1 伝説の始まり
「お前はまたパチンコ行って!働きもしないで金ばかり使って、いいかげんにしなさい!」
「家にいる時は寝てばかりで何もしない。いったい何を考えてるんだ!」
うん、今日という今日はまずいかもしれない。
お父さん、めっちゃ怒ってるわ。お説教始まってから30分は余裕で過ぎてるね。
でも、僕だって、少しくらいギャンブルしたってよくない?
「お父さん、もうこの子には出て行ってもらいましょう‥
食べ物も勝手に漁るし、部屋は散らかすし、もうお母さん限界よ‥」
お母さん、そんなご無体なこと言わないで。
「つーか、いつもトイレ臭くて迷惑なんだよね」
お姉ちゃんさー、なんなのそれ。
じゃあ聞きますけど、あなたのおトイレは臭くないわけ?
絶対そんなわけないよね!
生けとし生けるもの、みなトイレは臭うものと古来より決まってるんだよ?
まあ、臭わない生き物いるかもしらんけど‥
トイレが臭いかどうかはどうでもいいとして、これはまずいね。
敵しかいない。
「みーちゃんはそんな悪い子じゃない!
どーしてみんなしてイジメるの!」
ひーちゃん‼︎
ここで、天使の登場だ!
美少女で、優しくて、声が可愛くて、勉強もできる天使、それがひーちゃん!
そして、いつも僕の味方。
まだ中学生だけど、将来はモデルさんとか女優さん、はたまたアナウンサーさんになって大活躍するレベル。
あ、中学生こそ至高ですとかいうのは結構ですので。
「ひより、そんな碌でもないヤツを庇うのはやめなさい」
「そうよ、ひーちゃん。あなた騙されてるだけよ。目を覚ましない」
「もうさ、追い出そーよ!このブサイク」
いやいや、僕も家族の一員ですよ?
ちょっとひどくないですかね?
そして、ブサイクて、あんたも顔は悪くないかもしれないけど、それでもひーちゃんに比べたらブサイクですよ?
なんかイライラしてきた。
おら、イライラしてきたぞ。
自分が悪いとはいえ、一方的に言い過ぎでしょ。
「みーちゃんは大事な家族だよ!追い出すとかおかしいよ!」
ひーちゃん、マジ天使!
いや〜、他のみんなもひーちゃんを見習うべきだね!
「そいつは家族じゃない」
ん?今なんて言いました?
「お父さん!なんてこと言うの‼︎」
ひーちゃん、なんで泣きそうなの?
「ひより、そいつは家族なんかじゃない」
「つーか、ゴミ?」
「ゴミはゴミでも、使えないゴミかしらね‥」
なるほど、僕はゴミなのか。
「グスッ、なんでひどいこと言うの‥」
ひーちゃん、なんで泣いてるの?
「今すぐここから出て行きなさい!」
いいよ、こんな家こっちから願い下げだよ。
自分から出ていってやるよ。
だから首根っこつかむのやめろ。
自分で歩けるから。
ドアから家の外に出された。
「みーちゃん‼︎」
ごめんねひーちゃん。
もう、一緒にはいられない。
ありがとうね。
僕は、全力で走った。
こんな全力で走るの何年振りだろう。もしかしたら、生まれてから1番の全力疾走だったかもしれない。
だって、ひーちゃんが追いかけてきてるんだもん。
僕は、ひーちゃんが笑ってる顔が好き、にこ〜てさ。
すごく可愛いの。まあ、天使ですからね。
僕のせいで、泣かしちゃった。
もう、僕のせいでひーちゃんが泣かないよに。
これで、このお別れで最後の涙になる様に、全力で走った。
「ふぎゃっ!」
あ、階段の下りでひーちゃんお尻から落ちた。
ほぼ階段終わりでよかった、不幸中の幸い。
でも痛そうだなー、お尻の骨とか大丈夫かな?
心配だけど、速度は緩めない。全力だ。
***
ふう、疲れた‥
心臓の鼓動やばかったわー、ここまでくればひーちゃんも追いつけまい。
ひーちゃん、足早くてびっくりした。
さすが天使だよね、ほんと。
さて、これで晴れて僕も野良になったね。
まずは、野良生活に慣れて、ゆくゆくは野良猫王を目指しましょうかね。
吾輩は猫である、名前はもう無い。