第7話・祖父母達から呼び出されたので久しぶりに逢いに行ったら・・・
「はい、どうぞ!」と、ドアをノックされた事に対して返事をすると、長い白髪を丁寧にオールバックにして、ビシッと執事服を着こんだ白髪の老紳士と若い二人のメイドさんが静かに入室して来る。
彼らが足音を一切立てずに病室に入って来た事から、ただの執事やメイドでは無い事も容易に想像する事が出来た。
「私、エド様の執事長を務めております。セバスと申す者でございます。そして後ろに控えるのが、」とセバスだと自己紹介した老紳士が丁寧なお辞儀をした後、後方に控える若いメイドに視線を送ると順番に、「ネイザーです。」「パトリシアです。」とメイド服の裾を持ち上げて丁寧にお辞儀をしながら名乗った。
「本日は、お二方様のご祖父様であられますエド様が、
『今夜は、久しぶりに可愛い孫達と一緒に晩餐を囲みたい気分じゃ、そうじゃセバス、ジェスターとジンの二人が良いな! 特に最近のジェスターは忙しくて満足な食事も取れて無いと聞き及んでおるからの〜
そうじゃ、孫思いの爺ちゃんが可愛い孫に美味い飯をたらふく食べさせてやるから遊びに来い!と申していると言って、ココに連れて来るが良い!』と私にお申し付けになられまして、このセバス、お二人方をお連れに参った次第に御座います。
そしてブリュンヒルド様、失礼を承知で申し上げます。
我が主人が『私の可愛い孫の、可愛いお嫁さんの姿を見ながら孫と一緒に楽しい夕餉の時間を過ごしたいと思うが、私の可愛い孫のお嫁さんの都合はどうだろうか?』と言う事でご・・・ 」
「妾に依存はないぞよ!」と、老執事のセバスさんが祖父からの口上を全て言い切る前にヒルドは快諾してしまっていた。
しかも私は、祖父からの誘いを受けるとも何とも返事すらしていないのに・・・
「はっ! 快諾して頂きこのセバス感激の至に御座います。」と右手を心臓の位置に添えて深く腰を折る。
そして今度は、ジェス兄さんに付いて来ていた女性の方に体を改めて向けると、
「メイヤー様、貴方様も是非ご一緒にと主人から申し付かっております。」と言いながら、再び右手を心臓の位置に添えて浅く腰を折ったが、何故か?その姿が『この申し出を断ったらどう言う事になるか?重々分かっておるよな?』と言っている様に見えてしまったのは、私の気のせいだろうか?
そして、やっとジェス兄さんに付いて来た女性の名前も知る事が出来た。
そのスキのない所作を見ただけで『普通の執事やメイドでは無い』と言う事は容易に推測する事はできたが、多分、レベル100桁は余裕で越えていて、戦闘系のスキルもテンコ盛りの執事長さんとメイドさんなんだろうなって思う。
だって、私やジェス兄さんの祖父の所の使用人が迎えに来たのだから、それは王宮からのね~
それに、ジェス兄さんと一緒に私の病室に来ていた女性は『メイヤー様』と呼ばれていたけど、何故だか?ネイザーとパトリシアと名乗ったメイドさん達とは知り合いの様な気がする。
だってメイドさん達、表情は澄ましたままだったけれども『メイヤー様』と呼ばれた女性に対しての視線がまるで・・・
『やってくれたわねぇ~あんたわッ! 私もジェスター様を狙っていたのに~!
第一、この所忙しい忙しいって言って、碌に実家にも帰って来ないから真面に情報交換も出来なかったし! 一体どんな手管を使ってジェスター様を攻略したのよ~! 私にもその手管を伝授しなさいよ~!』とか?
『先輩、ジェスター様のお心を射止めるなんて流石です! どんな方法を使ってジェスター様のお心を掴んだのですか? やはり私には無い、その無駄に大きな胸ですか? 日々多忙なジェスター様を毎夜その大きな胸で包んで癒して差し上げていたのでしょうか? やはり理想の殿方を射止めるには大きなお胸を装備してないとダメなんでしょうか? 先輩!是非、次のメイド連絡会の会合の時には、その辺の所を詳しく! イイエ!私から議題に挙げて根掘り葉掘り聞き出したいと思います!』と目だけで訴えている様に見えて・・・
ああ因みに、未だにフリーズしてたドドルフ達は、何処からか現れた黒服の集団に拘束されて連れていかれました。
その後、見た目は質素だが、内装は豪華な作りに成っている馬車に押し込まれて向かった先は、まあ分かってはいたけれど、案の定王宮内に作られた王族達のプライベート空間の一つの『水の離宮』と呼ばれている。
王宮内の広大な敷地の中にある泉の横に建てられた建物に案内された。
離宮に入ると、既に三人の人物が離宮内のリビングでゆったりしたソファーに座って談笑していたが、私達がリビングに入ると三人ともが立ち上がって私達を迎え入れてくれて、代表してジェス兄さんが挨拶をしようとしたが、それを遮るように三人は床に片膝を就き、
「ブリュンヒルド様、お初にお目道理りさせて頂きます。 私、このアルバ王国第5代目国王の・・・ 」と私の祖父であるアルバ王国国王『エドガード・フォン・アルバトロス』が、ヒルドに挨拶をしようとしすのを、
「おじい様、本日のお招きありがとうございます。今夜はおじい様の孫の嫁として参上させて頂きました。ですからそれ以上は・・・ ネェ旦那様♪ 」と止めるので、私もヒルドの意を汲む事にした。
「と!いう事らしいですよおじいちゃん」と言いながら私が祖父を立たせると、ジェス兄さんのお嫁さん?若しくはお嫁さん候補のメイヤーさんがおばあ様を、そして祖父の兄でありアルバ王国宰相を勤めるガドナード・フォン・アルバトロスを、その場から立たせていた。
「ブリュンヒルド様、感謝申し上げます。」
「おじい様、今、この場では私はジン様の嫁、つまりはおじい様の孫の嫁、つまりはそう言う事です。」
「・・・ では、ジンの可愛い可憐なお嫁さんと、ジェスターの美しい婚約者のメイヤー嬢を囲んで、楽しい夕餉にするかのう?」と陽気に宣言した。
しかし、最初に祖父が小声で『有難きお心遣い、このエドガード一生忘れません』と言っていたのは聞き逃さなかった。
そして、国王である祖父が『ジェスターの美しい婚約者のメイヤー嬢』と言った時点で、ジェス兄さんのお嫁さんとしてメイヤー嬢が認められて、私たち家族の一員に成った瞬間でもあった。
その後、楽しい夕食のひと時を過ごした私達は、全員で広いリビングへと場所を移す事となった。
無論、王族のプライベート空間である為に、その室内には家族以外は誰も居ない・・・
そんな事もあり、話題は、今日ドドルフから知り得た『某貿易都市国家と某帝国が共謀して企む、とある王国への侵略』についてとなった。
「しかしジェスター、ギルド総長の立場として今回の某貿易都市国家と某帝国の陰謀はどう見る?」
「まあ某貿易都市国家が仕掛けてきている経済戦争に関しては、現状は完全に我々の劣勢でしょうね、実際に相手が仕掛けて来てからもう3年以上の月日が経過しています。もう敵の情報網もかなり根深く潜り込んでいるでしょうし・・・ 」
「ああ、既に王国国内の3割弱の貴族達が某貿易都市国家の紐付きにされているとの情報もあるし・・・ 」
「まあ南方の某帝国に関しては、ジンの父親のダンがおれば当面は心配無いとは思うがのう?それに、何年か前に某帝国ご自慢の戦闘に特化したゴーレム15万の軍団が、何故か?王国の南方に在る山脈付近で何者かに全滅させられたと言う噂も報告の一部としては聞いてはおるが、まあ某帝国国内での事ではあるし・・・ 某帝国も必死なのじゃろう、確認に赴いた暗部の者達が誰一人帰って来んから確認のしようもなしじゃ・・・ 」
「・・・・ 」
「どうしたのヒルド?」
私の横で真面目に話を聞いていたヒルドが、眉間に皺をよせて何か?を思い出そうとしている姿を見て、少々気になったので聞いて見たら、
「その泥人形、もしかしたら潰したのって、私かもしれない・・・ 」
「「「「「 はああ〜〜〜? ・・・ 」」」」」
ヒルドの呟きに、私以外の皆の口から思わず『信じられない事を聞いてしまった・・・』とか『ちょっと待って』とか『15万のゴーレムの軍勢を?』とかの意味を込めて、深〜いため息が漏れる。
「のう旦那様、妾と初めて出会った日の事は覚えておるじゃろう?」
「もう5年ぐらい前になるかな? ヒルドが僕の首筋に『一目惚れしたのじゃ〜♫』とか?言いながら、キスして来て、いきなり婚姻の契約をして来た日の事だよね?」
「そうじゃ、あの日じゃ♫ であの日、妾が言っておった事は覚えておるかの?」
「確か?『寄り道して遊んでおらずに、真っ直ぐ来るんだった』的な事を言って、かなり残念がってたよね?」
「ああそれじゃ、それじゃ! その時の事じゃ!」と、当時ジンが暮らしていた故郷へヒルドが訪ねて来た際の出来事を話し始めた。