。


 アリーシャが扇子を口元にそっと添え、ガーネット伯爵令嬢はレイピアを構える。

 異様な光景である。


「それでは、はじめ!」


 間合いがかなり違うため、お互い慎重になっている。

 ただしばらく睨み合う時間が続く。

 ガーネット伯爵令嬢から玉のような汗が止まらない。

 呼吸も乱れてきている。


 あ。狩られる。


 アリーシャが一歩踏み込むと、ガーネット伯爵令嬢は踵を返して後方へ駆け出した。

 恐怖に負けたな。


「キィィン!!」


 高い音が鳴り、レイピアが根元から折れた。

 そしてガーネット伯爵令嬢の首にはアリーシャの腕が絡んでいる。

 ここまできたんだ、頼むから首の骨を折らないでくれよ?生かして帰してあげて。


「まだ、やりますか?」

 小さなアリーシャの声には殺気がはっきりこもっていた。もうやめてあげて。

「……ま…参りました…もう、やめて…」

 腰砕けになり、恐怖に打ち震えるガーネット伯爵令嬢。


「勝負あり!勝者、クォーツ伯爵令嬢!」


 その声とともにガーネット伯爵令嬢を投げた。

「化け物か…全く見えなかった」

「完全に魔物の圧を超えてる」

 ぼそぼそと会話をする騎士科の面々がガーネット伯爵令嬢の介抱にまわる。


「ランス!待たせたな!私の勝ちだ」

 褒めてほしいときの満面の笑み。


「さすがアーリャ。でも、言葉づかいが戻っているよ」

 無事に決闘は終わったけれど、なんかすごく精神的に疲れたなと苦笑いする。


「まぁ!せっかく淑女科で学んでいたのですが…気を抜くとだめですわね」

 ぼんやりとした擬態に戻ったか。


「私は貴方の騎士という思いが強すぎて…頑張りますわね」

「心強いよ。私の騎士はアーリャだけだよ」

 心穏やかになった会話をしていたらガーネット伯爵令嬢が復活した。


「あの、クォーツ伯爵令嬢…」

「まだ何か?決闘は終わりだ。騎士ならば引き際は弁えるんだな」

 ああ、せっかく戻っていたのに。


「あの…申し訳ありませんでした」

 未だにぷるぷると震えている。なんかこういう魔物見たことがあるな。


「何が?あぁ、茶会を邪魔したことの詫びならあちらのお二方へ」


「お二人も…申し訳ありません」

 絶対服従になっているな。


「かっこいいアリーが見られたので役得です」

「久しぶりに騎士アリーを堪能できたのでむしろありがとうございます」

 などと言う彼女たちには内心で大変に同意する。


「今後、一切お二人の仲を邪魔することはしません。ただ一つ質問を許してもらえますか?」

 鷹揚に頷くアリーシャ。あれかな、魔王というより覇王だな。


「なぜこんなにも強いのにクォーツ伯爵令嬢は淑女科へ?私よりずっと騎士に向いているじゃないですか?」


「私と王太子殿下がとめたからだよ。」

 アリーシャを淑女科へ促したのは私だからね。私が答えないと。


「アーリャは強すぎるから…騎士科の者の心が折れるか畏怖の対象にしかならないからね。殿下からも将来の有望な騎士のためにもアーリャの騎士科入りはとめろと厳命されてね。

そもそもが辺境で魔物を狩っているから、手加減も対人戦もあまり得意でないしね。あまりに強いから我が領では“魔王よりも魔王“との愛称で呼ばれているよ」


 さっきまでの完全な魔王っぷりに少しおかしくなってきて笑う。


「それにアーリャは私だけの騎士だから、別の者を守る演習なんてさせたくなかった」

 最後にそういたずらっぽく言って笑った。


「そうですか…」

 ガーネット伯爵令嬢から表情が抜け落ちている。


「そんな…そんなクォーツ伯爵令嬢の腕前を軽んじて…魔烏のときも」

 ぐすぐすと鼻をすするガーネット伯爵令嬢。


「私に…騎士を目指す資格などありません。相手の力量もわからな…」

「許しません」


 覇王、なぜ。


「私が淑女らしかったからこそ!見誤ったのです」

 淑女……。

 もう“魔王より覇王らしく“だろ。圧が強いよ。圧倒的覇者のオーラ隠せてないって。


「先程の魔烏の件ですが、このまま騎士を続けてあのくらい軽く射られるようになればいいのです。私が教えます」

「え…それはちょっと遠慮」

「やれますね?」


 新たな獲物を見つけた目をしている。私はそれを見ないふりをした。

「はい!」

 いい返事とともにガーネット伯爵令嬢の新たな地獄行きが決定した。





 その後、例の決闘にて死傷者が出なかったことを王太子殿下からたいそう褒められた。

 そして“魔王よりも覇王“を新たな愛称とすることで意見が一致した。


 アリーシャが嫁いできてから魔物の大発生も起こる前にことごとく潰していったため、辺境の地は平和である。


 ガーネット伯爵令嬢は近衛騎士として唯一の弓騎士として活躍していると聞く。


 その腕前で幾度となく魔物や暗殺からも助けられているとは王太子殿下の言。

「覇王が育てただけのことはあるな!まぁ、人間の範疇ではあるけど!」とお褒めの言葉をいただいたのはまた別のお話。


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